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第5話「その名も『竜勇士団』レニア。」

 二人目の女の子は、十七、八歳くらいのお姉さんである。マントを羽織った旅装の彼女は、黒髪を編んで芸術的に頭に巻きつけている。細面(ほそおもて)の美人であるが、鋭い目つきがややその魅力を損なっている。マントの下から革製の胸当てと剣の(つか)のようなものが(のぞ)いていた。

「あの、今、何ておっしゃったんですか?」

 ユートは訊いた。聞き間違えたのか、と思ったのである。相手が女の子であるので、緊張してうまく聞き取れなかったのだろう。

勅命(ちょくめい)により、お前を斬る。表へ出ろ」

 少女が言う。

 今度はちゃんと聞き取れた。そうして、大変残念なことに、聞き取れた言葉は、さっき聞いた言葉と大差なかった。どうやら聞き間違えたわけではなかったらしい。

――いったい何を言っているんだ、この人は?

 混乱するユートの前で、少女は、後ろ足で二三歩あるいて距離を取った。それから、ユートに向かって、「こっちに来い」と言うように、手を振る。激しく行きたくないユートは、その場から、もう一度、同じ質問を繰り返した。

 何度も同じことを繰り返させられることに、ちょっと苛立ったのか、少女は、

「お前を、殺す」

 ゆっくりはっきりと発音したあと、「聞こえたか?」と口早に確認した。 

 ユートは、確かにはっきりと聞こえはしたが、

「……あの、どういうことですか?」

 と問い返さずにはいられない。意味が全く分からない。なぜ見も知らぬ子から殺されなくてはならないのか。

「いいから、とりあえずこっちに来い」

 少女がきびきび言う。

――「とりあえず」って、なんだよ!

 「とりあえず」で殺されてはたまらない。心中で反発したが、威厳を持った命令にユートは弱い。仕方なく玄関から出て、少女と数歩の間を置いて立った。後ろにサヤが回るのを感じたユートに、

「武器は?」

 前から少女が言う。

「……何ですか?」

「武器だ」

「武器って……何のことです?」

「お前が使う武器だ。もし無いなら――」

 少女は、腰の鞘からサーベルを抜いた。

「それを使え」

 ユートの足元にサーベルが転がる。ユートは、それをただ見るだけで、手を伸ばしたりはしなかった。剣なんか持ったこともなければ、使ったこともない。少女は、その様子を無感動に見ながら、自分の脇に手を入れた。

「準備はいいな?」

 脇に吊ってあったらしい短剣を抜きながら言う。短剣の白刃が日の光を(はじ)いてきらめく。

 なにも良くない!

 どうやら、戦うことを要求されているらしいが、どうして、今初めて会った子とそんなことをしなければいけないのか。しかも、得物(えもの)は真剣である。どう考えても正気の沙汰じゃない。

 少女は短剣を構えて、突撃の体勢を取っている。

 ユートはパニックに陥りそうになりながら、慌てて口を開こうとした。そのとき、

「もうちょっと説明してあげてもいいと思うけど」

 背後からサヤの声がした。

 短剣の少女は、構えを解いた。それから、「まだ言ってなかったか?」とひとりごとのような呟きを虚空に落としたあと、

「ヴァレンス王女、アンシ・テラ・ファリア様の御名(みな)において、ユート・カート、貴様を魔王クヌプスの血に連なるものとして、処刑する」

 平板な口調で言った。

 そよ風がユートの頬をなでる。

 少女が何を言っているのか全然理解できないユート。隣国ヴァレンスの王女の名前は聞いたことがあった。しかし、魔王クヌプスとはいったい誰のことか。それに、その血に連なるというのは?

「わたしは、アンシ殿下にお仕えする『竜勇士団』がひとり、レニア・ガロン」

 ユートの心中の疑問にはなんにも答えずに、少女が言う。そうして、それで話は終わったと言わんばかりに、またぞろ短剣を構えた。

 少女には全く力みが無い。剣呑(けんのん)な言葉を吐くその身は平然としている。まるで、隣家に届けものでもしにきたかのような気安さである。それが、ユートの危機センサーにビンビン来ている。師の薫陶(くんとう)のおかげをもって、ユートは危機察知能力に()けている。分からない。事態が全く分からない。分からないけど、ヤバイ。ヤバイ、ということだけは分かる。

 早くこの場を逃げないといけない。本能がそう告げている。しかし、逃がしてくれそうな雰囲気ではない。少女は、前傾姿勢になって今にも襲いかかろうとしている様子である。

「ちょ、ちょっと待って!」

 本気で殺されそうなときにあって、女の子が苦手だとか何とか言っていられない。ユートは両手を突き出すようにした。

「あなたが何を言っているのか、全然分からない。もっと、ちゃんと説明してください!」

 そう言いながら、ユートはじりじりとあとじさった。

「なるほど、ちゃんとした説明か……」

 レニアと名乗った少女は、構えたまま言った。

 ユートは、うんうん、とうなずいた。よくよく話し合えば、間違いに気がついてもらえるかもしれない。

「必要ない。死ね」

 レニアは、突っ込んできた。

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