第二話
「真理はさぁ、彼氏とかいないの?」
「へ?」
部活帰りに大手ファストフードチェーン店によった時のことだ。
季節はすでに秋口にさしかかっており、先輩たちは試合のためピリピリしていた時期だった。
が、私たち1年生はそんなことお構いなしに練習をして、こうして駄弁っていた。
「えー。いないよ?」
みのりの言葉に真理は手をぶんぶん振って否定する。真理はこんなにも男子受けがよさそうだし、実際何度も告白をされたという話を聞いたことはあったが確かに彼氏はいないと言っていた。
「モテそうなのにな~」
「背も小さくて、体型もよくて、明るくて笑顔が可愛い女の子なんて男子の理想じゃない?」
「ねー。こんなにかわいいのに~」
部活の仲間に囲まれていろいといわれても、シェイクを飲みながら彼女は快活に笑っていた。
「あ、ねぇ。真理といつも一緒にいるゆっこなら何か知ってるんじゃない?」
「たしかに!なんかウワサとかないの?」
「残念ながらみんなが期待してるような話はないかなぁ」
「え~、こうなったらくすぐってでも情報を…」
一人の子がふざけてそう言うと、その場にいた真理を除いた全員が手をわきわきさせながら私のほうを見た。
私がくすぐられるのに弱いことを知っているのだ。
そこに、真理が声をかける。
「はいはい、そこまで」
「えー、真理のケチ~」
「ゆっこがかわいそうでしょ」
「優しいねぇ」
みんなを止めてくれた真理を見ながらみのりがそうしみじみと言う。
私もそう思う。真理は優しい。
あの日から移動教室はいつも一緒だし、昼食も囲んで食べている。
私の学校生活を楽しくしてくれているのは真理だった。
「ほんと、そういうの好きだよね。あ、そういえばみのり、隣のクラスの細貝君に告白されたらしいけど…どうしたの?」
さっきの私への攻撃の意趣返しなのか、真理が意地悪い顔で笑った。
その言葉にみのりがあわてて弁明を始めるのを聞きながら、私も笑う。
しばらく話をしていると、もう外はすっかり暗くなってしまっていた。
「そろそろ帰ろっか」
「うわ、もう空真っ暗だ」
「あーあ、笑った笑った」
「ほんと、まさかみのりがねぇ」
トレイのごみを集めて、ガヤガヤと席を立つ。
■ ■ ■
肌寒くなってきた外に出て、駅へと足を向ける。
私の隣には、当然真理がいる。
「ねぇゆっこ」
囁くような声量で真理が言葉をこぼした。
「ゆっこは好きな人、いないの?」
「うーん、いないかな?真理こそ気になってる人とかいないの?」
いいタイミングだと思った。
私たちはいつでも一緒にいてなんでも話すけど、なぜか恋愛の話になると真理は誤魔化すようにして話題を変えてしまうのだ。
今回もまた誤魔化されるんだろう。そう思いながらも聞いてみた。
「いないし、するつもりもない」
「え?」
予想に反して真理が答えたことにも驚いたが、普段話しているときには聞いたこともない冷たい印象の声に驚き、声が漏れた。
いつもはうらやましいほどにかわいいと思う整った顔も怖く感じる。
が、次の瞬間にはまるでそんなことはなかったかのようにいつもの真理になっていた。
「どうかしたの?」
「う、ううん」
今のは何だったのだろうか、そう考えながらもなんとなくここで話をやめることにした。
触れてはいけないような気がしたのだ。
そう思い、少し前を歩いているみんなのもとへと合流しようと早歩きになったところで真理が口を開いた。
「それで、結局ゆっこには好きな人はいるの?」
「え、えぇと…いないかな」
「そう」
「も、もしさ!私に好きな人ができたとしたら…応援してくれる?」
さっきの真理の反応もあって気まずい空気がながれる。
でも、これしか話題が思いつかなかったのだ…こんなことは初めてだった。
真理と話してるときはいつも勝手に話題がわいてきて、いつまでたっても話したりないことばかりなのに、なぜか今に限って話題が思いつかないのだ。
すこしきょとんとした顔で固まった後、急に表情が変わり真理は言い切った。
「そんなの、応援するにきまってるでしょ?」
――思わずだれもが惚れてしまうような満面の笑みで
その笑顔に一瞬ドキッとしてしまった。
すこし頬が赤くなってしまっているかもしれない。
「じゃ、そろそろいこっか、みんなに置いてかれちゃってるし」
「う、うん」
普段なら何気なくつかめる差し出された手つかむのになぜか躊躇してしまう。
「真理~ゆっこ~なにしてんの?」
「ふたりとも~?」
「はやくいこーよー」
「はいはい、今行きますよ」
あきれたようで、それでもどこか楽しげな表情を浮かべていく彼女に手を引かれながら私はその日家に帰った。
次からは更新は毎週土曜日になります