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「先程申し上げましたよね。魔獣を人為的に発生させる方法がある、と」

「ああ、言ってたな」


 敵国への妨害工作だの、魔獣資源の獲得のためだの。目的は色々とあるが、わざわざ災厄を呼び込まなくてもいいのに。


「その手法はとても単純です。大量の魔力を使い、周囲の魔素を集め続ければ、魔素溜まりを人為的に作ることが出来るのです」

「いや、ちょっと待て」


 それはありえない。その手法はありえない。

 大規模襲撃のときに、それは否定された手法のはずだ。

 そうでなければ、あの襲撃は俺が引き起こしたことになってしまう。


「魔術とか使ったら、一旦は集まるけど、その後は散るんじゃなかったのか?」

「ええ。ですが、連続で使用した場合においては、その限りではありません。周囲に散った魔素を再び収斂させることになるので、何度も発動させれば次第に濃度は高まっていきます」

「……だったら、あれか? 大規模魔獣戦なんかの場合、こっちの陣営が使える魔術やら呪いやらの回数は制限されてるってことか?」


 戦うためには魔力を使用する必要があるが、使いすぎると敵の増援が発生する。限られた回数や魔力で、敵を殲滅しない限り、泥沼の消耗戦が始まってしまうということか。


「さすがにそれはありません。手法を言葉にすると単純ですが、実際に行うとなると、制約が存在します。まず、魔力を使う際に、同一座標、同一時間は避けること。つまり、単独で大きな魔術を使っても、それ単体では引き金にすらなりません」


 なるほど。それならば、俺が馬鹿みたいな魔法を使ったからといって、それで魔獣が出現することにはならないわけか。


「次に発動回数です。これは単純な回数ではなく、単位時間当たりの発動回数も関わってきます。短時間に高頻度で魔力を使えば、濃度が高まるわけです」

「さっき言ってた奴だよな。連続使用で濃度が高まるっていう」

「ええ。ですがそれだけでは魔獣の発生には至りません。最後に重要なのが、魔力の性質です。これが同一であれば、魔素溜まりは発生しません」

「魔力の性質?」


 初めて聞く言葉だ。人によって異なるオーラ的なものだろうか。


「単純に言えば、魔術と呪いでは魔力の性質が異なるということです。つまり、魔術だけを連続使用しても、呪いだけを連続使用しても、無意味だということです」


 もっと単純だった。

 しかし、ということは、大規模な戦闘中であれば、いつでも魔獣の増援がありえることになるのか。強化の呪いは維持しなければならないし、メインアタッカーは魔術士だ。

 連続で、高頻度で、短時間に、様々な術が飛び交うのだから。


「さらに制約があります。使用する魔力は、常に一定であること。魔術であろうと、呪いであろうと、同程度の魔力を使わなければ、魔素の収斂が乱れます。そうなれば魔素溜まりは発生しません」

「纏めると、短時間に高頻度で一定の魔術と呪いを交互に使うことで、魔素溜まりを人為的に発生させたり、魔獣を出現させたりできるってことか?」


 だがその場合、ザンドが最後に大規模な魔術を発動させたときに、侯爵級の魔獣が出現したことはどう説明がつく?


「あの時は、使用する魔術と呪いの効果がほぼ固定されていましたから。範囲攻撃魔術と、全身強化の呪いでしたか。ユキ様の魔法と違い、魔術や呪いは効果と効力で使用する魔力が決まってきますからね。お膳立てが、奇しくも整っていたわけです。その状況での大規模魔術となれば、切っ掛けとしては十分だったわけです」

「……なるほどな」


 魔素溜まりを人為的に作る手法とやらは理解した。狙って行わなければ、まず無理だ。

 だが、それと「匂い」にどのような関連があるのか。


「洗脳された集団が一所に集められていたわけですよね」

「あ? あぁ、一応そうなるな」


 紫の光点群があったわけだから、それはほぼ確実だ。


「そして、その集団の位置から魔獣が発生した」


 状況的に、それもほぼ確実だ。つまりそれは。


「洗脳された集団が、魔素溜まりを発生させた……ってことだよな」


 頷くティト。

 しかしながら疑問が一つ。紫の光点群と言ったものの、以前の討伐部隊にいた魔術士や呪い士のように二〇も三〇も反応があったわけではない。大量の魔力を使うというには、魔力量が確保できているか怪しい。


「そこで、煙の香りが気になるわけです」

「そうか、そこで匂いか」

「ええ。名のある冒険者ならばまだしも、そうでない集団がいくら魔力を放出したところで、たかが知れた量。それを補うために、ある道具を使った可能性があります」


 ふむ。足りない魔力を補充するための煙、な。読めてきた。


「魔力を回復させる煙ってのがあるんだな?」

「ええ。実際には煙そのものではなく、含まれる香り成分ですが」


 そこで一拍置く。と、フィルが隣から声を出す。


「魔香木、ですか?」

「ええ。正解です、フィルさん」


 名前だけ聞くと、アロマ的な効能を持った品物のような気はするが。


「魔力は何もせずとも丸一日かければ全回復する。それは以前説明しましたよね」

「ああ。寝るとか瞑想するとかで、回復速度は高まったりするのか?」

「一応、そうですね。平常活動時よりも多少、といったところですが」


 言うほど高まるわけではなさそうだ。ゲームのように宿屋で一晩寝たから全回復、とまではいかないようだな。


「その速度を飛躍的に高める効能を持ったものが、魔香木です」

「何それ便利そう」


 というか、それがあれば世の中の冒険者は魔力不足に喘がないのではなかろうか。画期的な植物じゃん。

 あ、でも値が張るとかそういう問題があるのかもしれない。HPを回復させるアイテムよりも、MPを回復させるアイテムのほうが高価なのは大抵の作品(ゲーム)では常識だ。


「言い換えれば麻薬ですね。焚き染めた煙の中では無尽蔵に魔力が回復する代わりに、長時間吸えば精神が崩壊するほどの中毒症状を引き起こします」

「最悪じゃねぇか!?」


 というか、なぜにフィルは魔香木とやらのことを知っている。

 疑問の目を向けると、顔を赤らめながら答えてくれる。


「危ない木、気をつけるように、お姉ちゃん、教えてくれました」

「ああ、なるほどな。そりゃそうか」


 森で暮らす集団だ。危険な植物の知識は必須だろう。

 知らずに魔香木の枝で焚き火などしてみろ。廃人の出来上がりだ。

 火事になった時とて、麻薬の煙の中に取り残されれば、助かる見込みも無くなる。


「てことは、ティト。お前が言いたいのはこういうことか? 洗脳集団はどの道使い捨ての駒。だから魔香木の煙の中で魔術や呪いを連続使用させ、魔獣を呼び出させた。廃人になろうが出現した魔獣に殺されようがお構いなしだ、ってよ」

「その通りです」


 状況としては、理にかなっている気がする。

 だけど腑に落ちない。


「それが事実だとして、だ。説明できない点も幾つかある」


 まず一つ目。

 魔獣を街中で呼び出すという行為。一体何が目的なのか。

 敵国の破壊工作? 今は全人類が魔獣に対して一丸となって立ち向かう時期ではないのか?

 仮にそういう利益を狙う国があったとして、その魔獣を御する術はあるのか?

 ま、その辺はマイレに聞けば良いとして。

 そして次だ。これが最も重要なのだが。


「キリカは、洗脳されているわけじゃなかった」


 紫の光点群は消滅していた。殺意感知ではなく、レーダーであっても、反応は無かった。それはつまり死んだということ。

 だがキリカの反応はしっかりと赤い表示で出ていたし、彼女も生きていた。表示はまぁ、赤黒点滅ではあったけどさ。


「洗脳されてないキリカが、事故現場に居たんだ」


 ティトの推測では、洗脳集団に魔力を使わせていたことになる。

 ならばそれ以外の人間は必要ないはずだ。


「……それは、確かに奇妙ですね」


 犠牲者を増やすことに特別な理由があるのならば別だろうが。どの道死者は何も語らない。洗脳集団を送り込もうと、無関係の者を巻き込もうと、死ねばそこに違いはない。区別なんてつかないはずなのだ。


「私の知らない手法で、魔素溜まりを発生させた可能性があるようですね」

「だろうな。どっちにせよ胸糞悪い話だが」


 魔香木とやらを焚き染めた部屋に押し込んで、中の者を中毒にさせてまで執り行う儀式。

 ろくな話ではない。

 ティトの知らない手法とやらには警戒しておくとして、聞き込みを続けるべきだ。

 少し離れた店を巡り、マイレのことを探っていく。

 さっさと来てくれよ。探す手間を省きたいんだから。

次回「追跡者死す」

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