第1陣彼が居なくなった後
――この世界に再び魔法使いが現れた。
その噂が私の耳に届いたのは、ヒッシーが亡くなって丁度半年が過ぎた頃だった。
「戦場に現れた謎の魔法使い?」
キッカケを持ってきたのはネネだった。その噂は、最近この世界に再び魔法を使う人が現れたという事。
「はい。お姉様なら知っている事だと思いましたが、どうやら初めて聞いたみたいですね」
「うん。最近色々と忙しかったから、そういう話を聞く機会がなかったからね。でもそれって気のせいとかじゃないの。だってこの世界で魔法を使えるのは、私だけだし」
ずっと前に魔法を授かった私を除いて、この世界で魔法を使える人はいないはず。マルガーテの脅威が去ったこの世界には、今魔法は必要とされていないはずなのに、どうして今になって魔法使いが現れたのか分からなかった。なので、私はその噂については半信半疑だったのだけれど、
「私もそう思っていました。しかし実際に目撃した人が多数いまして、少しだけ情報を聞くことができました」
「本当に?」
ネネ曰く確実な情報が入ってきているらしい。報告によるとその魔法使いは太刀を使っていて、その太刀に魔法を宿らせて戦っているだとか。その戦い方を聞いて私はある人を思い出していた。
(まさかヒッシー? でもそんなわけが……)
彼はすでに半年前に亡くなっている。それなのにどうしてその彼と似た人物が再びこの世界に現れたのか。私はその噂が気になって仕方がなかった。
「もう少し詳しく調べてみましょうか?」
「うん、お願い。私も調べてみるから」
私はその人物に会ってみたかった。魔法という概念が本来存在していないこの世界で戦場に現れた魔法使い。ヒッシーではないとは分かっていても、僅かに期待してしまっている。
(あり得ない事なのに、どうしてかなヒッシー)
もう一度会えるなら、私はどれだけ時間がかかっても会いたいよ。
■□■□■□
ネネが改めて私にその謎の魔法使いについての情報を私に伝えてきたのは、それから三日後。
「どうやら先日、この周辺で見かけた人がいたらしいです。もしかしたらまだ近くにいるかもしれませんよ」
その情報は安土周辺でその魔法使いを見かけたとい話だった。私はその話を聞くなり居てもたってもいられずに、すぐに探しに行く準備をした。
「本当? それなら会いにいかないと」
「会いに行ってどうするつもりなんですか?」
「確認するの。どうして魔法が使えるのかとか、どこから来たかのかとか」
「お姉様、分かってはいると思いますが、その方が彼だとは」
「勿論分かっているよ、ヒッシーはすでに死んでいるんだから。だからこそ私の目で確かめないと」
「あ、その前にちょっと待っていただけませんか」
簡単な準備を整え、早速探しに向かおうとする私を、ネネは引き止める。
「実はその噂以上にお姉様に一つ報告しなければならない事があるんです」
「早く探しに行きたいんだけど、今じゃないと駄目?」
「できるだけ早めに伝えておきたいことなので、聞いてください。実はお姉様がこの国を治めた陰で、ある動きが始まっているという話を耳にしたんです」
「ある動き?」
「詳しくは分かりませんが、どうやら徳川が動きを見せているとの事です」
「徳川が?」
忘れていたが確かイエヤスとノブナガ様は同盟に近いものを結んでいたはずだ。けどその後は、同盟らしき働きをすることはなかった。私が天下を取るまで大きな動きを見せなかったから意識すらしていなかったけど、どうして今になって動き出したんだろう。
「私もこれに関しては詳細な情報は得られていないのですが、噂では近く大きな戦を起こすつもりだとか」
「その狙いは私なの?」
「どうやらその様子でもなさそうなのですが、私の勘ではありますが何か嫌な予感がするんです」
「嫌な予感?」
私を狙った戦ではない以上、そこまで興味は湧いてこないのだけど、ネネの様子がいつもより編だった。何か話すことをためらっているようなそんな様子な彼女に、私までもが嫌な予感がしてきた。
「とりあえずその魔法使いを探すのは構いませんが、少しお気をつけて行動してください。私も城の警備を徹底しますから」
「分かった。気には留めておくね」
その話も気にはなるけど、それよりも今はその魔法使いにあいにくのが優先だ。早いうちに見つけられればいいんだけど……。
■□■□■□
「退屈しのぎになると思ったけど、どいつもこいつも弱いわね」
ふうと一息をつく。探し物を探し続けて間もなく一週間歩き続けている。それだというのに、情報が一つも耳に入ってこない。向こうで得た情報を頼りにこんなところまでやって来たというのに、どうやら間違いだったらしい。
おまけにここは物騒であらゆる場所で人間同士が武器を手に取って争いをしている。何か気が付かないうちに自分も巻き込まれていたりするのだけど、どれも相手にならないくらい弱い。
(歩き疲れたしそろそろ元の世界に戻りたい……)
あの魔法使いを諦めるのは嫌だけど、もうこれ以上動くのも面倒くさい。
あそこに見える城で何も情報を得られなかったら、大人しく諦めて帰ろう。
「誰?」
城の近くにある町へ足を踏み入れようとしたとき、ふと自分に向けられている視線に気が付き、いったん足を止めて辺りを見回す。けど誰もいない。
(気のせい?)
もう一度足を踏み入れようとしたとき、それは降って来た。
「見つけた、噂の人」
降って来たのはハンマーとそれの持ち主であろう少女。今の言葉からすると、どうやら自分を探していたらしい。
「よいっしょっと。ごめん、驚かせちゃった?」
何事もなかったかのように地面に埋まったハンマーを担ぐ少女。
「あなたは誰?」
「私? 私はヒデヨシ。あなたと一緒で魔法が使えるの」
「魔法? あなたが?」
ここにやって来て初めて耳にしたワード、どうやらここに来たことは間違っていなかったらしい。それならこの私がやる事は……。
「あなたも魔法が使えるの?」
「うん! 教えてもらったの」
「そう。なら話は早い」
私はかぶっていたフードの中に隠し置いた太刀を彼女に向けて引き抜く。
「え」
「魔法使いはこの場で倒させてもらう」