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ご機嫌で帰るシェリルを見送るとアーノルドはふぅっとため息をついた。夕焼けと冷たい風が染みる。
18歳になり、愛らしい少女だったシェリルはぐんと大人の女性に成長した。じきに妻になる女性としての幸せと覚悟を身につけて、シェリルを幼い頃から知るアーノルドも見惚れるほど美しくなった。そう、心も身体も。
成長しても甘えん坊なところは変わらないシェリルは、ご夫人方に何か聞いたのかアーノルドにちょくちょく触れてくるようになった。アーノルドだって21歳の元気いっぱいの男の子だ。好きな女の子に触れられてうれしい。ものすごくうれしい。できればずっとそうしていたい、もうすぐ夫婦になるんだし。
が、そんなことをしたら即抹殺される。そう、エマリー家の守護神ことシェリルの父にだ。
初孫に夢中かと思った叔父はじきに嫁に出す下の娘との別れを惜しんでいる。元々、シェリルがアーノルドに甘えると「婚約者といえど未婚の娘に手を出すな」とぐっさり釘を刺してきたがここにきてより厳しくなった。今では抱き着いてきたシェリルを抱きしめかえすだけでも恐ろしい目でにらまれる。
味方をしてくれる義兄いわく自分も同じだったと言うが、いくら何でも喜んで甘えてくる婚約者を突き離せとはひどすぎるだろう。まあ、どこがとは言わないが1年でよりふわふわになったシェリルをこっそり堪能しているのは確かだが。
そんなわけでシェリルの甘い誘惑と叔父の視線だけで殺されそうな圧に挟まれてくたびれたアーノルドは仕事を言い訳に逃げた。そして、アーノルドを含む不眠の人々に試したいとコーディに誘われて、前に彼女に譲った”クマたんくん”の弟”いやしてくん”の実験に参加した。
”いやしてくん”の効果は抜群だった。ふわふわもこもこのボディを抱きしめると彼の手に撫でられてすぐに快適な眠りに落ちる。おかげでアーノルドは久しぶりに心が安らかになった。今なら叔父の殺気も笑って受け流せそうだと思うぐらい。
気づけばアーノルドは寝る時には必ず”いやしてくん”を抱きしめて眠るのが当たり前になった。優しい彼はアーノルドの誰にも言えない悩みを笑顔で聞いてくれ、シェリルのいない寂しさや仕事の疲れを癒してくれる。まさに最高の相棒だ。
このまま新しい家に連れて行ってシェリルと一緒に家族になろう。そう決めかけた時に実験データをとっている先輩の一言で我に返った。
「ラスカ。悪いことは言わないから”いやしてくん”を家に連れ込むのはやめておけ。最悪、奥方と大ゲンカになるぞ」
「な、何でですか?」
「想像してみろ。おまえだったら愛している奥方が一緒のベッドで寝ているのに”いやしてくん”に抱きついて愛をささやいて自分といるよりも幸せそうな顔で寝るなんて耐えられるのか? そうでなくてもあの魔道具好きな奥方の方が”いやしてくん”に夢中になって夜の相手を拒否するかもしれなんぞ。
何より、おまえは興奮するかもしれないが、あの初心な奥方にとっては”いやしてくん”のこの曇りなき眼に見つめられながらおまえとのなが~~~いスキンシップをするなんて誰がどう考えてもただの拷問だろう。
この研究所で唯一常識がある先輩からの忠告だ、やめておけ」
言い返したいことは山ほどあったが、シェリルに嫌われたり”いやしてくん”に浮気されたり、最悪恥ずかしい性癖の持ち主だと軽蔑されると考えただけで泣きそうになる。
そして泣く泣く”いやしてくん”に別れと感謝を告げているうちに寝落ちしてしまい、なぜかとびきりかわいらしい顔で自分を見つめるシェリルに見つかってしまった。本気で人生が終わったかと思った。
――”いやしてくん”今まで俺を癒してくれてありがとう。俺はシェリと幸せになるよ。
副所長に本音100%の感想を述べると彼女は口元をわずかにほころばせて去って行く。アーノルドはすっきりした気分でシェリルとの久しぶりのデートを楽しんだ。
その後、復活したアーノルドは叔父の嫌がらせをスルーし、結婚式でシェリルの美しい花嫁姿に感激し、一生愛することを誓った。そしてちゃっかり本命の初夜もばっちり済ませ、副所長からもぎとった1月の休暇もシェリルと2人きりで思う存分楽しんだ、人生で最高の時間だった。
しかし、長い休暇がじきに終わる日。コーディからプレゼントとして贈られてきた大きな箱とそのふわふわもこもこの中身を見たシェリルの「わあ、かわいい!! 抱っこしていい?」という無邪気な笑みに絶望した。
この新しい家族はシェリルによって”もふちゃん”と名付けられ、家族の一員として4人の子どもたちとその孫たちにかわいがられた。
これで終わりです。最後まで読んでいただきありがとうございました。




