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六話

 この女の正体は不明だが、普通の人間ではないことはなんとなくわかる。


 軽く傾けていた顔を上げて彼女はゆっくりと口を開く。


 その間にさえ、不思議な上品さは損なわれず、むしろ気を抜けば見惚れてしまいそうにさえなってしまう妖絶さがあった。


「私は……」


 その時、何かが視界を遮る。 


黒い、まるでコールタールのような物が目の前で広がりそのまま俺を飲み込もうとしてくる。


 なんだこれは?


 驚きながらもとっさに後ろに飛び退いて距離を開けるとその黒い物は地面に音も立てずに広がり、まるで蒸発するように消えていった。


「こ、これは……」


 目線を上に上げると少女の姿は無く、誰一人いない道で呆然と立ちつくす俺の横を爽やかな初夏の風が吹いていった。 


 遠くの方で聞きなれた鐘の音が聞こえる。


 予鈴のチャイムの音だ。 やばい遅刻する!


 一瞬全力で走ろうと思ったが、わずかに感じた足の痛みで立ち止まる。


 このまま遅刻しよう……。 


無理に走れば傷の完治が遅くなる。


 そしてそれは戦いの中で致命的なものになるだろうということを感じていた。


 しかしそこまで考えたところで、果たしてその致命的になる戦いとは昨夜の敵となのかそれともあの少女のことなのかはわかりかねていた。 


 一、二度脚で地面を軽く踏んでみる。


 この調子ならあと二日くらいで傷は完全に完治するだろう。 


 静かに顔を上げ、学校の方角から本鈴のチャイムがなりだすのを聞きながらゆっくりと歩き出していった。





 幸い遅刻はしてしまったが、朝のホームルームまでには辿り着けた。


 担任の教師はもともと遅刻傾向があるのも幸いしたようだ。


 俺が教室に入ってカバンを机にかける。


すぐに何人かのクラスメイト達が俺の席に集まってくる。


「よお綾面……間宮と何の話してたんだよ?」


「俺も聞いたぜ、しかもなんか泣かせてたんだってな?」


 くそっ! 心配していた通りの展開だ。 


「いやなんでもないよ……ただ間宮さんと話してたら埃が入っただけなんだよ」


 俺は爽やかな笑顔で嘘を言う。 


「な、なんだそういうことかよ……まあよく考えれば綾面に女を泣かせるような度胸があるはずないもんな」


「そうそう、どちらといえば泣かせられるって感じだよな」


「ひどいな~、僕は女の子になんか泣かされないよ。それよりこの間、角松さゆりのグラビア写真集買ったんだけどさ……すごいよ」


 途端にクラスメイト達が興味深げに顔を近づけてきた。


「すごいって何が……?」


 全員顔をつなぎ合わせて次の言葉を待っている。


 なんて単純な奴らだ。


 苦笑してしまうが心の中だけで我慢する。 


俺は勿体つけるようにゆっくり息を吸って静かに焦らすように答える。


「…………全てが」


「うおおおおおおお!」


「そんな……そんな……全てが……全てなのかーーーー!」


「頼む!貸してくれ!汚さないから……使っても汚さないから!」


 まるで神に熱狂する狂信者のように声を上げる彼らと一緒に俺も声を上げる。


 曰く『角松さゆりLOVE!』と。


 クラスの女子達からの『またやってるよ』『男って本当馬鹿!』『やっぱり年上がいいよね……』という非難の言葉と凍りつくような冷たい視線もなんのその、今日も我がクラスの男達はくだらないことで盛り上がっている。


 そう……全てがくだらないのだ。 


いくら二度と来ない青い春と言ったって、気楽な学生生活だとしても所詮出来ることは限られているし、何かを生み出せるほどの熱意と才能を持った奴はそうはいない。


 おそらく日本の何処の高校でもこのような光景は見られていて、そして過去も同じようなことが繰り返されていたのだろう。


 だからと言ってみんな同じで意味なんかないとニヒリストになる気も、世を投げた哲学者のように斜に構える気もない。


 俺にはそんな余裕は無い。


 そう、昨日の通り俺には人に言えない秘密があるのだから。 



 殺人鬼であること。


 昨夜のあの惨劇のようなことを俺は定期的に起こしている。


 とは言っても恭介の権力と俺の努力(発覚しないようにばらばらにして片付けやすいように一ヶ所においておく等)によって明るみに出てはいないが……。


 なあに、およそほとんどの刑罰は発覚しなければ裁けないのだ。 


それは殺人も一緒であくまで彼らは失踪しているだけであり、しかも俺の殺したほとんどは街の不良やチンピラ等の居なくなっても喜ばれる人間しか殺してないのだ。


 何の問題は無い。  


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