19話
何だ? この感情は?
胸の奥が熱い……まるで熱気が直接身体に流されたように熱くなる。
そして何故か涙が出てきそうになる。
別に悲しいわけでも感動したわけでもない、ただ胸が熱いのとそれが美野都に優しく問いかける駒墨を見てから発生したことということしかわからなかった。
俺は何か病気にでもなったのだろうか?
「う、う、うう……あ、あんたなんかに用なんかないんだからね!」
でかい声でそのまま道の向こう側まで走り去ってしまう。
なんだ? あの女も俺達のことを知っているのか?
もしやあれが恭介が言っていた……、
「まいったな……」
「えっ?」
ポツリと駒墨が呟いた。
先程の体勢のままで、まるで懺悔するように膝をつけた駒墨の表情はうかがい知れないが、気のせいか強張ったように見える。
「逃がしちまったな……」
美野都が走り去っていった方向を見ながら俺は声をかける。
あえて言うようなことではなかったが、何か声をかけずにはいられなかった。
「ああ……そうだな」
ゆっくり立ち上がってこちらを向く 駒墨はいつもの表情になっていた。
しかし何かが違う違和感をかもし出していたが……。
街の規模に相反した大きさの駅前のデパートに入り、お決まりのエレベーターにのってまた例の操作をし、彼女の住居でもあるあの広い空間に入る。
ベッドと冷蔵庫、わずかな家具だけを配したまるで刑務所のような簡素な部屋だ。
「それじゃ俺はこれで帰るぞ」
また例の黒水鬼で強制的に戦わされるのを警戒して俺はエレベーター前に立ち帰ろうとする。
駒墨はベッドの前に立って放心したような態度で立っている。
一体どうしたんだ?
美野都に言われてから妙に静かというか心ここにあらずというか……確かに浮世離れした女なんだが、今日は特にそれが激しい。
「とにかくこれで帰るからな」
とにかくこれ以上は厄介事は抱えたくないので、気づかない振りをして帰ろうとしたが、
「まだ何か用があるのかよ」
エレベータ入り口の扉の前に黒い壁が発生し通せんぼする。
例によっての黒水鬼で、どうやら駒墨はまだ俺に何か用があるようだ。
一度溜息をつき、諦めて駒墨のところにまで歩いていく。
俺が近づいている間、まだ駒墨は立ち尽くしたままでその背中からは何か哀愁めいたようなものが立ち込めていた。




