#1
人生は複雑だ。
絶望の淵に立たされたとしても正義のヒーローが飛んできたり、
彼氏ができなくても白馬の王子様が迎えに来てくれたり、
なんてことはまるでない。
私の生きている現実は、
なんかもっとこう、複雑で、不安定で、残酷だ。
赤とか橙とか桃みたいに明るい色だけじゃない。
黒とか青とか灰とか。一色や二色じゃなくて。
絶妙な色のバランスが、私の人生を彩っている。
・・・
いたるところにまだ夏の香りが染み付いている新学期の教室。残暑なんて言葉はまだ早い、夏の終わり。教室の窓を吹き抜ける水色の風がポニーテールをなびかせる。そんな教室にワタシとセンセーの二人ぼっち。
センセー。なんだかずっと考え事してる。
一人娘が今年から幼稚園に入園して、幼稚園行きたくないなんて駄々もかわいいはずなのに、どこかボーッとしてる。
『センセー、ワタシ最近なんか変な夢ばっか見てしまうんやけど。』
【変な、ってどんな?】
『それが忘れちゃうねん。』
【覚えてないのかよ。気になるから言うんじゃないよ。あっ、そういえば...】
『どしたん?』
【いや、やっぱりなんでもないや。】
『へへっ、なんだそりゃ。じゃ、帰る〜。』
遠くに聞こえる吹奏楽部のチューニングが嫌に大きな音に聞こえる。そんな大きな音に反して、二人はかすかな声を自分の心に響かせた。
『今日も言えなかった。あの変な人形のこと...』
【今日も聞けなかった。あの変な人形のこと...】
ワタシが出会った謎の人形との物語。
ワタシの高校生活のうちの、たった1095分の100日間の小さな日常。
あの日々をフィルターをかけずに伝えること。
それが、ワタシのできること。
それが、ワタシがしなきゃいけないこと。
それが、ワタシが人形から教えてもらったこと。
→→→ #2