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二度目の恋は幸せに  作者: 木蓮


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8

 それからシェリルとアーノルドはメイドが遠慮がちに夕食の時間を知らせに来るまでお互いのことを話しあっていた。手を引かれて食堂に入ると既に家族は集まっていて隣同士で席が用意されていた。きっとアーノルドを好いている執事が気を遣ってくれたのだろう。目で感謝するとウィンクされる。

 なぜか落ち込んでいる時の甥そっくりのへにゃへにゃ顔の父をのぞいてはいつものように和やかな雰囲気で食事が終わると、母がアーノルドに泊まっていくように言う。

 明日もアーノルドに会えると喜びながらおやすみの挨拶をするとそっと両手を握られる。そこは婚約者なのだしキスが良かったがそれはそれでさっきのことを思い出して眠れなくなりそうだ。

 寝支度を手伝うメイドにも「1つ1つ幸せを見つけるのも素敵なものですよ」と優しく言われて幸せな気分で眠りについた。


 翌朝、食堂に行くとアーノルドは既に席についていて父と義兄と話をしていた。くつろいだ部屋着姿の彼はすっかり家族にとけこんでいて何となく誇らしくなる。アーノルドもそう思ったのか「シェリのみつあみは久しぶりだな、かわいいな」と言われて、すっかり舞い上がったシェリルは気がつくと食事が終わるまでずっとアーノルドに話しかけていた。

 いつもはしゃきっと伸びている背中が丸い父とアーノルドと満面の笑みでがっちりと握手をした義兄が仕事に出かけ、上機嫌で友人の家に出かける母も見送る。

 気心知れた幼なじみ3人だけになるとアナベルがこらえきれなくなったように吹きだす。


「ふっ、あっはははははっ。もうあのお父様の顔ったら! おかしくておかしくて、人生で一番笑いをこらえるのが大変だったわ。シェリ、今日はお父様が帰ってきたら優しく出迎えてあげなさいね」

「叔父上には悪いことをしたな」

「いいのよ、かわいい娘の孫が生まれるのとかわいい娘が婚約者と幸せなのが一緒くたにきて、うれしすぎて気持ちが追いついていないだけだから。ついでに昨日の件でブラーゼ家をいじめられるし良いことだらけじゃない。私もそのカフェに見物に行ってこようかしら」

「姉さまったら、大事な身体なんだから遠出はダメよ。私が好きなスイーツを買って来るわ」

「まあ、シェリは優しいわね」


 先日妊娠がわかったアナベルは幸せそうにお腹をなでる。

 どうやら父の様子が変だったのは病気ではなく喜んでいるらしい。父には婚約解消から迷惑をかけどおしだったしこれから子を産む姉のためにも安心させてあげられて良かった。

 でも、婚約解消の時に交わした”お互いに関わらない”と条件がこうもあっさりと裏切られたあげく、アーノルドの目の前で”未練がある”などとひどい侮辱をされたのはシェリルとしても腹が立つ。

「叔父上のことだからアナの健康のためにはりきるだろうな」と笑っていたアーノルドも思うところがあるのか、うって変わって真剣な顔でシェリルを見る。


「それなんだが。シェリ、ブラーゼ嬢とはどういう関係なんだ?」

「ブラーゼ嬢との関係? ……元婚家の家族だから顔は知っている人、かしら。ブラーゼ家に行った時に顔を見ることはあったけれど、挨拶以外はほとんど話したことがないの。……はっきり言うと嫌いな人」

「そうか。いや、彼女、ずいぶんとシェリを嫌っているみたいだったから。良かったら理由を教えてくれないか」

「初めて会った時にあっちがシェリに癇癪を起こしてね、それからずっと嫌われているのよ」


 いずれ嫁ぐはずだった婚家の人間と嫌いあっているなんて恥ずかしいが、アーノルドの心配そうなまなざしに根負けして白状した。彼に子どもじみた態度を見られて恥ずかしくなると、昨日のパールディアの無神経な態度への怒りと言い返せなかった悔しさもよみがえってイラっとする。

 どう話そうか悩むと、気を利かせたアナベルが話してくれる。


 パールディアと初めて会ったのは10年前、母とアナベルと一緒に王宮の公園に遊びに行った時だ。

 のんびりと公園をまわっているとブラーゼ伯爵夫人とヴィンセント、彼に良く似た少女と出会った。 

 ヴィンセントとの再会を喜んだシェリルは、同い年の義妹だと紹介されたパールディアにも話しかけた。

 しかし、話しかけても怯えたように口を閉ざす少女に3人ともだんだんと気まずくなり、アナベルに促されて帰ろうとするとパールディアが初めて声を出した。


「あなた、ヴィン兄様が好きなの」

「うん、好きな友だちだよ」


 シェリルがうなずくとパールディアは突然水色の瞳から大粒の涙をこぼし始めた。

 大きな瞳で責めるようにシェリルをじっと見つめる彼女に何か悪いことを言ってしまったのかとおろおろすると、彼女は「ひどいっ!」とシェリルが小さく悲鳴を上げて飛び上がるような大声を出した。


「ひどいわっ!! あなたには優しいお母さまとお姉さまがいて好きなドレスを着て遊びに出かけてっ!! 私が失くしたものを何でも持って楽しく過ごしているのにっ!! ヴィン兄様まで奪おうとするなんてひどいっ!!」


 ヒステリックな声でまくしたてられて怖くなったシェリルもわあっと泣きだした。

 庇うように「大丈夫よ」と耳を両手でふさいでくれたアナベルに必死でしがみついていると、母とブラーゼ伯爵夫人が駆け寄って来た。

 状況を見てすぐに察した母はシェリルとアナベルの名前を呼んで抱きしめ、ブラーゼ夫人もまた「ごめんなさいエマリー嬢。あなたが悪いわけじゃないの、怖い思いをさせてしまって本当にごめんね」と必死で謝りながら、泣きじゃくるパールディアとおろおろするヴィンセントを連れて逃げるように立ち去った。


 シェリルは泣き疲れて眠ってしまい、気がついたら部屋にいた。

 母はシェリルが落ち着いた頃に2人を呼んで「パールディアは両親を亡くしてブラーゼ家に引き取られた子で、兄と呼んで懐いているヴィンセントと仲が良いシェリルにやきもちを焼いた」と、シェリルやアナベルが悪いわけじゃないことをシェリルが安心するまできちんと説明してくれた。

 納得したシェリルはパールディアをかわいそうだと思いつつも、生まれて初めてわけのわからない悪意をぶつけてきた彼女がトラウマになった。

 その後、ヴィンセントと会っても避けるようになりそのうち会わなくなった。

 そして、2年前。パーティーでヴィンセントから話しかけられたことをきっかけにまた話すようになり、婚約を申し込まれて喜んでうけた。しかし、ヴィンセントは3か月前にパールディアが帰って来たとたんに彼女に夢中になりシェリルはあっさりと切り捨てられた。


「やっぱりあのクズ野郎をぶん殴っておけば良かった」

「シェリの婚約者が暴力沙汰で捕まるのは困るわ。魔道具で何かできない?」

「2人とも冗談よね……?」


 真顔で話し込む2人におそるおそる尋ねると2人は示し合わせたようににっこりと笑う。アーノルドは気づかわし気にシェリルを見る。


「俺の気のせいなら良いんだが。彼女、シェリにまたからんでくると思う。俺がいればいいんだが」

「そうね。お父様はブラーゼ伯爵をぎちぎちに締め上げているのだけれど、かえって逆恨みして人前で言いがかりをつけてくるかもしれないわ」


 昨日のことを思い出したのか、心配する2人をまっすぐ見てシェリルは口を開いた。


「2人とも心配してくれてありがとう。でも、もう大丈夫」 


 ヴィンセントはいつもパールディアを一番に気にかけていた。だから、彼女がいなくなって婚約したならば自分に目を向けてくれると期待していた。

 でも、彼女はブラーゼ家に戻ってきて、シェリルが手にしたと思っていた居場所を当たり前に取り返し、幼い時のようにシェリルを追い出した。

 --あの時と同じ目をしながら。

 失ってから初めてヴィンセントと過ごした時間は幸せだったけれど、少しのヒビで崩れてしまう儚い関係だったのだと気づいた。


「アルといるうちにわかったの。私、幸せな夢みたいなきれいなだけの恋だけじゃなくて、その人のことを1つ1つ知って一緒に生きたい。いろんなことを2人で見つけたい。

 だから、あの人たちに何を言われても今度は『大好きなアルといる今が幸せなの、お邪魔虫は永遠に引っ込んでてちょうだいって』言い返してやるわ」


 いつかは胸がいっぱいで言えなかった言葉が溢れ出す。


「俺も同じだ。シェリの隣も愛も何1つ渡さない。今度湧いてきたら『俺の愛しい婚約者に近づくな、馬で蹴り飛ばされたいか』って追い払ってやる」


 小説で読んだ悪役令嬢のセリフを真似てえっへんと胸を張ると、アーノルドもまた悪役令息のセリフで応じる。

 楽しくなってくすくす笑いあうとアナベルがぐったりした顔で口を挟む。


「はいはい。2人ともちょっと良いかしら。

 私個人としては、今の状況をそっくりそのまま見せつければお邪魔虫も退治できると思うわ。むしろ効果が出すぎているし。

 でも、次期当主としては2人には貴族らしくやり返してほしいのよ。そ・こ・で」


 アナベルは王家の蝋封がされた手紙を出した。 


「1月後にちょうど王太子殿下の誕生祭りが開かれるわ。だから、2人には新しい婚約者として、殿下たちの御前でダンスを披露してもらいます」

「ええ~っ」

「なあにシェリ、お腹の音かしら? アルは前にダンスをみっちり練習していたでしょう。シェリを鍛えてあげてちょうだい」


 ダンスが苦手なのに腕に自信がある方々と一緒に踊るなんて無理だ。

 シェリルは助けを求めてアーノルドを見つめたが、彼はこんな時には気づかずにうれしそうに笑う。


「そうだな、貴族たちに見せつけてやればあいつらが何をほざいても大丈夫だ。前に副所長に“疲れない靴”の実験台にされた甲斐があったよ。シェリ、一緒にがんばろうな」 

「王城の大ホールで踊るなんて一生の記念になるわやよ。がんばってね、シェリ」


 さっそく計画を練るアーノルドと圧をかけてくる姉に負けて、シェリルも父と同じくへにゃへにゃになりながらうなずいた。

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