6(by J.H)
Barの重い扉を開けると冬の風が一気に身体を吹き抜けていった。
真里とタケシに続いて、あのマティーニとダンスミュージックをプレゼントしてくれた男性が出てきた。
男性はそのまま、歓楽街に
消えていこうとしていたが、真里は
「あの。マティーニと音楽、ありがとうございました」と礼を言った。
男性は振り向き、若干、
ろれつが回らない感じで
「いえいえ、こんな白子の様な肌の美しい方に出会えて幸せな夜でしたねぇ。僕は、あと、1、2軒ほど寄っていきます。では、行って参ります!」
男性は歓楽街の街に消えて行った。
「あの人、どっかで見た事あんだよな」
タケシは言った。
「そうなの?」真里はきき返す。
二人は夜の街を歩いた。
いつしか、真里はタケシの腕に自分の腕を絡めていた。
タケシも嫌がる事なく、
歩いている。
真里の心の中では、DJ KAWASAKIのアルバム「PARADISE」に収録されている「Journey」が流れていた。
まだ、タケシと恋人同士だった頃、よくドライブで聴いていたのだ。
ドライブは決まって夜中から、明け方まで。
まぁ、今夜は車ではなく歩きだが。
金曜の夜、
真里はそれだけを楽しみにしていた。
タケシと別れた後は、しばらく自暴自棄だった。で、やっと見つけた新しい金曜の夜の予定が例のBarというわけだ。
「なんか、腹も減ったな」
タケシは呟いた。
「この時間に食べると太るよ」真里もそうは言ったが、会社が終わって
Barに直行だったので、何も食べていなかった。
「どこでもいい、飯屋はないのか?」とタケシは辺りを見回してる。
「これから行く店にゴハンないの?」真里に言われると「そうだな」
とタケシは落ち着いた。
こんなどうでもいいやり取りを真里は楽しんでいた。
「おっ、ここ!」
タケシと真里は店に近づく。しかし、様子がおかしい。
真っ暗なのである。
と、その店の入り口に
「本日、親戚に不幸があったので、急遽、お休みさせて頂きます。申し訳ございません」
と張り紙があった。
「マジかよ」
タケシは唖然とした表情をしている。
真里は「しょうがない、戻る?」とタケシに言った。
タケシは頷いた。
二人はまた、Barに引き返した。