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魔法

「…契約つっても、特に変わったところはねぇんだな」


 ルシアのいう契約は意外とあっさり終わった。

 ルシアが俺の頭に手を置いて何かを唱える。それだけだ。

 

 ルシアがいうにはこれで俺との間に魔力のパスが繋がった、とのこと。

 アニメや漫画でよく聞く言葉であるとはいえ、実際に体感するとなるとよくわからないものだ。

 

 「そりゃぁの。見た目が変わっては、(わらわ)の計画に支障が出るであろう。ただ、中身は別じゃ。妾の魔力に耐えられるように適応しておる」


 「へぇー」


 改めてルシアからの説明があるが、正直、見えない中身がどうのこうの言われても実感がない。

 

 「むぅ……ならば、一度魔法でも使ってみるかの?」


 「マジかッ!」

 

 自身の説明を軽く流されたのが不服だったのか、仕方ないといった様子でルシアがつぶやいた言葉であったが、俺はその一言に自分でも驚くほど反応してしまった。


 「むっ、えらく嬉しそうじゃの」


 「そりゃぁお前……非現実が現実になるんだぜ? ワクワクするのは仕方ねぇだろうに」


 「そういうものかの? あちらでは当たり前であったものじゃし、妾たちはそれほどなんじゃが…」


 考えるのをやめたのか、まぁええかの、と呟くルシア。

 対して俺はというと、魔法が使えるというその言葉に、興奮が抑えられなかった。


 「で! で! どうやって使うんだ!?」

 

 「少しは落ち着かんか。慣れないうちは精神状態が不安定じゃと、失敗して暴発という可能性もあるからの」


 「……具体的には?」


 「新人の吸血鬼種(ヴァンパイア)の頭が吹っ飛んでたの。まぁ、再生しおったから問題はなかったが」


 「大問題じゃねぇか」


 俺の頭が爆発四散する幻想が見えた。まるでザクロだ。

 何それ怖い。


 一瞬で興奮が冷めた俺は、注意してルシアの説明を聞くことに専念した。多分、大学の授業でもここまでまじめに聞いたことはないだろう、と思えるほどには。


 「うむ、いい顔になったの。では始めるが、まずは己の中の魔力を確認せねばならん。といっても、今まで魔法とは無縁の生活をしておったんじゃ。ショウの体内の魔力を妾が動かしてやろう。それで感覚をつかめばよい」


 ルシア曰く、俺とルシアは契約状態にあるため、一心同体のようなものであるらしく、お互いがお互いに影響を与え合う関係にあるそうだ。

 ルシアは回復に専念するために俺と契約を交わしたため、普段は俺がルシアの魔法の力を使うことになるのだが、緊急時にはルシアが俺の体を使って表に出てくることになる。


 また、俺の魔法の補助も担ってくれるのだとか。いたせりつくせりである。今回は、その補助として俺の体に少しばかり干渉、強制的な魔法の発現を行うらしい。


 「よし、こいっ!」


 フンッ! と体に力をこめて、魔法に備える。

 そんな俺の様子を見てあきれて、力みすぎじゃ、とため息をついたルシアだったが、手をこちらに向けると、

 

 『魔力よ、動け』


 そう呟くのが聞こえたのだった。

 ルシアのいう魔法言語。何故理解できるのかはよくわからないのだが、損はないので良しとする。


 ルシアの言葉とともに、俺は体内で何かが動き始めたのが感じ取れた。

 初めて体験する奇妙な感覚である。何というか……血液が循環してると感じられれば、こんな感じ? 見たいな?

 ……うん、自分で言ってみてもよくわからないな。


 「どうじゃ? 何か動いているような感じがするじゃろ」


 「あぁ…うん。すっげぇ変な感じだがな」


 「その感覚を忘れるでないぞ。そして次じゃ。その一部を取り出すイメージで体の外へ出してみよ」


 言われたとおりにやってみる。

 一部を取り出すイメージ……水鉄砲みたいなものでいいのだろうか。


 イメージしやすいように、手を銃の形にしてみる。

 するとどうだろうか、今まで何ともなかった人差し指の先。そこに集まるような形で、小さなエネルギー体の塊のようなものが出来上がっていた。


 「うおっ!? 何か出たぞ!」


 「うむ、成功じゃな。後はそれを打ち出してやれば、妾たちの世界の初歩の攻撃魔法、『魔力弾』の完成じゃ」


 ほれ、撃ってみぃ、とルシアに言われたため、近場にあったペン立てを狙ってみる。感覚は射撃ゲームだ。

 イメージ通りにしてみると、指先にあったエネルギーの塊、魔力弾は俺の想像した通りの軌道を描き、一直線にペン立てへと向かって飛んだ。

 

 着弾。ペン立てが倒れ、中のペンが辺りに広がった。


 「おぉ……」


 「うむ、よくできたの。今回は妾が調整したからあの威力であったが、妾の力を十全に使えるようになれば、もっと威力は上がるぞ」


 俺が自身で魔法が使えた余韻に浸っているその横で、ルシアが細くの説明を入れてきた。


 「ちなみに、ルシアの全力だとどんくらいの威力になるんだ?」


 「む? 妾か? そうじゃの…魔力弾で町くらいなら消し飛ばせるの」


 やったことないからわからんがな! とあっけらかんとした様子で言い切ってしまうルシアに、改めてこいつ魔王なんだな、と思わされた。

 案外、暗殺という手段をとった勇者は正しかったのかもしれない。


 「じゃがまあ、大半の魔力を消費している今では、あちらに戻ったところで回復には長い時を要するじゃろう。」


 「こっちで回復してから向こうに行くって手段は使えないのか?」


 「馬鹿者。魔法のないこちらで、回復に時間をかければ完全回復に軽く数百年は必要になる。そんなに待てるわけがなかろう」


 ルシア曰く、魔法のないこちらでは、向こうと違って魔力の自然回復が遅くなるらしい。

 というのも、向こうには空気中に魔素と呼ばれるものが存在するとのこと。これは世界が己を保持するために生み出しているものらしく、これを体内に取り込むことで魔力の回復を促すのだとか。


 うん、わからん


 「まぁ、詳しく言うてもわからんじゃろうしの。そういうものだと考えておけばよい」


 「あいよ。把握した」


 特に気にしても仕方ないことらしいので、気にしないことにした。

 

 とにかく、ルシアの回復には向こうの世界のほうが都合がいいことはわかった。

 

 「後は、魔法の発動に関して教えておくぞ。…といっても、決まったやり方があるわけではないのでな。大事なのは己のイメージじゃ。そのイメージに合う魔力を使えば、自ずと発現する。どんな魔法を使うにも魔力の量が重要なんじゃ。魔力量の多い者が強いと言われる所以じゃな」


 何とも、どこかで聞いたことのあるよな設定であるが、よくある恥ずかしい詠唱なんかを使わなくても言いというのは嬉しい話だ。

 昔の俺とは違うのだ。


 魔法……詠唱……中学二年……うっ! 頭が!


 「む? 頭でも痛むのか?」


 「……いや、大丈夫だ。己の闇に打ち勝っただけのこと」


 「? よくわからんのじゃ」


 知らなくていいです。


 とにかく、イメージを何よりも重要視するのであれば、今まで培ってきた経験(アニメ、漫画、ゲーム)が役に立つはずだ。

 我が力を見るがいい! フハハハハハ!!


 「フンッ!!」


 「のわぁっ!? 急にどうしたんじゃ!?」


 「……闇を打ち払っただけだ」


 急にちゃぶ台に向けて自身の頭をぶつけた俺に驚くルシアにそういってなんでもないことを告げる。 

 

 …ちょっと注意しないとだめだな。


 そう心に誓った俺なのであった。


 

















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