第4陣敗者
敵に挟み撃ちにされた時の突破策は、大きく分けて二つある。二手に分かれてそれぞれを迎え撃つ方法、もう一つは一点突破して、敵を一カ所に固まる方法。
今回私達の部隊は少人数のこともあり、一点突破の方法でここを切り抜け、江戸へと足を踏み入れることになった。
「やはり敵の数が多いですね、お姉様」
「でもここまで守りを固めているという事は」
「何か大事なものを隠しているという事ですね」
「うん。とにかく今は突破しよう」
敵陣の中を私達は駆け抜けて行く。目的地である江戸がすぐそこにあるという事もあり、増援も警戒しなければならないので、ここはとにかく早めに突破をしないと。
「これ以上は行かせないよ」
しかしその進行を阻む者が現れる。ネネと同じ忍の、ボクっ娘だ(相変わらず名前だけは不明)。
「やはりあなたも現れましたわね。ボクっ娘」
「久しぶりだねネネ。相変わらずこんな事をしているんだね」
「こんな事?」
「いつまでもそうやってヒデヨシをお姉様って呼んでいるところだよ!」
私をよそに二人は対峙する。彼女とこうして戦場で会うのは久しぶりではあるけど、この子ってこんなに荒い性格をしていたっけ?
「お姉様、私は後で追いつきます。ですから、お先に江戸へ」
「ネネは大丈夫なの?!」
「大丈夫です。このネネを信じてください!」
「……分かった、絶対に合流してよ」
「はい」
私はネネとボクっ娘の横を通り過ぎ、更に進軍を続ける。そしてある程度の敵を薙ぎ払って、いよいよ目的地へとやって来たのだが……。
「いい? あれはあくまで私の獲物なんだから手を出さないでよ」
「違う。我の獲物」
「相変わらず戦闘狂だね、あんたは」
一般の兵とは違って、明らかに存在感を放つ二人が私の目の前に立ちはだかった。
「な、何者」
「お初にお目にかかるかな、私は井伊直政。縁あって徳川についている武将の一人さ」
「我は本多忠勝。その首はいただく」
自己紹介と共にタダカツが私の馬に向けて巨大な槍と共に突撃してくる。
「くっ」
私はそれを寸断のところで避けれたものの、乗っていた馬の脚にかすめたらしく、激痛と共に馬が暴れ出し、私は二度目の落馬をしてしまう。
「隙アリだよ!」
そしてそれに対して追撃をして来たのがナオマサ。彼女は鞭みたいな鋭い何かを私に向けて振り下ろして来た。
「私だってそんな簡単にはやられない!」
私はそれに合わせてハンマーを叩きつける。いくら鋭くても、私のハンマーの硬さには劣るのか、鞭は弾かれナオマサの身体に隙ができる。
「今度はこっちの番」
今度は私がナオマサに重い一撃を与えようとする。
「我を忘れている」
「つぅ!」
しかし今度は背後からタダカツが再び槍で突撃しており、私は追い打ちを諦め何とかそれをかわす。しかし槍の大きさが大きさのためか、今度は私の体を掠める。
「痛っ!」
「どうしたんだい。それでも天下を取った武将かい」
「まだ、このくらいで私は負けない!」
「そうこなくっちゃね」
私は痛みを堪え、二人と対峙する。しかし状況が不利なのは明らかで、未知なる敵の前で私の体は僅かに震える。
(こんな時に……震えてどうするのよ私)
私は震えを誤魔化すように頭を振り、今度は私の方から仕掛けようとする。
「傍観を続けようと思ったけど、部が悪そうだしそっちにつこうかな」
けど、また二人とは違う声が聞こえると共に私達の間に一人の人間が割って入ってくる。
「何者」
「名乗るほどでもない。ただ助けに来た」
そう言いながら顔を向けたのは私の方。頭にターバンを巻いているその顔はまだ幼いものの、その両手には短剣が二つ握られている。
「豊臣秀吉、私はあなたの味方につく」
「どうしていきなり」
「私は弱い人の味方」
「弱い人って、私は」
「天下を取ったのは貴方だけの実力ではない。だから一人になると、勝てない」
「違う、そんなわけじゃ」
「けど私が味方になる。安心して」
そう言いながら少女はナオマサに斬りかかる。私は少女の言葉に惑わされながらも、タダカツの方へと勝負を仕掛ける。
「我を相手にするか。なら、加減は必要はない」
「私だって一人になっても戦える!」
槍とハンマーがぶつかり合う。しかし先程の鞭でダメージが入っていたからか、はたまたこれまでの戦いで蓄積していたのか、私のハンマーはヒビが入る。
「決着は一瞬。我に勝機あり」
「そんな」
そして槍で押し切られ、私のハンマーは粉砕されてしまう。
「やっぱりあなたは弱くなってる」
「余所見してていいのかい」
「余所見してても勝てる」
「なっ」
呆然としている私に対して、ナオマサの攻撃をいなすと、少女は私の方へ飛んで来て腕を掴む。
「な、何を」
「掴まってて。ここは一旦退散する」
そう言うと少女は地面に何かを投げる。同時に辺りに濃い煙が立ち込めて辺りが一瞬で白くなる。
「これは……煙玉」
「小賢しい」
「さあ逃げるよ、ヒデヨシ」
少女に引っ張られるような形で、私はその場を去っていく。それはある意味で私が敗北をした瞬間だった。
天下を取って、誇れるくらい強くなったと思っていた私の敗北。それは今後の分岐点にもなる事を、この時私は知らなかった。