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「そもそも魔獣というのは、魔素が不自然に溜まった地域から生まれる突然変異の生命体です。魔素というのは魔術や呪い、魔法を使うために必要な成分のことです。無ければ無いで問題が起きるのですが、不要に溜め込めばそれはそれで問題が起きるわけです。そして数十年単位であるかないか、という頻度ではありますが、この不自然な魔素溜まりの規模が異常に肥大化する現象が起こりまして、しかもその数が非常に多く発生します」


 その結果、各地で大量の、そして強力な魔獣が辺りかまわず暴れるわけだ。自然界の大きな流れとしては、破壊された木や動物や人などから魔素が放出され大地に吸収されて、また世界に魔素が満ちていく、というものらしいが。


「破壊される自然が多すぎて、生命環境が劣悪になるんですよね。過去何度も文明が滅びたのは、この災害が理由とされています。遥か昔は妖精族の住処も完膚なきまでに破壊されたとか」


 だから悪魔、なんて呼ばれているわけか。


「ところで、今までにその悪魔というか、それを討伐した事例ってのはあるのか?」

「ありますよ。前回は大体八十年くらい前でしたが、その時は戦人の英雄がばったばったと魔獣を一刀のもとに叩き伏せていったそうです。勿論、間に合わずに蹂躙された地域もありましたが、英雄の助力無しでも国土を守った国だってあるそうです」


 今もなお復興作業中ですけど、と続けるティト。

 聞くからに、世界が脅威に晒されているってのは誇張でも何でもないようだ。

 八十年かかって復興できてないって、それ滅びてるようなものじゃねえか。支配階級の血筋が絶えてなければ、ということなんだろうけども。でもそういう事情なら次の襲撃は耐えられそうにないな。

 ただ、一ついいことを聞いた。戦人の英雄か。そういうのが出てきてくれるなら、俺一人で何とかしなくとも大丈夫ということだな。

 数の暴力は身にしみている。いくら下級の魔物だったとしても、物量でこられると消耗する。消耗しきったところに攻撃が来れば、歴戦の勇士といえどあっけなく死んでしまう。そういう光景は見てきた。妄想の中で、という注釈は付くのだけども。


「まぁ、考えても仕方ないか。手遅れになる前に手は打っておきたいが」


 丁度良いところでおっさんがバスケットと採取用の袋を手に出てくる。

 やっぱりエプロンとバスケットとか、似合わないですねおっさん。

 バスケットの中身はハムらしき肉とチーズらしき黄色いもののサンドイッチだった。ツンといい匂いが漂ってくることから、マスタードのような香辛料も使われていることだろう。弁当らしいけどむしろ今食べたい。あれっぽっちの干し肉じゃ腹は満足せんよ。


「ちゃっちゃと行ってくれば夕方には戻ってこれるだろ。魔獣が出たら無理に戦おうとはすんなよ」

「無理はしねぇよ」


 笑いながら荷物を受け取って、店を出る。

 南の森だったか。昼時なわけだから、と太陽の方向に向かって歩き始める。

 ティトも特に何も言わないから、この世界でも自転だとかは地球と同じらしい。

 それじゃあ恒例の気になったことを聞く時間。


「なぁ、何で解毒草の採取なんて依頼を選んだんだ?」


 あの中には荷物の運搬やら傷薬の調達なんて依頼もあったはずだ。

 他にも大した報酬にはならずとも、簡単なお使いみたいなものだってあったと思うが。


「当然、魔獣が出るからですよ」


 当然、と言われてしまった。

 主目的がそれかよ。いや、そもそもそうなんだけども。魔獣は倒さなきゃいけないし。


「魔獣なぁ。それってどれくらい強いわけ?」


 しかしながらその強さが想像できない。世界が滅びるなんてくらいだから、害獣等より強いことはなんとなく分かるが、羆くらいだろうか。ライオンくらいだろうか。どちらにせよ人間が一人で敵う相手ではないが。


「この国の一般的な兵士であれば三対一で当たることが最低条件です。しかも二人が大盾を装備し、残る一人が遠距離攻撃という編成でなければまず間違いなく蹂躙されます。この編成でも、運が悪いと壊滅しますし、運が良くても大盾兵が負傷します。損耗を防ぎたければ、前衛四人が大盾兵、突破されるのを防ぐために中衛にも大盾兵を二人、前衛の盾を乗り越えられるのを防ぐために槍兵が二人以上、後衛に魔術師および弓兵を配した十名から十二名のチームが必要です」

「パーティの半分以上が盾とかガチすぎんだろ……」

「基本的には前衛の大盾兵が圧力をかけ足止め。そこに遠距離攻撃を打ち込みます。前衛の盾が乗り越えられそうならば、そこを槍兵が迎撃。それでも突破された場合は中衛の大盾兵が圧力をかけ、前衛の大盾兵がローテーション。そうやって制圧しつつ、弓や魔術で削っていくことになりますね」

「ところでそれ、普通の魔獣の話?」

「最下級の魔獣の話ですね。強力な個体になると、騎士団が総出で出動します」


 それでも半数が死傷することになるらしいから、魔獣の脅威推して知るべし。というかそりゃあ悪魔なんて呼ばれるわけだよ。この世界の人口がどれくらいかは分からんが、強力な個体が大量に出るわけだろ。一匹で騎士団が半壊するなら、二匹出てきたら殲滅される可能性もあるわけだし。そんなもんが何匹も出てくるようなら、どんな国でも滅亡するわ。

 ならその魔獣を討伐している冒険者とは何者なのか。


「冒険者なら、どういう感じなんだ?」

「弓使いや魔術師、業物を所持した前衛が徒党を組んで、一匹一匹罠に嵌めて集中砲火です」


 あらやだ残酷。往年の狩りゲーを彷彿とさせるな。


「その魔獣を、俺一人でどうにかしろと。罠も無しに」


 ただの無理ゲーじゃねぇか。


「ユキ様ならどうとでもできますよ」

「何を根拠に」

「魔法使いが何を仰いますか。イメージ一つで、魔獣なんて圧倒できますよ」

「……イメージ一つ、ねぇ」


 ある程度何でも出来るとはいえ、便利なものではないと思うが。

 イメージが失敗すれば不発に終わるわけだし、人一人くらい蹂躙できる暴力を前に冷静にイメージを紡げる自信などない。

 となれば、最初から警戒しておいた上で、視認できた瞬間に一撃必殺を叩き込むしかないわけで。


「それに、魔獣一匹くらいの攻撃なら、ある程度までは私が防げますしね」

「はい?」


 防げるのこの子。やだ、本当にハイスペック。だって一般兵が蹂躙される程度の攻撃力だよな?


「さすがに強力な個体の攻撃までは防げませんが、そんなのが出ていたら今頃騎士団が出動していますよ」


 出動していないということは、逆説的に力の弱い魔獣しかいないというわけで。

 さすがに別の店で討伐依頼が出ていると思われるが、今の俺達が気にすることではない。

 出会ったら倒せば良い、それだけの話だ。


「よし。それじゃあ森に入るとしますか」


 門から街を出て暫く。目の前に広がる森に足を踏み入れる。

 鬼が出るか蛇が出るか。どっちも希望はしないが、望み薄だろうな。

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