25話
よく晴れた日曜日の昼。
俺は駅の改札口前で一人立ちつくしていた。
「自分から誘っておいて遅刻かよ!」
毒づいて柱にもたれかかる。
完全に待ちぼうけを食らわされてイラついている様子を全身で出しながら周囲を見渡す。
しかし呼び出した張本人は姿を表さない。
何故俺が日曜の昼間からこんなところに居て、しかも間抜けに待ちぼうけさせられているのか?
俺の部屋があいつの黒水鬼に飲み込まれそうになったときのことだ。
「はあ~?なんで俺がそんなことしなきゃならな……グワッ!」
俺と恭介を自身の能力で飲み込もうとした後、部屋を出た駒墨、その後ろから主に恭介(たまに俺も)が許しを乞う。
するとおもむろに駒墨が提案したのがこれだった。
つまり……、
『今度の日曜日にどこかへ連れて行け』
まるで休日の旦那にわがままを言う主婦のようなことを言う。
冒頭の台詞を言った俺の背中を恭介がつねり上げて同意する。
「はい、わかりました!全く私達があまりに愚かで馬鹿で無能でどうしようもなくて不快な思いをさせたお詫びとして全身全霊でどこかへ連れていかせたいと思っておりますでございます」
無茶苦茶な日本語で強引に了承してしまったのだ……。
まあ恭介も休みを取って付き合うというからあいつに全部押し付けてやればいいか。
そんな計画を考えていると、ズボンのポケットから奴専用の着信音が流れる。
俺はゆっくりと携帯を取り出して電話に出た。
遅刻していることの言い訳を聞いて怒鳴りつけてやろうと思ったが、
「行けなくなった。二人で遊んでろ。それじゃ」
一言も発せられずに電話はあっさりそのまま切られた。
ふざけんなと思いすぐに電話をかける。
返事は『お客様のおかけになった番号は電源が……』というメカニカルな声で、返ってきた。
『電源切ってるから連絡してくるなよ、日曜の昼間から付き合ってられないのでバックレま~す』という恭介の本音が十分すぎるほど聞こえた。
よし、今度会ったときにとりあえず一発殴っておこう。
そう決心したところでもう一人の待ち人が例のごとくの落ち着いた声で背中から声をかけてくる。
「待たせたな」
「遅いんだよ!一体何を……して……なんでまた……」
日曜の昼間で人通りの多い改札口前で駒墨は白いチェックワンピースで足にピッタリとしたパンツ、上品なショルダーバッグを持って立っていた。
「似合うか?急遽今日の為に店員にコーディネイトしてもらって買ったんだが」
駅に入る人間、出る人間がチラチラと駒墨を見ている。
中には立ち止まって驚いた顔で立ち尽くしてしまう者もいる。
ようするに……何というか……魅了されているんだろう。
元々妙に人を引きつける物を持っていたが、可愛らしい服装でさらにその魅力が増している。
かく言う俺も一瞬言葉を失ってしまったのだが、黙り込んでしまったのはそれだけが理由ではない、駒墨より頭一つ小さい物体が何故か隣に立っていたのだ。
「なんで居るんだよ?」
率直な感想を言うと、
「うるさい!好きで来たわけじゃないわよ」
だったら来なきゃいいじゃねえか……。
「うん?何でお前そんな顔ボロボロなんだ?」
今気づいたが、頬の辺りに泥が付着している。
何となく指の腹でその泥を落としてやるとまるでじゃれつく子猫のようにもがく。
「い、いや……やめっ……ムッ、ム~!」
「暴れんなよ……ほら取れた」
意外にフニュリとした頬を汚いものがついたかのように袖口で拭いているが、顔を洗っている猫のようにしか見えず噴き出しそうになった。
「それで何でこいつがいるんだ?」
質問の相手を変えて再度聞いてみる。
「連れてきた」
簡潔に意味不明なことを返す。
「何で?」
当然聞き返す。
「大事な話をするのでな」
ますます意味がわからん。
どこかへ連れて行けというのは美野都も入っていたのか?
「うん?何でお前も汚れているんだ?」
近くに寄って見ると駒墨の顔もわずかに汚れているように見える。
さらに服もよくよく見てみると、所々破れや切れている部分がある。
「美野都が嫌がってな、説得するのに少し時間がかかってしまった」
「説得?あれが?強制的に連れてきたんじゃない!」
威嚇する猫のように全身で怒りを表現しながら美野都が抗議する。
そういえばいつの間にかこいつを名前で呼ぶのがデフォルトになっているな。
まあ今更変えてもしょうがないし、何よりなんかこいつに気を使われてると思われるのがシャクだからこのまま行くとしよう。
「美野都を連れてきたのはいいが、恭介は逃げたぞ。金を出す人間がいないんでどうするんだ?」




