↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/151

14

 城壁の近くまで来れた。集落を出てから、恐らくそれほど時間は経っていまい。

 事実、太陽の昇り具合もまだ半分というところ。思った以上に身体強化の魔法は効果が高いらしい。

 城門に近づくと、昨日の衛兵が出迎えてくれた。


「お帰り、三三四番のお嬢さん」


 うお、マジだ。あれだけの会話で覚えるとか凄いな。しかし何というか、お帰りって言葉は何か良いな。胸の奥からこみ上げて来るものがある。


「お、おう。本当に覚えてるんだな」

「当たり前だよ。こう見えても記憶力には自信があるんだ。それにお嬢さんみたいな可愛い子を忘れるわけがないだろ?」


 とウィンク一つ。サブイボが立った。口説き文句は色々とダメだな。胃の腑からこみ上げて来るものがある。


「それで、そちらのお嬢さん方は一体どういう用件かな? 入るなら詰め所で話を聞くよ」

「その件に関して言っておきたいことがある。番号札を返すついでに俺も説明に立ち会いたい」


 事情を知っている人間は多い方が良いだろう。

 俺の提案に衛兵は頷き、門の横にある詰め所へと歩いていく。手に持った槍を軽く振るジェスチャーはついて来いということだろう。

 俺達四人は彼の後について、こじんまりとした石造りの小屋に入っていく。

 衛兵は戸棚から紙とペンを取り出すと奥の机にぽんと置く。

 詰め所の中は思った以上に広い。どうやら城壁を貫いて首都側にも建物が続いているらしく、奥の方から外に向かって交代要員らしき人物が出て行く。

 先にフィルのために仮眠用のベッドを借りる。移動式の小さなベッドだが、フィル自身が小さいので充分な大きさがある。

 キリカが優しく下ろすと、多少ぐずるように身動ぎするが、すぐにまた寝息を立てる。

 無理もないよな。精神的に疲れているんだ。


「さて、それじゃあ話を聞こうか」


 俺達は部屋の端っこに置かれた机に陣取り、説明を始める。

 彼女達は魔獣に襲われた経緯を。そして俺は街を出てから今のこの状況までの流れを。

 

「ほうー、それで親族を頼ってこの街まで、ね」


 肝心なところは話していない。騎士団とやらをどこまで信用していいか分からない。そのため、騎士団に繋がっているであろう警備兵にも、全てを話すことはしなかった。

 これはエウリアが決めたことだ。まずマイレに話を通してからだと。

 一方、俺の方で『山猫酒場』の店主に話をして良いかという問いには是を貰っている。そこが信頼できる筋なら、動けるところから動いていくべきだと。


「ん、それじゃあこれでいいかな。今まで森で暮らしていたんなら、街の暮らしは大変だと思うけれど、頑張ってね」

「お気遣いありがとうございます」


 とんとんと紙を纏める衛兵に、エウリアが丁寧なお辞儀をする。この辺は年長の功というべきか。キリカなんて退屈そうに欠伸してるっていうのに。フィルは途中で起きたけれど、何かを言うこともなくベッドに座って静かに待っている。あれ、キリカがガサツなだけ?


「ユキ、あんた失礼なこと考えたでしょ」

「何のことかな?」


 しらばっくれておく。


「それじゃあこっちから出ると良い」


 衛兵が奥の扉に案内してくれる。城壁の向こう側に出る扉で、潜ると朝の喧騒がガヤガヤと聞こえてくる。

 衛兵は軽く手を振って、詰め所へと戻っていく。恐らく再び外で検問をするのだろう。


「それじゃあ当初の予定通り、宿に行くって事でいいか?」

「ええ、お願いします。話の続きもそこで」

「だな」


 フィルをどうするか。フィルはどうしたいか。

 俺がしばらく預かるというのならそれはそれで構わない。『山猫酒場』なら安心だろうし、生活費に関しても心配はない。

 フィル自身が姉達と一緒に居たいと言うのなら、この話はそこまでだ。マイレとやらに負担が掛かるわけだが、フィルならば負担を掛けることもなかろう。短時間だが、そういう気遣いの出来る少女だと理解した。ぶっちゃけ十三歳にできる芸当じゃないと思うが。


「何ですか?」

「いいや、お前は良い子だと思ってな」


 頭を撫でる。本心からの言葉だ。良い子過ぎて、逆に心配になる。自分を押し殺してはいまいか。周囲からの過度な抑圧は、人間性を歪める。ただでさえショックが大きいんだ。俺自身もまだまだガキだが、中学生よりはよっぽどオトナだ。まぁ、それを言うなら隣を歩く姉二人の方がよほど大人なんだろうけど。いやでもキリカを大人とは認めたくないなぁ。

 考えていると、フィルが服の裾を掴んでくる。ちょっと顔が赤らんでいる。やだこの子可愛い。いやいや、何を考えてるんだ俺は。

 軽く頭を振って残る二人を先導する。道、微妙に覚えてないな。多分この通りか次の通りをどっちかに曲がったと思うんだが。


「次の道を……」

「右です、ユキ様。その後は直進すれば宿が見えてきます」

「右な。あとはまっすぐ歩けば宿が見えてくる」


 道案内は首筋に隠れたティトに任せる。俺は聞いたことをそのまま口にするだけ。楽な仕事だ。

 向かいから馬車がカラカラと大通りを進んでいく。

 そういやイリーヌさんも近日中に出発するんだったな。挨拶くらいはしておくか?

 薬の材料も手に入ったし、調薬して渡すってのも良いかもしれない。解毒の薬は色々あっても損は無いみたいだし。折角解毒系の素材を手に入れたことだしな。調合器材なら一式あるわけだし、レシピ本に何かしら載ってるだろう。


「お、見えてきたな」


 程なく『山猫酒場』が見えてくる。


「あの店かい? 『山猫酒場』……って、ユキが美味しいって言ってたお店じゃないか」

「おう。宿と飯屋が一緒になってるんだ。街じゃよくある形の店だぜ」

「や、別にそれくらいは知ってるけどさ」


 知ってるのかよ。まぁ集落に住んでいるからといって、常識が何一つ無いということも無いわな。俺みたいな異世界人とは違うんだ。


「ま、入るか。朝飯も軽いものだったし、時間的に何か摘むもんでも作ってもらおうぜ」


 言いながら宿に入る。

 すると親父さんがしかめっ面で俺を睨んでいる。


「お、おう。ただいま」

「どこに行ってやがった?」

「え? ちょっと森まで……」


 そこで地獄よりも深い溜息。何だ何だ、どうした親父さん。


「まあ無事だったってんなら良い。飯ならそっちに行って頼め」


 親父さんが顎で酒場を指す。

 そういや俺、昨日のうちに帰るって言ってた。治安が悪いとも聞いてた。

 え、もしかして親父さん、俺の心配してくれてた?


「……にやけんな。柄じゃねぇのは分かってる」

「いやいや、嬉しくてな。心配してくれてありがとよ、親父さん」


 自然と笑みが浮かんできた。誰かに心配してもらえるって、思ってた以上に嬉しいものだ。

 親父さん、そっぽを向く。照れんな照れんな。


「ユキさん、その笑顔は反則すぎます」

「んぁ?」


 いきなりどうしたエウリア。顔が赤いぞ。


「と、とりあえずご飯食べようよ。朝ごはんも有り合わせだったし、ちょっとお腹空いてんだよね」


 キリカも何だっていうんだ。

 俺を置いて二人とも酒場へ向かう。

 取り残される俺とフィル。


「何なんだ一体」

「……?」


 分からんよなぁ。フィルに聞いたって、余計に分からんよなぁ。フィルも首傾げてるもんなぁ。

 ともあれここに残っていても仕方ない。

 フィルを連れて酒場へ向かう。

 幸い時間も時間なのでかなり空いているみたいだ。

 エウリア達はカウンターに近いテーブル席に座っている。

 俺達が席につくと、女将さんが腰に手を当ててやってきた。


「アンタかい、無事でよかった。ウチの人ったら、あいつが帰ってこないってずーっとぶちぶち言ってたからね」

「マジか。それは、何というか、悪かった。色々事情があって」


 そう言って森人の少女達を見やる。


「そうみたいだね。見りゃ分かるよ。それで、着の身着のままやってきたようなお嬢さん方は、これからどうするのさね」

「親族がこちらの街にいますので、その方のところへ行こうと」

「ふぅん。んじゃその前に腹ごしらえってところかい。良いよ、何だって作ってあげるから、希望をお言いよ」


 ふふん、と鼻を鳴らして女将さんが胸を張る。恰幅の良い姿なのでかなりのド迫力だ。


「あ、じゃあ俺――」

「あんたにゃ聞いてない。何時だって好きなもん食えるだろうさあんたは」


 あっ、はい。


「何でも!? じゃああたしはミートパイが食べたいな!」

「えと、卵のサンドイッチを……」


 我先に注文するキリカに、控えめながらもしっかりと注文するエウリア。

 というかキリカ、それ作るのすげぇ時間かかるんじゃね?


「フィルはどうする?」


 悩んでいる様子のフィルを見かねてキリカが聞いた。

 するとフィルはふるふると首を振り、ぼそりと。


「……私は、ユキさんと、一緒なんです、よね?」


 途端、空気が凍る。

 もしかして昨晩、聞かれてた?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。