3(by Meu)
「恋愛は?という意味なら、答えはノー。タケシが最後。仕事の方も、相変わらず、OL続けてる」
「そうか、本当に変わってなさそうだよな、お前。ま、とりあえず、再会を祝して、乾杯」
真里は、タケシのグラスに、マティーニを軽く合わせた。
タケシはさらに、こう訊いてきた。
「で、音楽の方は、どうなの?ハウス聴いてる?」
「そうね、今でも、DJ KAWASAKIとか、KYOTO JAZZ MASSIVE聴いてる」
どちらも、タケシが、クラブが初めての彼女に教えてくれた、クロスオーバーと呼ばれる種類のジャンルの有名アーティストだ。
「もしかして、俺に、まだ未練があったり?」
「あるいは」と真里は答えた。思いがけない答えに、タケシは戸惑いを隠せなかった。
「冗談だろ」
「冗談に決まってるでしょ、やあね」
真里はニヤついた。なんとか、相手のペースに巻き込まれないようにしているのだ。それが、彼女の中での、このバーでのルールだった。声をかけてくる男と話すのは好きだが、一旦男にペースを握られると、ろくなようにならないことを、真里は身をもって知っている。好みの男にいいように口説かれて、一回寝てみたら、後は音信不通。なんてことも、一度や二度ではない。彼を他の男と同列に見ているわけではないが、彼女は、誰が相手でも、頑なにルールを守ろうと決めていた。
そうはいっても、動揺を隠そうと、つい、マティーニのペースが早くなる。彼女は、無意識に、飲み干してしまった。
「それで、どうなの、タケシの方は」
「俺?俺は相変わらずよ。DJの方は。結構、集客増えたんだぜ、俺のオーガナイズイベント。前は小さなハコでやってたけど、今は、代官山AIRとかでやってる。あそこももう、潰れちまったけどな」
「ふうん。そうなんだ。頑張ってるね。…それで、恋愛の方は、どうなのよ」
「聞きたい?」
「何よ、もったいぶって。あんたらしくもない」
と言った真里は、そんなところも変わってしまったの?と、いくぶん寂しさを覚えた。
「俺、彼女と同棲してるんだよね」
「ふうん。いつから?」
「お前と別れた、1年後かな。お前と同じように、クラブでオロオロしてた子だったよ。話すうちに、成り行きで付き合って、成り行きでこうなった」
「何よ、私の時とまるっきり同じじゃない」
真里は、わざと大げさに苛立って見せた。
「おいおい、いいじゃないか、そんなこと」
「冗談よ、冗談。そんなことより、どこかで飲み直さない?」