めげない――でも、へこむ
さて、この世界はまだ女性が独り立ちできない仕組みなので、新たなご縁が必要だ。
女性に免疫がない理系男子ならぬ、魔術オタクのご令息にターゲットを絞ってみようか。
もしかしたら、溺愛生活が待っているかもしれない。
実は、ご縁に心当たりがあるのよね。
お友達が「お兄様が研究にのめり込んで困ってしまう」と言っていたから、近いうちに紹介してもらおう。
こだわりが強すぎたり、常識が違いすぎたりして気が合わない可能性もあるけれど、それは普通のお見合いも同じことだし。
社交界で理想的な淑女であることに拘らず、「それなりに幸せ」を目指すなら、いくらでも道は開けるのだ。
逞しく、生き抜いてやる。
とはいえ、二回も婚約破棄された私。
前世で言うところの、バツ二の扱いになる。気にしない人は気にしないけど、それだけでシャットアウトされることもある。
オタク君が潔癖症でないことを祈ろう。
だいたいさぁ、役に立たない前世の記憶なんか、どうしろっていうのよ。
夫唱婦随の世界で、独立独歩の女なんか浮きまくる。
昔の女傑みたいに、「戦って権利を獲得する」なんて声高に言えるほど、志が高いわけじゃない。
本当に、自分らしく生きたいだけなんだよ。
まあ、前世でも自分らしく生きるというのは難しくて、実現している人なんて滅多にいなかったけど。
それでも納得できる生き方を見つけたいよね。
夕食の場で、父にため息を吐かれた。
前回の婚約者は、選んだ父の目が節穴だった。だけど今回は思春期で、彼がおかしくなってしまったのだ。仕方ない。
可愛い泣き虫が、いきがって浮気三昧になるなんて予想できないよ。
「父上のせいじゃありませんよ?」
私は優しく言ってあげた。
「そんなことは考えていない」
そう言われると腹が立つな。
父の人脈がろくでもないんじゃないですか、と憎まれ口を叩きたいところをぐっと飲み込む。
「お前の性格と将来のことで頭が痛いのだ」
あら、怒られた。
「二十二歳までに相手を見つけますので、それまでお待ちいただけませんか。
父上もまだまだお元気ですし。
見つからなかったら修道院に参りますので、養子でも取ってください」
こちらの世界では、安全に出産できる期間が短い。だから、結婚適齢期が早いのだ。
「お前はまた薄情なことを言う」
父がワインに手を伸ばした。
母は、我関せずで食事を進めている。
同性だからこそ、私がどうしようもないことを悟っているようだ。
というか……一度大げんかをして、「分かりあえない」と分かりあった。それ以来、母は何も言わない。
受け入れてくれたのか、説得を諦めたのか――。
だって、家門が大事とか言われてもピンと来ないんだもん。
自分を犠牲にしてまで守りたいとは……って、思っちゃうの。本当に、それはごめん。
貴族として領民の税金で生活しているのに、貴族に馴染めてなくて。
でも領地返還したら国が預かってくれる。領民にはあまり影響ないはず。
だから、あとは名誉とかご先祖様がとか、そういう話なんだよね。
前世が先祖代々の大金持ちだったら、理解できたのだろうか。
ちょっと待って。
家臣は……再就職頑張ってと、応援する?
転職は前世の日本より厳しいのかな。厳しいよね、路頭に迷っちゃうよね。
じゃあ、そうならないよう養子を頑張って探すか。
いやいや、その前に婿を探せってば。――いつまでも現実逃避していちゃ駄目よね。
はぁ~、ちょっと疲れた。
私は、この世界にいまいち馴染めていない。
もう、この年まで来たら、一生違和感を抱えたままなのだろう。
私の変わったところも、目をキラキラさせて見ていた少年――元婚約者なら、呆れながらも受け入れてくれていたんだけどな。
都会の寮生活ですれちゃったね。ぐすん。
どこかに同じような転生者がいれば、話が早いのに。
探しに行こうかな。
婿を探して三千里……なんてね。




