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あちらとこちらと契約と

 「……なんか、信じられんような話だな」


 「そういわれてものぉ…(わらわ)の知る限りのことを話したつもりなんじゃが」


 あの後、すぐに手の上の炎を消したルシアは、己の話をし始めた。

 俺自身、普通では考えられないような現象を見せられたことでいろいろと混乱していたのだが、話が進むにつれて落ち着いて考えられるようになった。


 途中、あれは手品かなんかの類ではなかったのかと疑ったのだが、炎に続いて、水、土、風、電気、おまけにも対象の時間停止というちょっと手品ではどうにもならないことをやられては、信じるほかないだろう。

 電気が顔面すれすれを飛んでいったことにびびったのではない。決して。


 「つってもなぁ……俺みたいな奴にとっちゃ、漫画とかアニメの中の話なんだぜ?」


 話を戻す。

 あれからルシアが語った話の内容を簡単にまとめるとしよう。


 

 魔王として魔族の頂点に君臨していた彼女は、勇者と呼ばれる存在に敗北。だが殺される寸前に、一族に伝わる魔法を用いてこの世界に逃れてきた


 とのこと。途中、彼女の一族は人で言う王族である、などといった自慢話があったのだが、面倒だし、あまり関係がないので省かせてもらった。

 

 でだ、先ほど話した魔法、これはどうやら違う世界へと転移する魔法だったらしい。本人曰く『世界渡り』の魔法であるとのこと。

 その魔法でこちらの世界へと逃げてきた彼女であったのだが、何を思ってか、このまま負けてられるか!! と謎の負けん気を発揮。またもとの世界に戻って、今度こそ勇者の奴を負かしたいのだと。


 「そもそもの話、奴らが妾の睡眠中を狙って奇襲を仕掛けてきたことが問題なのじゃ! 真正面から戦えば、妾が負けることなどありえんことよ!」


 「そりゃぁ……なんとも言えない話だなぁ…」


 自信過剰なのかどうかはわからないが、もし彼女の話が本当であるのなら、勇者の気持ちもわからなくはない。

 立ち向かうべき強大な相手。それと真っ向から戦ってどうしても勝てないのなら、勝てないなりに他の方法をとるだろう。

 まぁ、俺の想像してたような勇者がやるようなことじゃないが……いろんな勇者がいるのだろう。


 「まったく、妾もせっかく勇者に言う言葉を考えていたというのに…」


 「…まさかとは思うが、『妾の(しもべ)となるのなら、世界の半分をくれてやろう!』とか言うつもりだったのか?」


 「な、なな何でわかったのじゃ!? ハッ、さてはそなた、読心の魔法を使いおったのか!」


 冗談のつもりで言ったのだが……そういったものは異世界でも共通なのだろうか?

 どうなのじゃ!? とちゃぶ台の上に身を乗り出してこちらへと迫ってくるルシア。

 きれいな顔立ちをしているのは確かなのだが、見た目が幼女であるため、ちっとも響かない。

 あと、付け足しの情報となるのだが、ルシアはこう見えても百歳を超えているらしい。曰く、魔族の寿命はとてつもなく長いらしく、彼女の祖父(当然元魔王)は千を超えていたらしい。


 閑話休題


 ぐいぐいくる彼女の顔を手で押さえ込みつつ、俺は思わずため息をついてしまう。


 「こっちに魔法がないのはもう言っただろう。ただ、そういう物語ってのはよくあるんだよ」


 「…そうであったな。しかし、魔法はなく、科学とか言うのが進んだ世界……妾の世界とはやはり違うの」


 「そりゃそうだろうな。歴史の進み方も違うだろうし、住んでるのもそっちでいう人族(ヒューマン)だけだからな」


 あちらの世界は、こちらで言うとまだ中世くらいの文明であるらしい。さらにはお約束というべきか、ファンタジーによく出る森人族(エルフ)土人族(ドワーフ)獣人族(ビースト)と呼ばれる種族もいるようだった。


 そして、ルシアのような魔族(デモン)

 だがしかし、人の姿と近い三種族とは違って、魔族には異形のものが多い。そのため、人族たちからは疎まれ、差別の対象になっていたらしい。当然、そんな扱いを受けていた彼女たちが人族と仲良くできるはずがなく、結果、お互いがお互いを憎むようになったようだ。


 「…よき世界じゃ。特にこの国は、の」


 「そういうもんかねぇ…他の国じゃ、内戦だったり、テロだったりもあるわけだし。この国も、見方によっちゃ平和ボケしてるともいえる」

 

 「それでも、羨ましいぞ。妾も、このような国にしたかったのじゃ…」


 まぁ、逃げた妾が言えることではないがな、と開いた窓から外を眺め、自嘲めいた笑みを浮かべたルシア。

 






 え、何この突然のシリアス







 「まぁ、そんな話は置いておいて、だ。お前のその話については信じてもいい。だが、それが何で契約しろなんて話になるんだ? そこらへんの説明も頼みたい」


 「軽く妾の話が流されたことに関しては甚だ遺憾じゃが……そなたの言うことも一理ある。まぁ、簡単な話じゃ」


 最初は少々不服な表情だったルシアであったが、一度大きくため息をつくと淡々とその訳を話し始めた。



 「妾は魔王じゃ。故にこの体にはそれ相応の魔力が秘められておる。あちらの世界では、この魔力の量がそのまま強さに直結すると言ってもよい。不意打ちとはいえ、妾を殺す一歩手前まで追い込んだ勇者も人族にしてはかなりの魔力量をしておったからの。ん? 関係ない話をするな? 待て待て、関係あるから話しておる。そんなに急かすでない。さて、ここで出てくるのが『世界渡り』の魔法じゃ。代々の魔王が伝えてきた魔法じゃが、これを使うにはとんでもない魔力を要するのじゃ。恐らくあの勇者でも使えんだろうて。まさに魔王のための魔法といってもよい。当然、妾の魔力もほぼ尽きておる。このような状態で向こうへ戻っても、見つかってやられるのが目に見えておる。そこでじゃ、こちらの世界のものと契約し、依り代とすれば、見つかることなく妾の力を回復させることができる。そういうわけじゃ」



 「長ぇよ」



 饒舌に語りだしたまではよかったのだが、思っていたよりも説明が長かった。

 思わず文句を言ってしまった俺は悪くないはずだ。


 「要するに、だ。俺を囮にして見つからない間に、回復しようってことか?」


 「じゃな! 無論、勇者を倒した暁には、妾のできる範囲でショウの願いを叶えてやるぞ?」


 おお、誘い文句がまさに魔王だ。

 いや、魔王だったな。

 しかし、まだひとつ、俺にはわからないことがある。


 「……何で俺を選んだ?」


 今の今まで、この世界でごく普通に過ごしてきた俺だ。アニメや漫画でなら、名前すら与えられないモブと言ってもいいだろう。

 恐らくだが、探せばもっと役に合いそうなやつだって見つかると思っている。



 「理由か? ショウよ、そなたは妾の唱えた魔法言語……魔法を使うための言葉が理解できたじゃろ。それに、妾が見たところ、妾たちが使う魔法にも適正がある」

 

 「適正? そんなもんがわかるのか?」


 「もちろんじゃ。妾は魔王ぞ?」


 フフン、と得意げな様子でない胸をはるルシア。

 

 「正直な話、この魔法がない世界で、これだけの条件を持つ者はなかなかおらん。それに、じゃ」


 そこで一呼吸おいたルシアは、その愛らしい顔を綻ばせてこちらを見つめてきた。


 「ショウのように、話していて楽しい奴と一緒におれるのなら、妾も嬉しいからの!」


 不意に窓から入ってきた風が、ルシアのきれいな銀髪を揺らす。

 雪のように白い肌、こちらを優しげな目で見つめる真紅の瞳。

 姿格好は奇妙であれども、その可憐さに変わりはない。

 

 思わず、彼女の笑顔にドキリ、とさせられた。



 「まぁ、正直なところ、他を探すのが面倒じゃしの」


 「俺のときめきを返せ! この幼女!!」


 「なぁっ!? 妾はショウよりも年上じゃぞ!? 幼子扱いするでないわ!」


 

 尚、この後ちゃんと契約を交わすことになる。

 理由? そんなもん、こんな楽しそうなこと断るほうが問題だと思うんだが、どうであろうか?


 追記

 ルシアが怒って出した電気で、俺のゲーム様が御臨終されました。


 許すマジ

 

 

ちょっと無理やりすぎたでしょうか?

 楽しんでくれているなら幸いです。

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