戦闘開始
「婚約をぶち壊せ! 転生少女は自由を求める」の続編です。
前作を読まなくても、お楽しみいただけるように書いています。
興味が湧いて読んでいただけたら嬉しいので、URLを置いておきますね。
https://ncode.syosetu.com/n7931lu/
私は先日婚約破棄された。
相手が不貞を「真実の愛」と言い、泥棒猫をいじめたとわたくしを責めた。
不届き者を成敗するのも、婚約者の役目ではなくて?
でも、婚約破棄は成立した。
とある貴族の夜会で断罪されてしまったのだ。もう、なかったことにはできない。
事後処理でお父様と忙しく動き回った。
ようやく一息入れられるとお気に入りのカフェで気分転換していたところ、浮気男と泥棒猫がやってきた。
ここは下級貴族と裕福な平民が集う、流行最先端のオシャレなカフェ。
夜会とは違った層に、どちらが悪いかをアピールする絶好の機会になるだろう。
私は女優。
そして貴族のプライドより、庶民が好きそうな情に訴える。
高飛車な女より、健気な女がよいはずだ。
「わたくしのお気に入りの店に連れてくるなんて」
婚約破棄された令嬢が、哀れな声を出しますよ。ほら皆様、ご覧になって!
店中の耳が、こちらに向いた。
貴族たちはそわそわし、平民は遠慮せずに観劇する態勢をとる。
「わたくしたちの思い出すら、踏みにじるおつもりなのね」
私は小さなポーチからハンカチを取りだし、思わずといったふうに握りしめる。
「お前こそ、恥ずかしげもなく街をうろつき回っているとは思わなかったぞ。
新しい男を漁らないといけないもんな」
泥棒猫の肩を抱いて、鼻で笑う。まあ、下品だわ~。
どうしてこんなに口が悪くなってしまったのかしら。
――どうしてもこうしてもない。そういう友人たちとつるんでいるからよね。
元々の背の高さに加え、今は私が座っている。立ち位置って大事だわ。見下ろされると、威圧感がある。
それにしても、なんてひどい言葉を投げつけるのだろう……。
気の弱い令嬢なら泣き崩れて、そのまま引きこもるかもしれない。
だが、私は転生者。
いち読者として歯がゆく思う場面を読みながら、「自分ならこう反撃するのに」とシミュレーションするのが趣味だった。
クズ男に反撃を加えることをためらったりはしない。
世のため、人のためにもなるはず。
浮気女の武器をこちらも使って、鏡返しにしてやるわ。
(脳内で「きら~ん」と効果音をつけます)
では、参りますわよ。
「まあ、ひどいわ。
婚約破棄された女性がどうなるかわかっていて、解消でも白紙でもなく、一方的に……破棄だなんて。
四年も婚約していた相手に、思いやりの一欠片もないというのね」
私は声を震わせ、ハンカチを目尻にさっと当てる。
私の侍女が、控え室から顔を出してこちらを見ている。
後でお母様に報告するために、一字一句漏らさない覚悟を感じるわ。
ここは女性に人気のカフェだ。
浮気を嫌う人が多いはず。
女が涙を見せたら無条件で味方してくれる、節穴な男連中はいない。
「そ、そんなに睨まないでください」
はい、出ました。お得意の小動物系の演技。
「生まれつき吊り目なんだもの。仕方ないじゃない」
生粋の令嬢だったら言わないような泣き言を、私もうるうるした目で言ってやったぞ。
さあ、どう返す?
お前のいつもの手管に、こちらは意外性とギャップを上乗せだ。
元婚約者様は、初めて見るしおらしい私に目を丸くしている。
十三歳でお見合いをしたとき、彼はまだ十一歳の子どもだった。
中性的というより、美少女に見えるくらい華奢だった。
からかわれて、涙ぐんでいたのが懐かしい。二歳年上の私が庇ってやったものだ。
十五歳になると、王都の貴族学園に入学する。彼は親元を離れて寮に入った。
(ちなみに私は母親がお目付役を頑として譲らず、王都で一緒に暮らしている)
彼は思春期の真っ只中。そこで自分がモテることに気づいてしまった。
お、元婚約者が胸に手を置いて顔を赤らめているぞ。
あざとい演技がヒットしたか?
というか、こういう系が好みならば、いつもの私が気に入らないわけだわ。
しかし、チョロすぎる。初心な田舎者のままか。
悪い女に引っかかりまくる未来が想像できて心配になる……いや、もう心配しない。他人だ、他人。
いかにも嫌そうにエスコートしたことや、怒鳴られて婚約破棄を迫られたこと、根に持っているからね。
かわいい「弟」からクソガキに格下げしたので、もう容赦しない。
カフェにいる皆様に「キツい顔立ちだし、いかにもいじめをしそう」と思われるのを回避できたかな?
見せつけるように泣く泥棒猫と、涙を隠そうとする奥ゆかしき令嬢の勝負。
チラ見せという日本人の極意ですわ、おほほほ。




