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二度目の恋は幸せに  作者: 木蓮


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 同じデザインの扉が並ぶ迷路のような廊下を進んで行くとコーディはとある部屋の前でぴたりと立ち止まった。蠱惑的な笑みを浮かべた唇に人差し指を当ててささやく。


「ラスカはここにいる。が、私が付いてこられるのはここまでだ。あとは頼む」

「え? は、はい。わかりました……」

「ふふっ、そんなに怖がることはないよ。私はここにいるから何かあったら呼んでくれ。では、よろしく」


 丁重にドアを開けられてシェリルはおそるおそる部屋に入った。

 中はふかふかのじゅうたんが敷きつめられているだけの小じんまりとした部屋だった。真ん中にはなぜか大人1人を抱え込めそうな巨大なテディベアが転がっている。まさかと思って近づいて見るとアーノルドがもこもこの身体に抱き着いて埋まっていた。それもゆるみきっただらしのない顔で。


「アルっ、起きて!! 副所長様が心配して見に来ているのよ」

「う~ん……もうちょっと……」


 よりだらける顔にイラッとする。こんなふわふわもこもこな巨大テディベアに抱きつけばそれは気持ちよいだろう。でも、自分だけ楽しむなんてずるい。それにこんなに心配しているシェリルを忘れて夢中になっているのも許せない。

 シェリルは両手でアーノルドの頬をつまんで思い切って引っ張った。アーノルドは痛そうな顔をしたが起きない。それに思ったよりもすべすべの肌によりイラッとする。

 いろんな意味で負けたくなくなったシェリルは、ハンカチで鼻や耳をくすぐったり、髪をわしゃわしゃたり、耳元で大きな声で「起~き~て~」と叫んだり、しまいにはアナベルに「ケンカした時に言ってやりなさい」と教わったアーノルドの恥ずかしい過去をささやいたりと、思いつく限りがんばったが。いつも以上にくにゃくにゃしたアーノルドは起きない。

 打つ手がなくなったシェリルは悔しさでぷるぷる震えた。アーノルドの固い背中をぽかぽか叩いているとふいに天啓がひらめいた。

 ――そうだ、キスすればいいんだ!

 一足先に結婚した友人は寝起きの悪い夫がどうしても起きない時にはキスして驚かせると言っていた。いつもだったら寝起きの良いアーノルドならば効果は抜群だろう。

 シェリルは鏡を見ながらハンカチで唇をぬぐい汚れがないのを確認してそっと近づいた。アーノルドの頭を両手でつかんでこちらを向かせ唇にキスをしようとすると碧色とばっちり目が合った。


「きゃっ!」

「わっ、シェリ!?」


 お互いに悲鳴が上がって固まる。先に立ち直ったアーノルドが口を開く。


「シェリ、どうしてここに? ……って、これか。いかん、また寝ちまったか……」

「そうよ。アルから連絡がこないって心配してたらコーディ様が私を招いてくださったの。クマちゃんに抱きしめられたい気持ちはわかるけれど、早く起きて」

「ああ。心配かけてすまなかったな」


 テディベアうらやましさに若干恨み言が混じるも、寝ぼけまなこのアーノルドに素直に謝られてシェリルは許した。代わりにおねだりする。


「ねえねえ、この魔道具は”いやしてくん”という触っているだけで疲れがとれる魔道具なんでしょう? コーディ様が私も使っていいって言ってくれたの。私も使いたい」


 シェリルの期待に反してアーノルドはきっと目を吊り上げた。


「ダメだ」

「ええっ、何で!?」

「これは俺も含めてたくさんの人間をダメにしたんだ危険すぎるそんな危険な物をシェリに使わせるわけにはいかない家に置くのも当分ダメだ副所長が何と言おうが俺がダメだと言ったらダメ」


 真顔で息継ぎなしでまくしたてられてシェリルはしぶしぶうなずいた。アーノルドはほっとしたようにうなずく。


「せっかく来てくれたのにごめんな。お詫びにカフェで何かおごるよ」

「うん、他の魔道具も見たいな」

「ああ、そうしよう。じゃあ行こうか」


 何かごまかされたような気がしたがアーノルドに押されるように部屋を出る。コーディが待っていた。


「おや、起きたかラスカ。あの魔道具はどうだった?」

「ダメです。彼は俺を含む大半の人間にとってはとても頼もしい相棒ですが、特定の人間の人生を一生ダメにする可能性がすこぶる高い魔物でもあります。世に解き放ってはいけません」

「そうか。率直な感想をくれて助かる。シェリル嬢も来てくれてありがとう、ラスカは今日1日好きにして過ごして良いぞ。では、またな」


 コーディは驚いた様子もなくさっさと帰って行く。シェリルは少しだけ心配になった。


「コーディ様の旦那様は大丈夫だって聞いたけれど、本当に使って大丈夫なのかしら?」

「あの方なら大丈夫だ。ダメだったら副所長が実力行使して止めるからどちらにしても大丈夫だ」


 何か物騒な四文字が聞こえたが他の家庭に口を出すのはよしておこう。まだ眠そうなアーノルドをシェリルは見上げた。


「まだ眠そうだけれど大丈夫?」

「ああ、そのうち目が覚めるから大丈夫だよ。やっぱりシェリの顔を見るのが一番だな」

「うん、私も会いたかったわ」


 笑いかけるといつもなら笑顔を返すアーノルドは切なげな笑みを浮かべた。やっぱり疲れているのだろうか。帰ってくる時には少し早いけれど妻として彼を労わろう。

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