8(by J.H)
その瞬間、タケシの額に
何かが飛んできた。
タケシはカウンターの椅子から転げ落ち、額を抑えながら、下を見ると、その飛んできたモノはラーメンのレンゲだった。
「馬鹿野郎!男がやり直そうとか言ってんじゃねぇ!そういう言葉はな、女から言わせるんだよ。そのくらいの器のデカさがねぇから、テメェはそこのお嬢さんにも相手にされねぇんだよ!」
そう怒鳴り付けたのは、あのラーメンを作ってくれた禿げ上がったオヤジだった。
オヤジは、そう言うと何もなかった様に、チャーシューを切り始めた。
「イテェ。。」
タケシはそう言いながら起き上がった。
ふと、真里を見ると、そのラーメンのオヤジを一目惚れした様な表情で見ている。
ヤケになり、タケシはモスコミュールを飲み干した。
「すみません、ちょっと短気なモノで」若いバーテンはタケシにひたすら謝った。
「あのオヤジさんと付き合っちゃおうかな」
真里はタケシを試す様につぶやいた。
タケシはテーブルを叩き、
「おい、オヤジ!俺と勝負しろ!どっちが美味いラーメンを作れるか。真里、お前、どっちのラーメンが美味いか、判定してくれ!ラーメン戦争だ!!」
オヤジはチャーシューを切ってる手を止め、「俺に喧嘩売るとは、随分、根性あるじゃねぇか!いいだろう、こっちへ入ってこい!」
タケシはハットを取り、レザーのライダースを脱ぐとカウンターの中へ入って行った。
オヤジはタオルをタケシに
渡すと、タケシはそのタオルを頭に巻いた。
「面白い。その勝負、俺も参加させてもらうよ」
カウンターの端で飲んでいた男が
言った。
黒のスーツに黒のネクタイをしたサラリーマン風の男だった。
その男はタケシに名刺を渡した。
そこには、有名な新聞社の名前と「山岡」という文字が書いてあった。