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Is there a reason? モラトリアム  作者: UU(うゆう)
2章
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2章 ジェラシーって怖いねー

多分この後二回ぐらい使って、二章終わります。早速予期していた通り、一章と二章の長さがだいぶ異なってしまいますが、水に流してもらえると助かります。多分今後も波が激しいと思うので。

起き上がると、私はベッドの上にいた。自分のベッドではなく、周りを確認するも、見覚えの無いものばかりだった。カーテンを開けるとあたりは暗く、すっかり夜だった。正確な時間は分からないが、数時間は気を失っていたようだ。記憶が正しければ教室で倒れこんで、それ以降覚えていないので寝てしまったのだろうが、ここは一体どこなのだろうか。服も着替えさせられているし、いろいろと整理がつかない。寝起きのせいか熱のせいか、頭もまだはっきりしない。おでこに乗っていた濡れたタオルを取り、部屋を出ようとベッドから降りると、扉から見知らぬ少女がタオルの替えを持って入って来た。起き上がった私に気づいた彼女は、慌てて部屋を出て行った。

「み、皆さん、起きました!」

多分さっきの子の声だろう。どうやら彼女以外に何人かここにいるらしい。助けてくれた立場なのだろうが面倒なことになってきたと思ってしまう。これからコミュニケーションを取らないといけないのも、大きな問題だろう。少女が出て行ってから最初に戻ってきたのは、以前会った烏原雪平と今朝会ったばかりの兎川如月だった。いや、そもそも今朝で正しいのか。

「犬石さん、大丈夫ですか?」

「熱は?痛いとこある?」

勢いよく詰めてくる彼らの圧力に押され、再びベッドに倒れこむ。

「こらこら、犬石さん起きたばかりだろうし、そっとしといてやれ。まずは状況を説明してからだ。」

後ろから聞き覚えない声がした。その落ち着いた声の主である男性が部屋に入ってきて二人を遠ざけてくれた。

「ま、頭がはっきりしたらリビングに来な。こっちもいろいろと聞きたいからね。」

大人びた彼はそう言い、皆を部屋から連れ出して去っていった。ここにいても何も始まらないので、とりあえずベッドから起き上がり、リビングへ向かうべく歩き始めるが、右足で一歩踏み出すと激痛が走り、踏ん張ることが出来ず倒れてしまった。右足を見ると包帯で巻かれていた。スパイクで踏まれてできた傷なんて大したことないと思っていたが、意外と重症なのかもしれない。

「大丈夫?」

転んだ音を聞いて兎川先輩が戻ってきた。右足を抑える私を見て、慌てて私の前に座り込んだ。

「立てる?無理しないで、手を貸すから。」

そう言って彼女は私の右腕を持ち、首にかけ右手でつかみ、左手で私の脇腹をつかんだ。そこはあざが出来ていたらしく、彼女がふれたところに痛みが襲う。それに気づいた彼女は慌てて両手を緩め、地面におろしてくれた。誰かを呼びに行くのかと思いきや、今度は私の両手を彼女の首の周りに置き、両足をもって一人で持ち上げた。

「おんぶするから捕まっててね。」

先に言ってくれ、と思っている間に彼女が歩き始めていたので、彼女の背に乗ってリビングらしき場所へと連れてこられた。正直この年になって知らない人数名の前で負ぶさっている姿を見られるのは恥ずかしい。彼女からしてそんなこと言っている場合じゃない、という感じだろうが、週一ぐらいで気絶する私からしては怪我よりこの状態の方が問題だ。

「お、兎川さん力持ちっすねー。」

また知らない声が聞こえたが、今は彼女の背中に顔をうずめているので見えない。彼女がソファーに下ろしてくれ、一息つく。感謝の一礼をし、彼女がそれに対して「どういたしまして」と言葉で返す。時計を見ると午後七時を回ったところで、深夜ではないことに一安心した。

「星光さん、準備オッケーです。」

兎川先輩がそういうと、さっきの大人びた男性が歩いてきて、机を間に私の正面に座った。

「説明の前に、まずは自己紹介だな。」


皆の名前を聞いたのち、この家の持ち主である孔雀星光くじゃくほしみつ先輩が、私が気を失った後何があったかを説明してくれた。事細かに説明してくれたが、要点だけ言えば彼らが私を見つけて家に連れ帰り看病してくれていた、といった感じだ。今私が着ている服は兎川先輩のらしく、寝ている間に着替えさせてくれただけでなく、体も洗ってくれたらしい。と言うことは彼女に私のあざや傷を見られたということになる。あまり見られたくなかったのだが、無防備に倒れていた私に落ち度があったと言える。

「ま、そんなもんかな。次は、どうして君が倒れていたのか説明してくれるかね?いじめを受けている噂は耳にしたことがあるけど、それによるものかい?」

彼の問いに対して首を縦に振って答える。伝わっていないのか、星光先輩から次の言葉が出てこない。困ったものだ、“はい”はいつも首を縦に振るだけでいいと思っていたが、これが通じないのであれば、どう伝えるべきか。

「そっか、喋れないんだったな。じゃあ、メールで打ってくれるか?ケータイはっと...」

どうやら伝わってはいたが、まだ続きがあると思い、私の返事を待っている状態だったようだ。

「取ってきましたよ。」

私を下ろしてすぐさま去っていった兎川先輩だったが、どうやら私の携帯をと入りに行ってくれていたらしい。これがあればコミュニケーションは取れるが、取れたら取れたで全部話さないといけないから、いろいろ隠しづらくなった。

「はい。後これ私のID。登録してくれる?」

私の携帯と一緒に彼女のも渡された。当初は友達登録するつもりなんてなかったのだが、今拒否権はない。素直に従おう。

→助けてくれていただき、ありがとうございます。

とりあえず起き上がった時にまず言うべきだったことを打つ。

→どういたしまして!

返信が来た。

「いやお前は喋れよ。俺ら会話に参加しづらいだろ。」

孔雀先輩がつっこみを入れ、私以外は普通に会話をするようになった。

→倒れていた理由はいじめで合っています。

とりあえずここから話を始めることにした。と言ってもこれで終わりなのだが。

「それだけ?いや、いじめの度を越えてるだろ、どう見ても。」

先ほど醜態をさらしているときに聞こえた声。彼は烏原雪平の兄、烏原うばらつつじ。私たちの学校に通っていないらしいが、見た感じそんなに年が離れているようには見えない。

→これだけやられるのは月に一、二回だけです。

「いや、十分だよ。ってか毎日いじめられてんの?」

→はい。

「モデル辞めたのもそのせい?」

→はい、体中あざだらけで、使い物にならないと言われました。

「うわー、そりゃかわいそうだな。」

彼の言う通り、私は半年前にモデルを辞めた。暴力の含まれたいじめが始まるとともに露出度の高い衣装が着られなくなり、仕事はどんどん減っていき、最終的にはやめることになった。

「いじめられている理由とかに心当たりはある?」

つつじさんとのラリーが終わり、今度は兎川先輩に問われた。

→いじめは入学当初からありましたが、その時は冷やかしや嘘の噂を流される程度で、暴力は振るわれなかったです。暴力を振るわれるようになった原因の心当たりは一応あります。

「噂流される程度って。ま、それは置いといて原因は何?モデル業の嫉妬とか?」

→入学当初のいじめの理由の大半は嫉妬によるものでした。その妬みで嘘の噂を流され始め、私は悪名高い存在になりました。

「ジェラシーって怖いねー。そんで?ボコられるようになった原因は?」

その質問に答えるのを私は渋った。結構噂になっているからつつじさん以外はすでに知っているかもしれないが、それでもあの記憶は思い出したくない。可能であればなかったことにしたい。

「答えたくなかったら答えなくていいよ。」

「ああ、思い出したくないこともあるだろう。無理強いはしないよ。」

からかうように話してくるつつじさんと違い、兎川先輩と孔雀先輩は優しく、返しやすい言葉をくれた。

→ありがとうございます。おっしゃる通り、あまり思い出したくない記憶なので、今は話したくありません。よろしいでしょうか?

「ま、俺らに強制させる権利はねーべさ。でも話した方が楽かもよ?」

「兄ちゃん、やめてよ。犬石さん答えたくないって書いてるじゃん。」

「ああ、ちゃんと読んださ。だからと言って俺がさっきの発言をしてはいけない訳ではないだろう?可愛い弟よ。」

「そうやっていつも屁理屈言って。」

「屁理屈だからってそれに言い負かされたら意味ねーだろ?」

→今日はいろいろありがとうございました。これ以上ご迷惑をおかけしたくないので、おいとまさせていただきます。

自然と話が逸れ始めているので、今が帰宅するチャンスだと思い、そう送信した。兎川先輩と星光先輩がそれに気づき、こっちを向いたので深く一礼し、立ち上がる。右足を引きずりながらリビングを出ようとする。

「待って待って、まだ安静にしておいた方が良いよ。熱もあるんでしょ?」

「部屋は空いてるから泊っていっても構わんぞ、俺は。」

彼らは優しいな、と心の底から思う。二人とも何かしら自分の問題も抱えながらも他人に手を差し伸べることができるなんて、凄いことだと思う。でも、人にお世話になるのは苦手なので、断ろうと思った。

「そそ、また道端でぶっ倒れてたら困るんよ。貴重な家での時間を弟のSOSで潰された俺の身にもなってみんさいよ。」

つつじさんの、答えての選択肢を削る言葉で、私は打つ手がなくなった。全く、卑怯なっ人だ。

→それでは、申し訳ございませんが、今夜泊めさせていただきます。

そう送り、四人が兎川先輩の携帯を見る。もう少し面倒になるのはやむを得ない。

「やったー、今日はみんなでお泊り会だ!」

「ならさっそく、夕飯の支度しないとな。」

「私手伝いますね。」

「俺もできることあったらやりますよ、買い出しとか。」

「兄ちゃんは帰らないの?」

「え、俺泊っちゃダメっすか?」

「別に構わんが、ベッドがな。」

「あ、毛布一個ぐらいかしてもらえれば、地べたでいいっすよ。」

いきなり騒ぎ出す彼らを見ていると、まるで誰か違う人の人生を歩んでいるように感じる。こんなことになるなんて、数時間前の私は思ってもいなかっただろう。

「あ、あの、犬石さん。」

誰かと思えば、私が起き上がった時にタオルをもってきてくれていた少女だった。彼女が手にしていたものを見て、少し驚いた。それは数時間前捨てたと言われた私のブレザー、しかも破れていた個所を縫い合わせてくれている。携帯でお礼の言葉を打とうとしたが、それを送っても彼女に送られないと気づき、深く一礼した。

「そ、そんな畏まらなくていいよ。それに見つけてくれたのは牛岡うしおか君だし。」

彼女から修復されたブレザーを受け取り、もう一度お辞儀をする。私たちに気づいた兎川先輩が目の前のつぶらな瞳の少女に携帯を渡し、キッチンへと戻っていった。

→わざわざ修復までしてもらって、ありがとうございます。

私のメッセージを見た彼女が、さっき兎川先輩が最初したようにメッセージで返信された。

→どういたしまして!私は夏目なつめみかん。兎川さんたちと同じ高校二年生です。これからもよろしくね、犬石さん!

先輩だったことを今知り、少し驚いた。その幼い容貌から後輩だと思い込んでいたが、口に出していないからセーフだろう。

→よろしくお願いします。

無言のコミュニケーションが成立したのち、お互いよろしくの意を込めて一礼する。私は決して耳に障害があるわけではなく、普通に話してもらっても構わないのだが、彼女は気に入ったのかメッセージでの会話を続けた。

→下の名前で呼んでいい?

→はい。

「じゃあ、よろしくね、六海ちゃん!」

許可はしたが、ちゃん呼びで名前を言われるのは久しぶりで、可愛がってくれたマネージャーのことを少し思い出す。キッチン越しで聞いていた二人が会話に参加してきた。

「じゃあ私もそう呼ばせてもらうね。だから六海ちゃんも私たち好きなように呼んでね。」

「俺は犬石さんのままで。あ、俺のことはできれば下の名前で呼んでくれると助かる。孔雀って呼ばれんのあんま好きじゃなくてな。」

今の私に声で名前を呼ぶことはできないが、彼らもそれを承知の上で言っているのだろう。

「なーなー犬石さん、いつから声でなくなったのさ?モデルのプロフィールでそんなこと書いてなかったよな?」

そう言いながらつつじさんがこっちに来た。この人とはあまり会話をしたくないのだが、これについては他の人も知りたかったのか助け舟を出してくれなかった。答えることがやむを得なくなったのだが、どう説明すればいいのだろうか。実際私も原因は知らないし。

「当てて見よっか?ズバリ、暴力的ないじめを受け始めたぐらいでしょ。」

一応時期はそれであっているので、頷く。

「あったりー!ま、だからと言って原因についてはこれっぽっちも思い浮かんでないんだけどさ。そんで、原因は分かってんの?まさか喉やられたとかじゃないよな?」

→原因は私もわかりません。いつかを境に、声が出なくなっていました。物理的ダメージでこうなったわけではないと思います。

「ほーん、なるほどねー。何かの精神的な病気にかかっちゃったってワケ?」

→一応医者に確認してもらいましたが、病気に当たるものではないらしいです。

「へー。でもここの医者ポンコツばっかじゃん?ま、実際は神の味噌汁って感じかね。」

「何それ?」

「ジョークが伝わらん奴だな。これだから子供は。」

「兄ちゃんだって子供じゃん。」

「年はどうあれ一応社会人だ、一緒にすんな。それにそういう意味じゃねーし。ま、ともあれ、あんさんのいじめが過激になった原因を教えてくれんとこっちからしては声の件に対しても、いじめ自体に対しても何もできん。俺に聞かれるのが嫌だったら話す人選んで話しても構わねーけど、考えるお頭は多い方が良いんでないの?」

癖のある話し方で理解に時間がかかったが、彼の言うことは筋が通っているから断りづらい。へらへらしている表情で的確に指摘されると、無性に腹が立つ。→話します、と送信した直後に、彼がまた口を開いた。

「ってかさ、皆さん方は知らねーの?同じ学校の人たちだろ、噂ぐらい聞いたことあるんじゃねーの?おめーはどうなんだ、雪平?」

「中等部と高等部の間には一応ちょっとした壁が出来てるんだよ。だから高校生の事情なんてほぼ耳にしないよ。」

「私は、申し訳ないですがそういう情報には疎くて、聞いたことがありません。」

「ごめんなさい、私もです。」

「俺は聞いたことはあるが、情報に誤りは多いだろうし、あまり語れんな。」

星光先輩以外は全く知らないらしい。結構幅広く伝わっていたと思っていたのだが、彼らを他の学生たちと同じように考えるのは間違いなのだろう。偏見は良くないが、雑談部なんて部活に入っている人たちだ、何かしら癖の強い人が多いのだろう。

「んじゃ、本人から聞くしかねーな。話してくんないかなー?」

もう話すって送ったのだが。幸い、数秒後携帯を持っている夏目先輩がそれに気づき、皆に伝えてくれた。さてと、何処から始めたらいいか。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。数時間前寝ますと宣言して、一時間ぐらいベッドにこもったけど寝付けなかったので、私の強制シャットダウンが発動するまで起きてることにしました。昼夜逆転?よくあることさ(他人事)

さてと、ボケるのこれぐらいにしておいて、今回でようやく犬石さんと初期メンの絡みがちゃんと始まりましたね。ん?一人足りない?まあ、主人公は遅れて来るって言いますし(多分二章はほぼ出番ない)。

一章でちょこっとしか出ていなかった雪平君にも少しスポットが当たり始め、いきなり彼の兄登場はしばし合意かと思いましたが、話の都合上ここで入れておきたいので、そうさせていただきました。結構癖の強いキャラですが、重要人物なので、これからの活躍に期待していてくれると、うれしいです。どっかの誰かと違い、他キャラとの絡みが多いので。

では、馬車馬のごとく次の回も書き始めます。最後までありがとうございました。

需要の無い裏話:犬石さんがメールで返信するところ、区別するために斜体にしていたのに、コピペしたら直ってしまったので矢印を入れることにしました。

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