第9話『裏切り』
【???】
シュー‥‥ポーン。エレベーターは地上についたことを知らせた。降りると目の前に広がる殺戮の跡。これは私の“こどもたち”がやったもの。
「ふふっ成功ね」
私は現実を見たかった。モニターから覗く世界なんてもうたくさん。5年も部屋に閉じこもった。楽しみだわ‥。
ウィーン‥‥エレベーターが動き出す。
「わたしを追っても無駄よ。私には“こどもたち”がいるもの‥‥ふふふ」
そう言うと白衣の女は走りだした。
【柏木】
目標まであと30マイル‥。
もうすぐだ。例の数値はどんどん小さくなっていく。
「こちら隊長機。ロール、大丈夫か?」
「異常はありません」
「そういうことじゃない。確かお前の故郷だったろ」
「ええ、でもしょうがないですから‥」
「家族に連絡とったのか?」
「実は繋がらなくて」
俺は飛び立つ前に一度実家に連絡を入れていた。しかし出ることはなかった。何度もかけ直しても出ない。そうこうしているうちに回線はパンク状態になった。
「柏木、ここは我慢だ。きっと家族は無事さ」
「ありがとうございます」
もう半ば諦めていた。俺はハリのない声で答えていた。
《全機に告ぐ、残り5マイル》
その声で我にかえった。そうだ、今はやらなくてはいけないことがある。それに集中しなくては‥そればかり考えててもだめだ。
《投下地点予定時刻まで30秒。全機、投下準備》
このなかには物資が入っている。早く届けたい気持ちでいっぱいだった。
《5‥4‥3‥2‥1‥投下》
ガタン!
タンクは音をたてて下に落ちた。
《作戦終了、全機きと‥‥‥》
突然通信にノイズ音が入った。
「こちら隊長機、AWACS応答を」
ビビィー‥‥‥
応答はなかった。
「こちらメビウス、ジャミングの可能性あり。レーダー反応は薄いが20000ft上空にAWACSとは別のE-767」
「ばかな、そんなはずは‥‥!」
その時だった。上からさっきまで共にいたAWACSが火を吹いて落ちてきたのだ。
「警報!後方より国籍不明機接近」
「国籍不明機!?」
「こちら隊長機、全機低空で‥‥」
隊長が全機に逃げるよう指示する瞬間だった。となりにいる【メビウス】がミサイルを発射した。3秒ぐらい経ってそれは当たった。
「隊長機応答せよ!!」
応答はなかった。下を見ると2機墜ちているのが見える。
「メビウス、どういうことだ!!」
「‥‥‥‥‥」
「くそっ!」
東郷の声だ。メビウスに狙われ逃げている。他の僚機は既に撃ち落とされたあとだ。
「祐ちゃん、聞こえるか?」
「大丈夫か!?」
「俺はもうダメだ。たぶん振りきれねぇ‥ほら、後ろ見ろ」
「え」
後ろから国籍不明機が編隊でやってきた。そしてそこから発射されたミサイルは確実にこっちに向かってきている。コックピットに警報音が響いている。俺は絶望を悟った。だが目の前にいる東郷の機体から光が発した。‥‥発光信号だ。
《ベイルアウトセヨ》
【???】
身体が言うことを聞かなくなってきた‥。あれを注入してから30分。身体のなかで変異が起きているころ。もうすでに左手の色がおかしくなっている。
「最初にこの手を選んだわけね‥」
自分のものでなくなりかけている左手をしまい、私は走っている。
「あの子を守らなきゃ‥‥!」
ドサッ
突然目の前に現れた黒いコートの男。帽子をしていて顔が見えない。
「おとなしくしてろ。どんだけ探したと思ってる」
「あなた、G7かしら?それとも‥自衛軍?」
「どちらでもよい。さっき部下2人を君に送った。あれを射したから撃って殺したと報告があったもんだから‥案の定これだ」
「残念ね。もう遅いわ。すでに変異は始まっていて止めることはできない。あなたに私を殺すことはできない」
「おまえももうじき死ぬ運命だ。意識を失い、暴走のあげく‥な」
男は一本のナイフを片手に持ち、丁寧に拭き始めた。
「30秒だ」
「え?」
「《佐久間博士》、おまえを消す」