1章 いや、お茶冷めてるから
一章のラストです。一応新キャラ出ます。
「俺らの雑談部では、毎日お題を決め、それについて雑談するだけ。肩書上はディベート大会とかのための部活だけど、いつも人数不足を言い訳にして出ないから、本当にただ話すだけの部活。話す内容に統一性はないし、需要の無い話や趣味の話、ひどい時は愚痴りあいもある。まあ、だから、主な活動内容は、部活の名前通り雑談するだけ。それ以上でもそれ以下でもない。一応話したことはメモするけどね、部長会議で活動内容を話すときに必要だし。ま、その時も半分以上でっち上げた内容の報告だけど。顧問も全く来ないし、遊び場ならぬ話し場、ってところかな。話し終わったら、基本自習とかで時間潰して、下校時間になったら解散、と言うのが基本の流れ。何か聞きたいことある?ま、体験した方が分かりやすいと思うけど。」
兎川さんは何も説明してくれなかったし、部活の説明を聞くのはこれが初めてだったので、少し驚いた。こんなルーズな部活が現実に存在していたなんて、世界は広いのだな、と思った。
「えーと、部員は三人だけなのですか?」
「そうだな。夏目さん除いたら三人だけ。よく中等部の奴が一人遊びに来るけど、この部活一応高等部のみの部活だから、正式部員は三人だけ。」
「そうなんですか。」
彼が言ったように、この部活は本当にただ仲の良い三人が集まる話し場なのだろう。私がその輪に入っていいのか分からないが、如月さんは入部を進めてくれたし、星光先輩もその気だったらしいので、ありがたくいさせてもらおう。ぶっちゃけ如月さんと一緒にいれば活動内容は気にせず入部するつもりだったが、話すだけなら私でもできるので、少し安心した。
「他に何かある?」
「あ、いや、無いです。」
「なら、始めるか、話し合い。さっき言ったように、夏目さんが決めていいよ。何か話したいこととかある?」
「えーと。」
いきなりそう言われても、何も思いつかない。さっき星光先輩はいろいろな内容を話していると言ったが、そのいろいろがどんなものなのか想像がつかないし、というか、まず彼らのことをあまり知らないので、ちょっとした自己紹介をしてもらえると助かるのだが――
「ま、来たばかりでいきなりお題決めさせられても困るよな。どうしようか。」
「なんか学生らしいお題が良いですよね。」
「そうだなー。」
私は何も言ってないのだが、兎川さんと星光先輩の二人で話が進んでいく。二人が悩んでいると、部室のドアが勢いよく開き、声が響いた。
「ホシニー、キーネー、ショーニー、来たぞー。」
振り返ると、そこには身長の低く、陽気に笑っている少年がいた。制服は私たちと同じだが、ネクタイの色が赤色であることから、彼は中等部の生徒ということになる。であれば、多分星光先輩が言っていた、よく来る中等部の子とは彼のことだろう。
「雪平、入るときはノックぐらいしろって、何回言えば済むんだよ。」
「いいじゃん、別に。それより、お姉さん誰?」
無邪気な少年は扉を閉め、駆け足で空いている席に座った。
「え、えっと、これからこの部活でお世話になる夏目みかんです。よ、よろしくお願いします。」
「おう、俺は烏原雪平、よろしく!」
「おい、俺ら以外の先輩にはちゃんと敬語使え。」
「へーい。」
なんか、彼以外の三人が大人びているせいか、彼がものすごく幼く見える。やんちゃな子供を叱るお父さん、そんな感じの図だ。そんな彼が入ってきてくれたおかげで、私の場違い感も薄れ、少し居心地がマシになった。
「で、お前が来るときは何か話したいときだろ?言ってみろ。」
「いいの?」
「うん、ちょうど話のネタを求めてたところだし。みかんちゃんもそれでいい?」
「あ、はい、もちろんです。」
全員分のお茶を入れてきてくれた牛岡君が席に着き、全員が座っている状態になった。全員聞く体制が整ったので、烏原君が話し始めた。
「この頃さー、気になってる人がいるんだー。でも俺馬鹿だから、どうすればいいか分かんないんだ。だから、ホシニー達にアドバイスしてもらおーって思って来た。」
「ストレートに言うなー、お前。」
「いやだってさ、どうすればいいか分かんねーんだもん。」
「ま、それはいいとして、恋バナか、地味に初めてだな。」
「いや、そういうのじゃないって。」
「そうですね。二年以上話してきましたけど、お題として上がりませんでしたもんね。」
学生なら結構メジャーな話題だと思っていたが、そうではないのか。普段どのような会話をしているのか、全く見当がつかない。それより、ド直球に悩み相談を投げかけたのに、恋バナと言われたら照れる烏原君、ピュアな子なのだろう。それとも、自分がストレートに言ったことを自覚していないのか。そしてそれをスルーする三人も、流石といったところか、多分しょっちゅうのことでリアクションを取るのも面倒なのだろう。
「で、その気になってる子って誰なの?」
「えっと、一個上の犬石先輩。知ってる?」
「あー、一応、名前ぐらいはな。如月は?」
「すみません、初めて聞きました。みかんちゃんは?」
「私もです。」
「ってか雪平、お前は彼女のことどれぐらい知ってるんだ?」
「いや、あんまり知らない。」
「じゃあ、彼女が元モデルだってことも?」
「え、そうだったの?」
「知らなかったのかよ。」
そう言った星光先輩は、携帯で彼女のプロフィールを調べ、私たちに見せてくれた。犬石六海、十六歳。確かにうちの学生であり、半年前に活動を中止していると書かれている。画面に映っている彼女はモデルと言うだけあって美人で、クールビューティーと言う言葉が当てはまる。星光さんほどではないが、かなり大人びた雰囲気で、私より年下であることが驚きだ。
「美人さんだね。」
「そうですね。」
「でも、なんで活動中止なんだろう?このサイトには書いてないし、何かあったのかな?」
「あー、俺一応理由の検討はついてるぞ。」
「え、何ですか?」
「そりゃー彼女、うちの学校内でも群を抜いてハードないじめ受けてる人だからな。そんな状態で仕事は続けられないだろう。」
「え、そうだったの?」
「お前、何も知らないんだな。逆に何知ってんだよ。」
「名前と学年、ぐらい。」
「好きになった理由は?」
「だから、好きとかじゃねーから。」
「外見じゃないですか?っていうか今の情報でそれ以外ないですよ。」
「そうだな。」
「だーかーらー、そういうのじゃないって。」
兎川さん、星光先輩、烏原君の三人がメインで喋り、私は相槌を打つだけになっている。まあ、恋愛に詳しくないから仕方がないか。牛岡君なんて部室に入ってから一言も話していないし、それについてだれもつっこまないし、話し合いの流れはいつもこんな感じなのだろう。であれば、私も話を振られたときにのみ答える、そのスタンスで問題ないだろう。
「話が少しそれたな。お前が聞きに来たのは、どうしたら振り向いてもらえるか、だったよな。」
「いや、そういうのじゃ。」
「なら、なんだよ。正直に言え、別に恥ずかしいもんじゃないし、ここに誰かの悩みを笑う低レベルの人間はいない。」
「うん。ごめん、犬石先輩のことが好きです、はい。」
「よく言った。そんで、彼女はお前のこと知ってるのか?」
「一応自己紹介はした。返事は帰ってこなかったけど。」
「そりゃ、彼女喋れないからな。」
「そうなの?」
「ああ、ある日を境に全く喋れなくなったらしい。その日のことは話せば長くなるから、また別の機会に話すとして、とりあえず彼女は喋れないという事実は知っとけ。」
「うん。」
「そんで、振り向いてもらう方法は、俺は知らん。いじめを止められたらそりゃ彼女からしたらありがたいだろうが、結構難解な問題だから、多分お前には無理だ。俺は恋心とか分からんし、他に当たれ。」
「えー。キーネーは?」
「ごめん、私も鈍いからなー。」
「夏目さんは?」
「えっと、ごめんね、私もアドバイスできる立場じゃないかな。」
「ショーニーは?」
「そうだな、諦めるのが一番だと思うぞ。」
「え。」
穏やかだった空気が一瞬にして吹き飛んだ。お茶を一杯飲み、コップを置いた牛岡君は、立ち上がってマーカーを取り、ホワイトボードの前に立った。
「いいか、素直に答えろ。お前が彼女を好きになった理由は何だ?」
「えっと、見た目とか、クールな所とか。」
「後者も外見からのイメージだな。つまり、お前が彼女を好きになった理由は、外見以外何もないということだ。」
ホワイトボードに大きく“外見”と書いた。
「いや、でも、犬石先輩は俺のタイプっていうか――」
「タイプ、か。つまりお前は犬石さんがお前の理想とする人のタイプに当てはまるから、好きになったって訳だ。それは、その人が自分の理想の人物像に当てはまっただけで、それすなわちお前は彼女自体のことが好きなのではなく、自分の理想像があり、彼女がそれに近いから彼女が好きになっただけ。つまり、お前は真に彼女が好きなわけではない。そんな奴と恋愛をしてもすぐに崩れるだけだ。だから結論、諦めろ。分かったか。」
烏原君の話を遮り、他の介入を許さない冷静な態度での熱弁。ホワイトボードにはキーワードを書き上げた図。さっきまでずっと黙っていた人とは思えないほどの気迫で、それに圧倒された烏原君は今にも泣きだしそうな顔をしている。実際、この超ローボイスで勢いよく指摘されると、その対象でない私でさえ、少し怖いと思っていしまった。
「だいたい、好きなタイプとか言う時点間違ってるんだよ。それを言い出した時点でお前は相手を一個人として見ていない。具体の際たる例である人間をお前は抽象化して考えている。その時点で恋愛はただの幻と化し、意味をなさない。恋愛と言うのは場合によっては掛け替えのない経験となるが、それは正しい形で行われ、それが失敗したとき初めて意味を成すものになる可能性が出る。初めから偽りである恋愛なんて、人生の何の足しにもならん、ただの時間の無駄遣いだ。そんなことを―――」
「分かった、一旦止まれ、翔。もう十分伝わったから。」
「そうそう、これ以上言っても雪平の脳には入っていかないから。」
止まる気配が全く見えなかったからか、星光先輩と兎川さんが止めに入った。烏原君はまるで森の中でクマと遭遇したかのように怯えあがり、カタカタと震えていた。
「いいか、お前でも分かるように言ってやると。学校の恋愛なんて九十八パーセント無価値なものとして終わるんだよ。だから、最初からしないのが正解。分かったか?」
追い打ちに加え、最後のダメ押しでやっと、牛岡君は収まった。一呼吸すると、まるで何もなかったかのようにいつものムードに戻り、席に着き、お茶をすすり始めた。
「そんなひどく言わなくてもいいじゃん!ショーニーなんて、お茶で口火傷しちゃえー。」
そうわめき、烏原君が泣きながら部室を出て言った。
「いや、お茶冷めてるから。」
後輩が泣きながら走って出て言ったというのに、牛岡君はのんきにつっこみを入れ、コップを机に置いた。
「そんなことより、ちょっとは加減しろよ。」
「いや、これぐらい言わないと伝わらんでしょ。馬鹿が恋愛しても、時間の無駄になるだけですよ。」
「そうかもしれんけどな、言い方ってもんがあるだろ。」
「パトスをロゴスで打ち消す、一番効率的な方法ですよ。星光さんも思ったでしょ、浅い愛だな、って。」
「いや、そんなことは思ってないが、まあ、相手を知らなさすぎるとは思った。そんで、このまま続けても進展はないな、とも思った。」
「そういうことですよ。誰かがきっちり言った方が良いんですよ。いっぱい話して疲れたんで、ちょっと寝ますわ。」
そう言い、彼は机に伏せ、黙り込んだ。数秒の沈黙ののち、彼の寝息が聞こえてきた。
「ま、珍しくフルエンジンで話したしな、少し寝かせてやろう。」
「そうですね。ごめんね、みかんちゃん、いきなり変なところ見せちゃって。」
「あ、いえ、私は大丈夫です。それより、烏原君は大丈夫なんですか?」
「まあ、大丈夫でしょ。翔に言い負かされるの、珍しいことじゃないし。」
「そうなんですか。」
先ほどの牛岡君にも驚いたが、こんな状態で平然とした態度でいられる星光先輩と兎川さんもなかなかだ。また私一人が浮いた状態に戻ってしまったが、彼らはそんなことを気にする人ではないのだろう。私の常識を彼らに当てはめるのは、間違っていることだと感じた。
「で、振り出しに戻っちゃいましたけど、どうします?」
「そうだな、さっきのごたごたの後に話題出しても、なんか中途半端な空気になりそうだし、今日の話し合いは以上にしとくか。」
「そうですね。じゃあ、いつも通り、自習でいいですか?」
「いいけどよ、夏目さんはどうする?プリントまだ乾いてないからな。」
切り替えの早い人たちだな、と思いながら、少し考える。正直、この部活に入りたいのだが、未だに彼らの日々の活動の流れを掴めていない。
「あ、えっと、皆さんが普段どういう話をしているか、聞いてもいいですか?」
今タイミングを逃すと二度と聞く機会がなさそうなので、勇気を持って聞いてみた。
「もちろん。うーん、じゃあ、とりあえず私たちの活動記録でも見てみる?」
「そうだな、それが一番手っ取り早いな。夏目さん、スマホ持ってる?」
「あ、はい。」
「なら、この部活のグループに招待するね、活動記録とか全部そこに乗っているから。」
そう言い、メールでグループ参加とともに兎川さんと友達登録を済ませ、活動記録を見る。一応ジャンル分けされているが、価値観、理、悲観論など、学生の会話とは思えない項目でいっぱいだった。唯一“日常”のファイルは、私でも分かる内容で、こういう話も一応することを知れてほっとした。
「沢山ありますね。」
総数は五百を超えていて、これを見ると毎日しっかり話しているのだな、と思う。でも、この数をずっと三人、あるいは四人でやってきたことを考えると、少しぞっとした。やはりこの人たち、ただものではない。
「そうだな。ま、需要の無いものばっかりだけどな。毎日一つのお題を取り上げて、それについて各々考えて、ある程度まとめて結論付ける。形式上はちゃんとまとめてるが、本当に需要の無いのはキーワード書いたホワイトボードスクショして終わりとかだから、正直俺らの覚えてない奴もあると思う。ま、分かる範囲でなら説明するけど。」
「あ、ありがとうございます。では、皆さんが勉強している間、いろいろと拝見させてもらいます。」
「あいよ。作業中だからって遠慮せず、何でも聞いていいよ。」
「ありがとうございます。」
しばらくの間この雑談部のこれまでの活動を眺めていた。その情報量は多く、発言者もとい部員の性格や趣味などが分かってきた。難しい内容のお題が大半を占めており、皆の頭の良さを痛感したと同時に、そのような話題に全く参加できずにいられる私が思い浮かんできた。結局牛岡君は下校時間までずっと寝ており、彼と部室で一言も話さずに終わった。
「なんとなく分かった?」
帰るを準備をしている最中、星光先輩がそう訪ねてきた。
「は、はい、おかげさまで。でも正直、私が意見を出せるかどうか。」
「そう言うスタンスの人がいた方が会話に偏りが減るから、俺らからしたら夏目さんみたいな人が丁度いいんだよ。俺らみたいなのがもう一人増えても、あんま変わらないだろうし。」
「そうそう。だから、緊張しなくていいからね。」
「あ、ありがとうございます。」
その後は特に何もなく帰宅した。彼らといると頭を使うので、帰宅した後もずっとぼーっとしていた。おかげで親から来る非難の声もあまり頭に入ってこなかった。疲れるけど、楽しい。これがやりがいと言うものなのかもしれない。久方ぶりに、明日が楽しみ、と思えた。
ベッドに入っても、新しい部活のことしか考えていなかった。そう言えば、烏原君はあの後帰ってこなかったけど、大丈夫なのか。それに、犬石六海さん、結局彼女が話せなくなった理由を星光先輩に説明してもらってない。同じいじめられている身として、少し彼女のことが気になった。あ、でも、兎川さんたちといたら、いじめられないのかな。そうなったら、嬉しいな。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。相変わらずの語彙力の乏しさに悩まされながら書かせていただきました。しばらくはキャラクターと舞台がどんな感じかを表す、あまり進展の無いパートになりますかね(そもそも、進展ってなに、って状態になってきた)。二章の内容はもう出来上がっているので、変にこだわらなかったら、今回のの編集後、そこそこ早く投稿できると思います。
次回もよろしくお願いします。
どうでもいい話:
毎回サブタイトルの後ろにつけてるのは、その回の誰かの一言です。何書けばいいのか分からなかったのと、私が大好きなアニメがそうしているので、書いてるだけです。変わるかもしれない、特に意味の無いものです。