母校よ
2月の上旬の事だ。大学生の進は、長い春休みを利用して、実家に向かっていた。実家は街の中心から少し離れた所にある。ここは周りの集落に比べてそこそこ家々が立ち並び、子供たちが多くいるが、以前と比べて少なくなったという。進はその理由がわかっている。少子化だ。どこもかしこも少子化が進んでいる。そして、高齢者が増えている。進は思っている。どうすればこれを食い止められるんだろうか? そのためには、結婚、出産はもちろん、政府の政策が大切なように思える。
「帰って来たか・・・」
故郷、塚島が見えてくると、進はワクワクしてきた。もうすぐ実家に帰れるからだ。もう何度も帰省しているけれど、何度帰省しても、その時はワクワクする。
進は塚島駅に降り立った。進は深く深呼吸をした。これが故郷の空気なんだ。
と、進はこの近くにある小学校を見た。塚島小学校だ。
「塚島小学校、か・・・」
もう何度も帰ってきているけれど、今年はどこか特別だ。それは、この近くにある、塚島小学校にある。塚島小学校は進の母校だ。だが、再来月で東部小学校にある。川を挟んだ向こうにある小里小学校が、生徒数の減少に伴い閉校になり、それとともに名前が変わるという。旧小里小学校の校区の子供たちは、再来月からスクールバスで東部小学校に通う事になる。これは帰省する直前にインターネットで知った事だ。
進は家までの道を歩いていた。ちょうど、進は塚島小学校の生徒とすれ違った。恐らく、下校途中だろう。彼らは楽しそうだ。彼らは、再来月から小学校の名前が変わる事を、校歌が変わる事をどう思っているんだろうか? 寂しいと思っているんだろうか? あまりそう思っていないんだろうか?
進は実家に戻ってきた。いつも通りの風景だ。とても懐かしい。
「ただいまー」
進は家の中に入った。すると、母がやって来た。
「おかえりー」
進は笑みを浮かべた。母と再会したからだ。
「どう、大学での日々は」
「まぁまぁだよ」
進は苦笑いをしている。大学での日々は順調だ。友達が多くできたし、学業もうまくいっている。
「そっか・・・」
母はどこか寂しそうな表情になった。塚島小学校の名前が変わるからだ。母もその事を知っている。母も塚島小学校の卒業生で、名前が変わるのを残念に思っている。
「小学校、名前変わるんだね」
「うん」
母は下を向いている。よほど残念なようだ。これまで塚島小学校と言っていたが、再来月から東部小学校と言うからだ。
「どう思う?」
「残念だと思う」
母は残念だと思っているのか。以前、電話で話した時も残念だと言っていたな。
「そうか・・・。僕はそう思ってない。名前が変わっても、校舎がそのまま使われるのに変わりはないから」
だが、進は残念だと思っていない。校舎はそのまま残り、東部小学校として使われるとの事だ。そう思うと、東部小学校にも親近感を覚える。
「そうだな。校舎はそのまま使われるんだよね。でも、名前が変わるってのがなぁ」
でも、母は名前が変わること自体が気になるようだ。まるで自分の母校がなくなってしまうかのようだからだ。
「うん。統合によって変わるんだよね」
母は小里小学校の事を考えた。小里小学校の子供たちとは、中学校で一緒だった。まさか、その小学校と一緒になるとは、誰が予想したんだろうか?
「小里小学校を吸収する形になるのか」
「小里校区の子は4月からスクールバスで行くんだって」
やはりそうなるのか。確かに通学団が歩いて大きな橋を渡るのは危ない。この橋は中学校の通学路にもなっていて、自転車に乗った中学生が通っている。この時間帯に通学団が通るのは危ない。それに、塚島小学校のある校区ほどではないが、とても遠い。
「そうらしいね」
「川を越えないといけないもん」
進もそれを気にしていた。まさか通学にスクールバスを使う時代になるとは。
「そうなるね」
「小里小学校がなくなるの、残念だよね」
「うん」
進も小里小学校の閉校が気になっていた。ここ最近、小里小学校は生徒数が1桁になっていて、閉校が噂されていたが、ついにその時が来たか。小里小学校がなくなるのは、残念だろうな。だけど、それは新しい一歩だろうな。
「塚島小学校も、僕が通ってた頃より児童数が減ってるね」
「うん。寂しい限りだよ」
塚島小学校は、進が通っていた南中学校の校区の中で、最も多い生徒数だ。だが、塚島小学校の生徒数も、自分がいた時と比べて減少している。名前が変わると知った時、今の生徒数を見て、進は驚いていた。こんなにも少なくなったのか。それに、さらに統合も考えられているという。
「将来、どうなるんだろうか?」
「わからないけれど、いつかなくなるだろう」
母はこの町の将来が気になっていた。ひょっとして、この町から子供たちがいなくなり、小学校自体がなくなってしまうのでは? そうなると、この町は消えてしまうのでは?
「それは残念だな」
「このまま、この町の人口も減ってくのかな?」
進もそれを気にしていた。ひょっとして、この町から人が1人もいなくなってしまうのでは? 自分が生きている時は大丈夫だろうけど、いつか消えてしまうのではと思うと、とても不安になる。
「そうだろうな。残念だと思うよ」
「僕もだよ」
2人とも、この町の将来が気になった。果たして、この町は将来、どうなってしまうんだろうか? 人口減少を食い止めるためには、何をすればいいんだろうか? 答えが全く見つからない。
その夜、進は両親と共に塚島駅前の居酒屋で飲む事にした。その居酒屋は両親も行きつけだ。去年の夏、20歳になって初めて3人で飲んだ。あの時はとてもおいしかったな。2月に帰ってきたらまた飲みたいと思った。
「カンパーイ!」
「カンパーイ!」
3人は乾杯をして、進の帰省を祝った。
「あれっ、進くん!」
進はカウンター席の方を向いた。そこには小学校時代の同級生、周大がいる。まさかここで再会するとは。周大は今もここに住んでいて、高校を卒業後、地元の企業に就職したという。
「周大くんじゃないか!」
「久しぶり!」
「久しぶり!」
2人とも笑みを浮かべた。再会すると、笑顔がこぼれる。どうしてだろう。懐かしいからだろうか?
「進くん」
周大は真剣な表情になった。まさか、塚島小学校の名前が変わる事を話すんだろうか?
「どうしたの?」
「塚島小学校、名前変わるんだって」
やはり周大も話している。周大も気になっているんだな。それほど、塚島小学校の名前が変わるのが話題になっているんだな。ここに住んでいる卒業生は、みんなこの事を気にしているんだろうか?
「うん。でも、校舎はそのまま使うらしいね」
「ああ」
だが、周大は校舎がそのまま使われる事よりも、名前が変わる事を気にしているようだ。校舎がそのまま使われるのはいいけれど、塚島小学校が塚島小学校ではなくなること自体が気に食わないようだ。自分の母校が消えるようで、どこか寂しい。
「だけど、名前が変わるって、残念だよ」
「うん」
周大も、生徒数が減少しているのが気になっていた。塚島小学校が東部小学校になると聞いて、生徒数を見た。生徒数が減っているのを見て、周大は驚いたという。
「以前と比べて、生徒数も減ってるし」
「それ知って、残念になったよ」
進もそれが気になったのか。それは心配だな。
「このまま、この校区の子供たち、どんどん減少していったら、また統合しちゃって、また変わっちゃうのかな?」
「そうかもしれないな」
周大もそれを気にしていた。また統合になって、小学校の名前が変わると、塚島小学校の記憶がまた遠くなってしまうんだろうか? 周大は不安になった。
「この町、どうなっちゃうのかな?」
「うーん・・・」
そう考えると、周大も不安になった。このまま子どもの数が減っていき、いなくなったら、この町は高齢者ばかりになって、この町自体がなくなってしまう事になる。それを食い止めるには、どうすればいいんだろうか? 周大にもその解決策がわからない。
「周大くんも気にしているのか」
「うん」
進は生中を飲んで、考え込んでしまった。この先、この町って、どうなるんだろうか?
「不安になるよな」
「ああ」
両親も不安になった。それは、ここにいる全ての人々の悩みのように思える。いや、過疎化の進む全国の集落の課題のように見える。




