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一班約十五人の合計五班。各班一人の呪い士に、四、五人の魔術師、そして十人前後の前衛が割り振られている。
一般的な魔獣相手と考えれば、やや過剰とも思える戦力だが、それはあくまで魔獣が一匹であった場合だ。二匹三匹と数が増えるにつれ、安全マージンとなる人数は増えていく。
一応、この編成で、騎士級の魔獣ならば十匹まで相手取れるそうだ。
準男爵級ならば七匹。それ以上の相手ならば、今回集まった冒険者の質程度では、多数の死者が予想されるらしい。
「ティトさん。それ死亡フラグって言うんですよ」
「ユキ様は面白いことを仰いますね」
何一つ面白くねぇよ。さっきから乱立してんだよ、数も質もとんでもない規模になるとしか思えない。
さすがに、対処しきれないほどの数が現れることは無かろうが。
「なぁ、さすがに、これが悪魔ってことは無いよな?」
「ええ。それだけはありえません。悪魔ならば、魔素溜まりはもっと大規模なものが大量に出現しますので」
そうか、それは良かった。そこのフラグだけは無さそうだ。
「それではこれより進行を開始する!」
ルーカスが大音声で宣言する。
その言葉と共に、陽光が地平線から顔を出す。
俺達は今から、あの太陽に向かって歩を進めるのだ。
そう考えると、なんとなく壮大な気がしてくるから不思議だ。
実際にやることと言えば終始無言で、ひたすらに歩き続けるだけなのだが。
やはり馬で二日かかる距離を、徒歩でというのは相当に疲労が溜まる。馬で、とは言っても徒歩より少し早い程度の速度での話だから、最終的には三日ほどで宿場町に着くはずだ。
およそ八〇人の大所帯。野営するにも大掛かりなものになる。見張りは交代制であり、当番から外れることもあるようなので、休めるときに休むことが推奨される。
夜になれば、同じパーティの人間同士で雑談に興じたり、あるいは力のありそうなパーティ同士で戦闘での意見を交換し合ったり、魔術師同士が効率の良い魔術の使い方を話し合ったりしている。
さて、呪い士はといえば。
「……」
「……はぁ……」
「んー……」
「ふぅ……」
何だこれ。どういう状況。何でお前らそんなに暗いの。
盛り上がろうぜ? 折角の大所帯だぜ?
俺自身も積極的に話しかけていないため――というか話しかけられるか、こんなもん――俺達の周囲だけ妙に雰囲気が沈んでいる。
さすがにこの状況は俺自身が耐えられない。どうにか打破しなければ。
「なぁ、なんでそんなにため息ばっかり吐いてんだよ」
俺の発言に、ちらりと視線を向ける面々。
だが、すぐに視線を下に落とし、そして再度ため息。
「ちょ、何がどういうことだ」
そういうことされると普通に凹むんだけど。
「あのねぇ。呪い士が五人で、どうやってあれだけの数の前衛を維持し続けるってのよ」
俺と同じようなコートを着た女が、愚痴を零す。
それに同意するかのように、軽装鎧の男が続ける。
「一班に十人の前衛。呪い士一人が、十人を支えるなど、正気の沙汰ではないな」
「一応、最前線で支えている人に強化は掛けるけれど、さすがに維持し続けるのは無茶よね」
既に諦めかけている。
いや、問題点があるなら出発前に告げておけよ。
「敵の数がある程度までなら、それも可能でしょう」
魔道具を持っていると言っていた少年が発言する。
だが、それを女が制止する。
「楽観視は止めておきなさい。ある程度まで? そんな期待をしてたら死ぬわよ」
そこには同意しておく。
敵戦力を過小評価するのは危険だ。俺自身、魔獣の強さを甘く見て、死にそうな目にあっている。
質もそうだが、数だって同じだ。
今なら全力を出せば、どんな魔獣でも相手取れる自信はあるが、二匹以上で来られたら確実に死ぬという確信もある。
戦いは、結局のところ、数なのだ。
「俺達が真っ先に魔力切れを起こす可能性が高い。支援が切れれば前線は崩壊。そして後衛に雪崩れ込み、全滅と」
「そういうビジョンしか見えてこないのよね」
しかしそれ以上に、随分と悲観的なことで。
「魔力切れなんて滅多に起こすもんじゃないだろうに。一般的な冒険者であれば、依頼が終わるくらいまでは魔力は持つんだろう?」
「あのね。アンタがどれだけぬるい依頼をこなしてきたのかは知らないけど、ペース配分を考えた上で最後まで持たせる技術を養って、それでようやく一人前なの。ザンドって人が言ってたでしょう? 最大魔術を三発以上、とか何とか。あれ、ペース配分を考えずに全力を出し続けろって言ってるのと同じだからね」
「そうだったのか」
てっきり、最大火力で出現と同時に焼き払うって意味だと思ってた。
数が相手ならば、こちらも数で勝負できる。
単体魔術を数発耐えるほどの耐久力があろうと、範囲攻撃を数十発も撃ち込めば、さすがに無傷と言うわけでもあるまい。
いや、そういう思考も危険か。もし出現した魔獣が侯爵級であれば無傷の可能性が高い。
「んー。だったら、俺が身体強化を一手に引き受ける。皆は疲労回復の呪いや、治癒の呪いに専念してくれ」
「……馬鹿げている」
俺の提案に、今まで無言を保っていた男が鼻で笑う。
まぁ、馬鹿げていると言われても仕方ないが。
「一人で、数十人同時に支援だと? そんなもの、十秒も持たずに魔力切れを起こすに決まっているだろうが」
「複数班が同時に魔獣を相手にするのよ? 最前線に絞ってローテーションさせるとしても、五分も持たないわよ」
コート女と鎧男が言葉を続ける。
それに対して、俺も魔力容量のことを持ち出し、心配は要らないと申し出るが、それすらも全員から一笑に付される。
くそう、論破したい。
「そもそも、最大魔術の連発を想定してるなら、戦闘時間は短時間のはずじゃね?」
「最大魔術って簡単に言うけれど、それほどの大規模なものなら詠唱時間があるもの。威力が高ければ高いほど、長い詠唱が必要なのよ。その時間は持たせなきゃならないじゃないの」
「魔術師の質を見るに、詠唱は一分程度かかるだろうな。数発ぶちこむのなら、余裕を見て十分程度持たせるべきだ」
「そうなると、一回に支援できるのは三人が限度よ? 二班同時行動だとしても、敵の数が三匹以上なら無理ね」
「でしたら五人支援することにしましょう。余裕はなくなるでしょうが……」
「……支援の形態を絞れば良い。どうせ盾を構えるだけだ。足を強化すれば事足りる」
「馬鹿ね。そんなことをしたらすぐにバテるじゃないの。持久力の強化も必須よ?」
「ローテーションの失敗を危惧すべきです。瞬発力の強化も必要でしょう」
「おいおい、魔獣を押さえ込まなければならんのだぞ。やはり全体的な強化が必須だろう」
無言さんフルボッコ。
俺、最初の発言意外、口を挟む暇が無い。
何だよ、話し始めれば、意外とすんなりと意見交換できるじゃねぇか。
全部全部ネガティブなのはどうかと思うが。
そろそろ解決の糸口というか、結論を出さねば、寝るに寝られない。
「とりあえず、俺の呪いを体験してみてくれ。それと、残りの魔力の申告も行うってことでどうだ」
残存魔力の確認は体感的なものらしいが、俺にはティトという秘密兵器がある。幸いまだ起きている。使った量を聞くことは可能だ。
彼らの言い分では、数人に全身強化を行えば一割から二割を失うらしい。持続させるのにも魔力が必要だそうだが、とりあえず使った時点で申告すれば良い。
俺は四人の体に、以前レックスに使ったサポーターを着ける感覚で魔法を掛けていく。
「む、体が軽く!?」
「何よこれ、本当に強化の呪い?」
「すごい、ですね、これは」
「……ほう」
どうやらきちんと掛かったようだ。しかも好感触。性能に問題はなさそうだ。
あとはティトにこっそりと、俺の残り魔力を聞くだけだ。
で、どうなんですかティトさん。
「……本当に使ったんですか? 彼らの思い込みではなく?」
「失礼だなお前は!?」
無論叫びはしていないが、相変わらず魔力の消費に関しては失礼な物言いをする奴だ。
「あー、とにかくだ。その呪いを施しても、俺の魔力はほとんど減ってない。さっきも言ったろ? 俺の魔力容量は、とんでもなく大きいんだって」
四人に向かって言う。これで少しは信じてくれると良いんだが。
「……これならば、我等は治癒と疲労除去に注力することにしよう。数時間の戦闘になろうとも魔力は残る」
「そうね。これだけの呪いを使って消耗してないなら、貴女に一任しても良いかもしれないわ」
「だが、今から全部隊の再編を、というのも問題がある」
「戦闘開始前に、全員に掛けてもらうことにしてはどうでしょうか?」
いやに饒舌な無言さんを始め、最終的に全員が俺の提案に乗ってくれることになった。
責任重大だな。だが、生存率を考えると、これがベストの選択のはずだ。
どうせ疲労回復も治癒もぶっつけ本番にしかならない。そんなものに神経を使うくらいならば、既に要領の分かっている強化役を率先して引き受けたほうが精神的にも楽だ。
こうして呪い士組の魔獣対策の夜は更けていった。
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