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カラメル色の青春  作者: 武島 睦月
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第一話

次の話は初回ということで二日後に投稿します。

居酒屋の暖簾をくぐり、ざわめく店内を見渡すとこちらに向かって手を振っている人物が目に入った。


「やっほー、ゆっこ。こっちこっち」

「久しぶりだね。みのり」

「ほんとねー。あんた成人式の時の同窓会来なかったし」

「あのときは風邪ひいてたんだって」


直接顔を合わせるのは10年振りだろうか。高校卒業以来、年賀状のやり取りくらいしかしていなかった。

椅子を引いて、腰掛ける。すでにテーブルにはおつまみが置かれていた。


「ゆっこじゃん。老けたねー」

「あんたもね」


遅れてきた私に対して懐かしい顔ぶれが次々と話しかけてきた。

この様子を見るに、すでにみんなだいぶ酔っぱらっているようだ。

とりあえず店員にビールを頼んでから、同窓会のメンバーの顔を見渡す。顔のつくりは変らないはずなのに、ちょっとしたしぐさや表情に年月を感じた。

届いたビールを早速乾ききったのどに流し込みながら幹事のみのりに視線を向ける。


「あと誰が来るんだっけ?」

「んっとねー、あとは真理だけ」


どくんと心臓が跳ねる。無意識に手汗をぬぐった。

ぴこん、とみのりのスマホが通知音を立てる。


「あ、もうすぐ来るって」

「よーし、それに向けてもっと飲むぞ―?」

「ちょっと、飲みすぎないでよ?」

「大丈夫、大丈夫」


久しぶりに会ったというのに、学生時代の空気を思い出させる軽快なやり取り。その懐かしい空気感に頬をゆるめながらも、口の中が苦いもので満たされていくのを感じた。

真理。

高校時代の私の思い出を一番彩る人の名だ。

でも、それは同時に私の人生で最も忘れたい人の名前でもあった。


■ ■ ■


「ねぇねぇ、佐藤さん」

「え?」

「次の移動教室、一緒に行かない?」


――入学式が終わってから一週間後。苦労して入学したこの学校で、私は誰とも話せないでいた。

そんな私に声を掛けてくれたのが鈴木真理。のちの親友となる少女だった。


「あぁ、うん。いいけど」

「ほんと?やったぁ!私、佐藤さんと話してみたいと思ってたんだ」

「そうなの?」

「だって佐藤さんったらクールなんだもん。かっこいいなぁって思ってたの」


にこにこと彼女は人懐っこい笑みを浮かべた。彼女の肩口で切り揃えられた亜麻色の髪の毛が揺れる。

「鈴木さん、だよね?」

「真理でいいよ」

「じゃあわたしのことは…」

「あ、ちょっとまって!私があだな考えるから!」


彼女、真理は右手を額に当てて左手を私の顔の前に突き出した。いちいち動作が大げさな子だ。

真理は考えるしぐさをした後、私の机の上に置いてあった教科書に目をとめた。

「えーっと、ゆいこ?唯一つの子でゆいこかぁ。素敵な名前だね」


そのとき、彼女の黒よりは色の薄いカラメル色の瞳がきらめいた。素直で、かわいいと思う。男子の理想のような子ではないだろうか。

「じゃあ…ゆっこ!ゆっこでどう?」

「うん、いいよ」

「じゃあよしくね!ゆっこ!」

彼女は嬉しそうに私の手を握ってぶんぶんと振った。きれいに整えられ、先生に気付かれない程度に薄く塗ってある爪が光を反射していた。


■ ■ ■


きゅっきゅっと靴が体育館の床とこすれる音が見いに響く。

「ゆっこ!そっちいった!」

「はいよ」

弧を描いて落下してきたボールを床にぶつかる寸前で上げる。

「真理!」

「まかせて!」

名前を呼べば、心強い返事が返ってくる。

直後、真理が撃ったボールが相手のコートに鋭く突き刺さった。


「よし!」

「さすが真理!」

「いぇーい、もっと褒めて!」

駆け寄り、思わずハイタッチをした。

「ゆっこのサーブもよかったよね」

「うんうん、さすがゆっこ」

チームメイトからほめられて頬が厚くなる。


――高校一年の六月、入学当時がうそのように友達が増え、充実した学校生活を送っていたころだ。

それは間違いなく待ちのおかげだった。真理の決めた『ゆっこ』というニックネームはあっという間に広がり、今ではバレーボール部のチームメイトにも、クラスメイトにもそう呼ばれていた。


「ねぇ、真理」

「ん?なに?」

「ありがと、私を誘ってくれて」


照れくさいけれど、感謝はきちんとつたえなければならない。

ひと試合終わって休憩中の彼女に声をかけた。

私の言葉に真理はパッと振りむく。彼女の色素の薄い瞳が大きく見開かれていた。


「ゆっこがデレた~!」

ぴょんぴょんとバレー部にしては低い背で跳ねる姿はウサギのようで愛らしい。

「えへへ、私もゆっこと仲良くなれてよかった!」

彼女に手を取られ、上下に強く振られる。彼女に声をかけられた時と同じ状況に、私は頬をゆるませた。


部活でも、教室でも、いつも私たちは一緒だった。部活ではもうセッターとアタッカーのコンビとして認識されていた。

私たちは出会ってから二カ月で、すでに親友といえる関係になっていたのだ。



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