【幻想譚】彼岸花の池|雪の日、神社で見つけた赤い花
雪が積もった通りを歩いていた。
今日も主人と神社で待ち合わせ。
その神社は石段がたくさんある高ーい場所。
彼女はいつも通り上の方に見える鳥居をジトリと見つめる。
(はー。毎回毎回、どうしてこんなに石段があるんだよ〜。
まぁ、登る度に石段の数変わってたら怖いんだけど)
せっせと足元だけ見ながら一段一段と登ってゆく。
途中でちらりと見上げるが、石段はまだまだ続く。
「はぁ〜、あと半分くらいかな……」
そう呟きながら、いつもは見ない横の竹藪に、ふと目を止める。
そこには、1本の赤い花。
「……花?」
鳥居を見上げ少し悩む。
「……少し待たせちゃえ」
右の人差し指を曲げて唇に添えくすりと笑う。
赤い花が見える竹藪に、そっと分け入る。
「あっ……」
彼女はびくりと止まり、視線を落とす。
「やっちゃった……」
足元を見て、ぺろっと舌を出す。
水たまりか、足元は水浸し。
足をそっと抜こうと右足を水から上げる。
「うわっ」
体がよろめき前のめり。
「あっぶなぁ」
左手を胸に当て、息を吐きながら、前を見る。
そこには見渡す限りの彼岸花。
「わ……ぁ……」
(ここ、池?)
つま先で何度かつんつんと、池の底をつついてみる。
どうやら池はかなり浅い。
「大丈夫そう、だね……」
水の中に足を入れたまま、ゆっくりと足を進める。
池の真ん中近くまでそっと歩くと、足を止める。
その花たちは小さなまぁるい池を囲んでいた。
自分を囲むような一面の彼岸花。
「きれい……」
しばらくその光景にうっとりする。
「あっ、主人待たせてるんだった!」
ハッとし、腕時計をちらりと見つめ、もと来た道に振り返る。
その時、ぐにゃりと視界が歪み、体がふわりと傾きかける。
「えっ?」
一面の彼岸花が斜めに見え、思わず池の中でしゃがみ込む。
しかし、視界は斜めになってゆく。
池は、彼岸花とともに傾いてゆく。
彼女は目を強くつぶったまま肩を震わせる。
しばらくして、そっと目を開くと、左右には座席が並んでいた。
「……え?」
彼女はゆっくりと立ち上がり、周りを見つめる。
そこには、何かを待つかのように、何人かの人が無言のまままっすぐ前を見つめていた。
彼らは一言も喋ることなく、膝の上に握った拳を置いている。
彼女は他人事のようにぼやりと見つめ続ける。
「あ……帰ら、なきゃ……」
座席の前を見つめると、カーテンのかかった出入り口のようなものがあった。
彼女は吸い寄せられるかのように、そこへ進む。
「……帰らな、きゃ……」
呟きながら、カーテンをそっと上げる。
そこには、いつもの石段が続いていた。
彼女は石段の上の鳥居を見上げる。
そして、そっと後ろを、振り向いた。
竹藪には、一本の赤い花が、ひっそりと咲いていた。
本文:霧子ノア本人作
※本作は、noteにも掲載しています。
主掲載先はアルファポリスです。
『静かな悪戯』本編は、2026年8月1日よりアルファポリスにて掲載開始予定です。
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