15話
そいつは目の前で戸をいきなり開けられて間抜けな声を上げる。
そしてその間抜けの小さい身体を力一杯引きずり込んでまた乱暴に戸を閉めた。
鍵をかけて後ろを振り返るとそいつはまるで落ち着きのない猫のように部屋の端で怒ったように俺を睨んでいる。
一度息を吐いて落ち着くと出来るだけ穏やかにでも圧力をかけるように俺はそいつの意外にも大きくキラキラとした瞳を覗き込むように口を開……こうとするが、
「何なのあなた!いきなり引っ張るから転んで服がよごれちゃったじゃない!このバカ!エッチ!ヘンタイ!」
開く前に言葉の弾幕でふさがれる。
「い、いや……どうして後を……」
「バカバカ!死んぢゃえ!間抜け!おたんこなす!」
な、何なんだこの女は……。
高校生にもなるというのにこのボキャブラリーの低さは……というよりなんだこの子供っぽさは?
いくらチンチクリンだとはいえ頭の中まで見た目相当になることもないだろうが……いやそんな事を考えてる場合じゃない!
「何とか言いなさいよ!」
「ウグッ!」
ヒステリックな言葉と共に意外に強烈な蹴りが俺の鳩尾にヒットする。
こ、この野郎……。
「静かにしろ!」
乱暴に頭を掴んで叫ぶ。
しかしそれは余計に相手の逆上を誘ったようでさらにギャーギャーとわめきつづけている。
「静かにしろって言ってんだろこのチンチクリンが!頭ぶったたいてその小学生の身長を幼稚園児なみにしてやろうか!」
「誰が小学生よ!そっちこそ人の良さそうな顔してこんなヘンタイなことしてご先祖様に恥ずかしいと思わないの!このヘンタイ!ヘンタ〜イ!」
「う、うるせえな!大体他人の後をストーカーみたいにつけやがって、そっちこそヘンタイじゃねえか!ヘンタイ!ヘンタイ!ヘンタ〜イ!」
「ムカ〜!あんたなんか最初っから相手になんかしてないもん!本当に用があるのは……」
そのときバキリという音がして扉が開いた。
思わず口論をやめて二人で同時に振向くと、そこには駒墨が立っていた。
「な、何で……こんなところに……」
「うん?ああちょうど陸を探していたところだったんでな、ちょうどお前らがここに行くのを見たから……しかしまさかこんなところでこんな少女を食おうとするとは……」
駒墨が非難するようにしかめっ面をする。
なんてことを言う女だ。
俺がこんなチンチクリンに欲情すると思ってやがるのか……。
「この状況を見てそんな感じじゃないってわからないのかよ!」
「う〜ん別に多少強引でも問題でもなかろう。事実、私もそのときには多少無茶はするんだが?」
顎に手をつけながら物色するようにチンチクリンを見つめる。
な、なんて女だ……。
可愛い顔してデリカシーのない奴め……俺の嫌いなタイプだ。
「だ、だからこんな子供に……」
「誰が子供よ!このエロヘンタイが〜」
俺の脛にチンチクリンの全力の蹴りが入る。
痛みに膝をつく。
自身よりも背が低くなった俺の頭の上に、おまけだと言わんばかりに拳を組んで全力を叩きつけた後、駒墨の横を通って部室から出て行ってしまった。
「元気な子供だ……しかし制服を着て学校に侵入するとは……少々元気がすぎるな」
感心したようにうなずいた後に未だ悶絶し続けている俺を見下ろしながら部屋の隅のベンチに座るこむ。
「……何で黙ってんだよ」
ようやく痛みがおさまってきて口を開いた俺に、ふふんと微かに笑いながら、
「別に……陸を見ていただけだよ」
そのまままた口元に笑みを浮かべたまま俺を見下ろしている。
くそっ! あんな姿をまさかこいつに見られるなんて……。
まるでガキみたいな低レベルの口げんかしてたのを見られたのが他の奴だったら行方不明になってもらうんだが……。
チラリと見上げると、駒墨はまだ何か笑みを浮かべたまま俺を見つめ続けていた。
ふと切れ長の目の奥に見える綺麗な瞳に一瞬見惚れてしまい、すぐに目を逸らして一気に立ち上がる。
スネはまだ激しく痛むが、いつまでも見下ろされる続けるのも我慢ならないので出来るだけ無表情に努める。
「で、俺を探していたってのはどんな用件なんだ?」
「とりあえずここに来なさい」
少し横に動いて駒墨がベンチを軽く叩いて座るように促す。
「いや……別に大丈夫だ」
そう言うと不満気に眉間にシワを寄せ、
「私はここに座れといった……それをしてくれないのなら君と話すことなんかないな」
そういってそっぽを向いてしまう。
「話ならここに居てもできるだろうが……」
「大事な話だ。だからこそ来てもらわなければできない」
なんだろうか?
真剣な顔をしているところを見ると本当に誰かに聞かれるとまずいことなんだろうか?
駒墨は俺の返事を待っている。




