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「あー、申し訳ありません。実はお部屋はもう一杯なんです。部屋もそれほど多くないので……」
「なん……だと……」
そんなやりとりがあったので、俺は現在、自室で頭を抱えている。
ベッドにはフィルが横になっている。
いや、迷う必要はないんだよ。
ぶっちゃけた話、俺が床で寝るなり、影から寝具を取り出して包まって寝ればそれでいいんだよ。
でも、今日だけならまだしも、これから暫く、となると話が変わってくる。
フローラによると、他の部屋の客も長期滞在予定で、最速で空くタイミングは一週間後。
別に床で寝ても良いじゃんと思うのだけれど、確かに日本のベッドに比べれば寝心地は多少劣るとはいえ、床で寝るよりはよほど体が休まる。
体が資本のこの世界で、休息が十全に取れないというのは致命的だ。
かといって他所の宿に行くかと言われれば、この程度のことで宿を変える必要性までは感じない。
だって、要するに、俺がフィルと一緒に寝れば問題ないんだもの。
一緒に寝るのが大問題なだけで。
「ぐぅ……どうすりゃいいんだよ……」
頭を抱えて呻く。先ほどからずっとこれだ。
そんな俺を見かねて、ティトが声を掛けてくる。
「そんなに気になさる必要はないのでは?」
「必要あるんじゃないかなっ!?」
他人事だと思って気軽に言ってくれる。
「一つのベッドを二人以上で使う冒険者も少なからずいらっしゃいますよ?」
「え、そうなの?」
「ええ。知己で申し上げるならば、レックスさん達が」
「それ絶対違う意味だよねぇ!?」
つーかどこで見た。なぜ知っている。村長の家か。俺は端っこで寝たけど、逆側ではそんな光景があったのか?
いや、さすがに他人が寝てる横で事に及ぶほど常識知らずではないはずだ。あくまで侍らせて寝ただけだろう。
でもやっぱりハーレム野郎じゃねぇかあいつ! もげろ!
「ともあれ、駆け出しの冒険者同士が一つのベッドを使って休むことは一般的なことです。男性同士というのはあまり聞きませんが、女性同士であれば資金の節約術として認知されていますよ」
そういうものなのか。
「でも、俺男だしさ」
「何を仰いますか。今のユキ様は女性です」
「精神的にね!? 男の子としては女の子と一緒に寝るのが恥ずかしいんだよ!」
かといって男と寝るのも論外だが。
それにそもそも、向こうが俺のことを女と見て無防備になっているのなら、この偽りは相手に対する裏切りではないだろうか。
「外で野宿するようなことになれば、場合によってはもっと密着して眠ることもあるでしょう。極限状況下で気にしている余裕などあるとお思いですか?」
「それを言われると……確かに、慣れておくべきかもしれないが……」
何が起こるか分からない。そういう事態にならないように行動するつもりではあるが、それこそこの街に突然侯爵級の魔獣が襲ってきて、壊滅するかもしれない。
逃げるにせよ何にせよ、その場合は確実に野宿だ。その時に一々悩んでいて、貴重な休息時間を減らすわけにもいかない。また、緊張で眠れなくなっても仕方ない。
「……覚悟決めるか」
何の覚悟だよ。自分で言ってて空々しいよ。
けれど言葉にしたことで、多少なりと腹が据わった。
「それに何より、ユキ様の就寝時は私が傍で寝ているんですよ。それについては何とも思わないのですか?」
「え?」
いや、何を言ってるんだ。ティトはほら、気にするような相手じゃないというか。いわゆる人形的な感じ? でもフィギュアと一緒に寝てる奴って、相当極まってるよな。起きたときに寝相で壊してて発狂するパターンだ。
「いえ、いいです。何でもありません」
そしてぷくーっと頬を膨らませるティト。何この反応。意外すぎる。意外すぎて困る。どうすればいいのさ。
内心焦っていると、ティトが唐突に真顔に戻った。
「冗談はこれくらいにしておいて、今後のことを考えなければなりません」
「あ、冗談だったの」
焦って損した。びっくりした。
冗談というには、随分と心情が篭っていた気もするが、ティト自身が冗談と言うからにはそうなんだろう。
それに今後のことを考えるのも必要だ。
「近い話はどうとでもなるが、見通しが立てられないんだよな」
今のこの状況を「解決した」と言えるようにするにはどうすればいいのか。
最終的な目標は、連れ去られた森人達を救出して、キリカやエウリア、フィルがもとの集落で暮らせるようになることだ。
ただし、集落がかなりの損害を受けているため、その建て直しまでを考えると俺の手には負えない。というか救出できたなら、あとは森人たちの問題となってしまう。
そして問題は、救出という一点。
そもそもどこに連れて行かれたのか。連れて行かれたとして、あれから日が経ってないので無事ではあると思うが、人体実験だの生贄だの、そういう血腥いことに巻き込まれていればその限りではない。
相手の戦力や規模も不明。場合によっては騎士団が絡んでいて、最悪の場合、この国を相手取って戦うことになる。
一応親父さんに事情は説明してあるし、何か情報が入ればこちらにも回ってくる手筈ではあるが、その情報で一個人には手出しできないものだと分かった場合、俺には何も出来ない。
正直な話、そこまで話が拗れている場合、関わりたくないんだけどな。
「でも情報が揃うまでは何もできないわけで」
「案件としては緊急を要するものですけれど」
「だよなぁ。本当に人身売買とかで、他所の街に移送された、なんてことになれば、救出は絶望的だ」
どこに送られたのか、買い手は誰か。さすがに一日二日で取引が成立するとは思えないが、それでも最悪の場合を想定するならば、あまり時間はない。
こんなときに、鑑定がもう少し仕事してくれればと思う。相手の素性が丸分かりになれば、その方面から情報を得ることも出来るだろうに。要らん来歴ばっかり見るんじゃなくてさ。いや、そもそも人間とか動物とかには使えなかったか。
他にも、エウリア達がどう動くのかも気になる。彼女らは彼女らで、何かしら行動を起こすのだろうが、行動の自由度は頼った先の相手にもよるだろう。
マイレとか言ったか。その人物がどういったものなのかは、何とかして知っておきたい。確か何かの商売をしていると言っていたわけだし、商業区で軽く聞けば大なり小なり評判は耳に出来るだろう。
「……やれることはそんなに多くないが、何もしないよりはマシだろうな」
そもそも個人の力で情報戦を行おうとすること自体がおこがましい。流石に魔法で安楽椅子探偵を気取れるわけでもあるまいし。
あ、でもちょっと閃いた。今度情報系の魔法にチャレンジしてみよう。原理が説明できないので、きっと不十分なものになってしまうだろうけれど、そこは本番までにイメージをどう持っていくかだ。全ては俺の想像力次第なのだから。




