表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】孤城の夜想曲 -伝承の復讐者-  作者: 茶ひよ
第1楽章 赤い目の復讐鬼
1/72

-intro- ある英雄の記録

 辺境の雪山に建てられたこの城に、街を焼いた罪で追われた青年はたった一人で閉じこもっていた。

 その報告を聞いて、私は青年を討つために念入りに準備をしてこの孤城に来たのだ。


 そして、計画は成功した。彼を満身創痍の状態まで追い込み、あとは閉じ込めるだけ。何年もの耐久性を持つこの封印ならば、この青年も死ぬまでこの孤城からは出られないだろう。


 赤い目を持った人間は、厄災を呼ぶとこの街では言われてきた。彼もまた、赤い瞳を持っていたために虐げられ続けていたのだ。その反動で、青年は殺戮に走ったのだろう。


「ああ、仲間はいなかった」


 その青年、スィエル・キースは無念そうに呟いていた。

 孤独のままに過ごした彼の言葉は、むなしく天井へと吸い込まれていく。


「長い間閉じ込められ、ようやく外に出たのに」


 返り血がこびりついた手を震わせながら、彼は私に助けを求める。

 だが、私はその手を払った。彼を封じる結界が、城の中に張り巡らされる。


 最後の力を振り絞って青年は立ち上がるが、発動し始めた封印の破壊は不可能だろう。


「どうして、赤目は虐げられなければならない? 誰も、悪いことはしていないのに。目の色が違う、ただそれだけのことなのに。あとは君たちと同じはずなのに。赤目の人間は、普通に生きたいだけなんだ」


 出来上がりつつある結界越しに、彼は悲痛な声で叫んだ。

 そこで、ようやく私は己の間違いを悟った。この青年は、きっと後世に血も涙もない殺戮者として描かれる。


 しかし、そうではない。血も通っている。感情もある。

 彼は、ただ赤い目の人間たちを救いたかっただけだったのだ。


 いつの間に術式を詠唱していたのか、彼の手から黒い靄のようなものが放たれ、私を包み込む。対抗しようと術式を詠唱しようとするが、もう遅い。全てが闇に食われていき、視界もだんだんと黒く染まっていく。


 もう、手遅れだ。私も助からない。


 だが、最後に一つだけ――。これだけは、伝えなければ。私にはしなければならないことがまだ残されている。


 私は急いで術式を組み上げて一つの手帳を生成し、そこにこう書き残した。


「彼、スィエル・キースを救え。この世界は全てが過ちだ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
[一言] この世界は全てが過ちだ とんでもなくいい引きすぎません??? 好き。 何回でも口に出して言いたい……。 誰が発端かもわからぬ悪意が無辜の民(でもなさそうだけど)を死に追いやるの、あまりに…
[良い点] 文字数や読みやすさも良かったです。 物語は英雄どっち?と思ったけど、間違いだったらすみません。 多分亡くなった青年が英雄のはず。 話は気になる展開で、今言った部分以外はすごく分かりや…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ