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第12話「雇った冒険者はスゴイ人でした。」

 老師に頼る、という考えは、窓口まで歩いていくわずかな時間で、すっぱりと消えた。

 いくら元気だとはいえ、御年(おんとし)七十を超える立派な高齢者である――そんなことは口が裂けても言えないけど――無茶をさせていいわけがない。単に隣市に小旅行に出かけるだけならともかく、危険な刺客(しかく)につけ狙われる逃避行。師の身にサーベルが迫るかもしれないと思えば、それは自分の身がどうにかなるよりも恐ろしい事態である。もちろん、そんなことを考えている場合ではないのだけれど、そんなことを考えてしまうユートは、つまりはそれだけ師のことを敬愛しているということだった。

 副団長に、一番信頼できる人を頼れ、とアドバイスを受けたとき、老師のことを思いつかなかったのは、無意識のうちに師のことを思いやって、選択肢の外に置いていたからである。そう結論したユートは、そんなカッコをつけている場合ではないのだが、師を思う自分にひそかに満足した。

――先生は頼れない。

 いや、頼らない、と心に決めたユートが窓口の前に立つと、近くに一人の青年がいるのに気がついた。

 二十歳前くらいの青年である。鳥の巣のようになったぼっさぼさの茶髪、うっすらと髭を生やした口元に気弱げな愛想笑いを浮かべている。体格も雄偉とは程遠い細身で、荒くれ者の住みかのような冒険者協会にはいかにも似つかわしくない。

 自分と同じ依頼者だろうかと思ったユートは、軽く会釈をしてから、窓口の向こう側のお姉さんを見た。

 お姉さんは、二コリ、とすると、

「では、こちらの契約書にサインをお願いします。それと、料金ですが、10万ガルト及び旅中の必要経費となります。違法行為にはご協力できません。もしお客様が違法行為を行っていた場合、ただちに契約を解除させていただきます」

 そう言って、紙を一枚、差し出してきた。

 ユートは、言われるままにペンで自分の名前を書こうとして、ハッと気付いた顔を上げると、まだ肝心の護衛の人を紹介してもらっていない、と言った。どんな人を付けてくれるのか分からなければ、契約のしようがない。子どもだからといってバカにされているのだろうか。ユートが、迫力に欠ける顔を精一杯強張らせて、お姉さんを見ると、彼女はユートの気持ちを読み取ったように、

「護衛はそちらのリムウ・マイアードが行います」

 という答えが返ってきた。

 ユートは、え、とまともに驚いた顔を隣に向けてしまった。青年が弱弱しい微笑を浮かべて、ユートを見る。ユートは、彼のことをてっきり自分と同じ立場であり、協会の依頼者かと思っていた。まさか冒険者だとは。とってもそんな風には見えない。人は見かけによらないものである。

――待てよ。

 ユートは思った。もしかしたら、成り立てのルーキーかもしれない。もしそうだったら、それは困る。王女の暗殺者に狙われているのである。相応の人に守ってもらう必要がある。ユートは、窓口のお姉さんに、青年のことを訊いてみた。

「しっかりとした実績のある方です。ランクもBですから」

 ユートはまたまたびっくりした。協会に属する冒険者には、実績に応じてAをトップにして、AからEまでのランクが用意されている。そのランクによって回ってくる仕事や、受けられる報酬が変わってくる。ランクBといえば、トップから二番目のランクであって、悪くない。どころか、かなり優秀な冒険者しか受けられないランクである。

 実を言えば、Aランクの上に、更にS、SS(ダブルエス)SSS(トリプルエス)というランクがあるにはあるのだが、これらはそのほとんどが実績によるのではなく、名誉ランクとでも言うべきものであって、協会に対して特別な功労があったものに贈られる。例えば、協会に多額の寄付をするなど。

 なんにせよ、実質的なトップランクはA。それに次ぐBは、全冒険者中の一割ほどしか占められていない。

「当支部が自信を持ってお薦めできる人材です。現在、お客様のためにご用意できる最高の人材ですよ。まあ、見た目そんな風に見えませんけどね。『なにそのヒゲ、カッコイイと思ってるの』ってなもんですけど。髪もボサボサしてるし。もうちょっと何とかしろよと思いますが、でも、腕は確かです」

「ワカさん。それ褒めているんですよね?」

 青年が苦笑しながら言うと、窓口のお姉さんは、もちろん、と自信たっぷりにうなずいてから、

「リーグル・スレイヤーでもありますから、ご安心ください」

 とユートに微笑みかけた。

 ユートはまた驚いた。「リーグル・スレイヤー」というのは、地上で最強の肉食獣リーグルを打ち倒した者に与えられる称号である。冒険者の間では、それは一種のステータスとなっている。

「よ、よろしくお願いします」

 ユートは書類にサインを済ませると、緊張した面持ちで、青年に頭を下げた。

 青年は、手を振りながら、

「いえいえ、こちらこそ」

 と言って、顔を上げたユートに人の良さそうな笑みを向けた。

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