26話
「ああそれは私が来るなと命令したんだ。元々三人で行こうと思っていたんでな、電話したら何か震えた声でわかりましたとだけ言っていたぞ」
……恭介、可愛そうに。
拒否されたってのが言えないからあんな態度だったのか……。
次に会った時には殴るのをやめて何か奢ってやろう。
「金のことなら心配するな。とりあえず今日一日くらいならこれで何とかなるだろう」
そういってバッグの中から何か黒いプラスチックのようなカードを取り出して見せる。
「……何だそれ?」
「わからん、持たされていたんだが、お金が無くてもこれがあれば物が買えるようだ。この服もこれで買えたので他にもまだ買えるだろう」
カードを手に取って見てみる。
凝った飾りで横にブラックカードと英語で書いてある。
どうやらクレジットカードのようだが、ブラックカードなんて聞いたこともないんだが……。
「本当にこれで使えるのか?」
「だからこの服もそれで買ったといっただろう。ふむ、それなら実践してみよう」
俺の手からカードを取り上げると、駅前にある店の中に入っていく。
「そこにあるちびっ子を連れてきてくれ」
「あ、ああ」
返事をして俺はブツブツと文句を言い続けている美野都の首根っこを持ちあげる。
「にゃ、にゃーーー!何すんのよ!」
猫のように持ち上げられてじたばたと暴れるのも構わず駒墨の後について店の中に入ったが、
「何をしている」
入っていきなり非難がましい目で睨まれる。
「な、なんだよ……!」
情けない声を出してしまった俺にあきれたように溜息をついて、美野都を自分の方に引き寄せる。
「猫じゃないんだぞ!全く粗野な男だな。お前は……」
くどくどと俺に説教を始める。
「もう高校生になるのだから、少しは世間というものを……女の子に対してもっと紳士に……」
……なんで休みに無理やり外に出されて説教されなければならないんだ?
しかも入口で言われてるので店内の客たちの注目を浴びている。
誰もが微笑ましいような苦笑するようなそんな微妙な表情をしていやがる。
「わかったわかった!こうすればいいんだろう!」
掴んでいた襟を離す。
すると美野都はスタッと綺麗に着地して俺の足を思いっきり踏みつけ、駒墨の後ろに隠れた。
どうやら俺がこの女に強く出られないことに気づいてしまったようだ。
「こっの……クソガキ……」
「君が悪い……いつまでも遊んでないで買い物を済ませるぞ」
店の奥に歩き出す駒墨の後を追いながら美野都が舌を出して挑発する。
な、なんて生意気な女なんだ!
いつか絶対ギャフンと言わせてやるからな!
「ふむ……どれにしようか」
駒墨は店内の一角に立ち顎に手を当てながらなにやら物色している。
どうも見ている服はお洒落というか子供のピアノ発表会に着せるような服というか……なんかそんな感じの服だ。
とてもじゃないが高校生が着るような服ではない。
明らかに幼稚園とか小学生低学年の子が着るようなものだ。
駒墨の私服は今日始めてみたが、こんな服装も好きなのかと若干……いや正直引いてしまった。
「俺も人のことは言えないが……趣味悪いな」
「そうか?似合うと思うんだがな」
「いや似合わないだろ……発表会じゃねえんだから」
「ふむ……それならこれなんかどうだろうか?」
いつの間に持ってきたのか駒墨の脇には何着もの服が重ねられて置いてあった。
そしてその中の一着を広げて俺に見せてくるが、
「だからどうしてそんな子供っぽい服なんだよ」
駒墨が広げたそれはフリルのついたワンピースで、どんなに頑張っても高校生が着るような服には見えない。
「ならばお前の趣味に合った服を持ってこい」
気を悪くしたのか不機嫌な調子で俺に服を選ばせる。
仕方なく俺は周囲を見渡す。
周囲の客や店員はすでに俺達の掛け合いというか話を遠巻きに聞いていて、好奇心に満ちた目でこちらを見ている。
ひそひそと聞こえてくる会話の内容から推測するに、俺がセンスのある服を選んできて彼女(?)である駒墨を納得させられるかどうかという事実とは全く懸け離れたものだったが……。
しかし事実とは全く異なるとはいえ、センスのある服をもってこいと言われた以上は意地でも納得させられるような服を持ってこなければならない。
確かにあいつの趣味は変だ……子供っぽい、しかもどちらかといえば大人っぽい顔つきだからあいつの選ぶ服を着ると何か物凄く退廃的な印象になりそうなので、俺は外見にあった服装を選ぶつもりだった。
大人向け服のコーナーに行くと、美野都がショーウインドウに飾られているマネキンを見上げていた。
ここの店のショーウインドは店内から一段高めに作ってあるので背が平均よりかなり低い美野都は首の角度を上げずには見れない。




