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二度目の恋は幸せに  作者: 木蓮


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「副所長っ、こんな時に何の用ですか!?」

「そうかっかするな、ラスカ。おまえに手伝いを頼みたくなってな。後で婚約の祝儀もやるから少し付き合え」


 いつの間に抜け出したのか。お出かけ用の汚れ避け魔術がかかったローブを羽織ったコーディと同じ格好の先輩たちが待っていた。アーノルドにもローブを着るように命じると廊下の壁をいじって開けた。どうやら隠し通路らしい。

 コーディがランプを持って先に入り大きな箱を持った先輩たちとアーノルドが続く。狭く薄暗い通路を進みながら時々壁に耳を当てとある地点で立ち止まると先輩たちが箱を開けた。

 中からは大きな箱にラッパのような口がついた金属管がついた魔道具が出てきた。音を魔石に記録するものだ。


「開発中の”ちくおんくん”じゃないですか。こんなところで何の実験ですか?」

「ふっふっふっ。ちょうどいい実験体を見つけたから、ちょっと試したくなってな」

「そんな個人的な理由で夫の誕生祭を抜け出していいんですか……」

「かわいい後輩のためだと言ったら喜んで送り出してくれたぞ。私の夫は世界一寛容なんだ」


 それはもう諦めているだけじゃないんですか、という言葉を辛うじて呑み込む。コーディがのぞき穴を開けて顔をあてると静かな通路に甲高い声が響き渡る。それに言い返す声にアーノルドは慌てた。録音の邪魔にならないように小声で抗議する。


「シェリ!! 副所長、出口はどこですか!?」

「落ちつけ、大丈夫だ。騎士とメイドを待機させて荒事になったら取り押さえるように言ってある」

「ブラーゼ嬢はシェリをつけ狙っているんですっ、放っておけません!!」

「ああ、私の耳にも噂として入ってきている。だから、2人のためにも今ここで決着をつけさせるんだ。シェリル嬢は大舞台で堂々と踊りきったんだ、おまえも自慢の婚約者を信じて待て」


 ぐっと言葉につまるとパールディアのヒステリックな声が続きしばらくしてシェリルの声が聞こえる。落ち着いた口調に安心しているとドンっと誰かが倒れるような音がした。とっさに入って来た方に走り出そうとするもコーディに頑丈なフードの首根っこをつかまれて首がしまって動けなくなる。

 それから少し経ってコーディが「終わった」と言って手を離すと、アーノルドは空気を求めてぜえはあと呼吸をした。


「よし、ごくろうだった。その魔石は外で待っている侍女に預けてくれ」

「承知しました。ラスカ、後で婚約者を連れて来いよ!」


 謎のかけ声を残して先輩たちはそそくさと帰って行く。ようやく息が整い恨みをこめてコーディを見上げると、彼女はかわいらしく軽く肩をすくめた。


「なぜこんなことを? と言いたそうだな」

「それはそうでしょう。そもそも王太子妃が貴族家の揉め事に口を挟むなんて問題ですよ」

「まあ、それはそうなんだが。私は民の母だからな、心を病んで助けを求める子を放っておけない。

 ブラーゼ伯爵にはこの実験中にたまたま通りかかったブラーゼ嬢の本音をこめた魔石を聞かせて、きちんと彼女の面倒を見るように命じる。

 おとりに使ったシェリル嬢には悪いことをしたが、もう二度と煩わせないということで見逃してくれないか」


 パールディアがシェリルを傷つけたことは許せない。

 しかし、コーディの言葉にもわかるような部分もあってアーノルドは渋々うなずいた。


「わかりました、副所長を信じます。ただ、万が一またブラーゼ嬢がシェリの前に現れたら今度こそ社交界から抹殺しますからね」

「ああ、私が口を挟むのはこれきりだ。……さて、暗い話はここまでにしよう。ラスカ、婚約祝いだ。シェリル嬢と一緒にゆっくり楽しんでくれ」

「それは、どうもありがとうございます」


 不思議に思いながらも礼を述べるとどこからかメイドが現れる。別のメイドに説教をされながら連れて行かれるコーディと別れて彼女に付いて行くとしばらくしてオペラのボックス席のような正面が広い窓になった薄暗い小部屋に通されソファに座ってシェリルが待っていた。


「シェリ? こんなところで何しているんだ?」

「アルの同僚の方にアルが来るまでここで待っているようにと言われてこちらに案内されたの。これから王太子妃様からの贈り物のショーをやるんですって。ここからだとダンスホールが見えるけれど劇でもやるのかしら?」

「そ、そうだな。楽しみだな……」


 別れ際のとびっきりのいたずらを思いついたような笑顔を思い出して冷や汗が浮かぶ。あの破天荒な天才は何をするのだろうか。さすがに怪我をするような危ないことはしないだろうが、驚いて腰を抜かすかもしれない。

 さっきの宿敵との大ゲンカを忘れたようにすっかりご機嫌なシェリルと喋っているとホールが暗くなる。ざわめきを切りとるように白い天井に何色もの光が集まってできた円が映しだされる。円はゆっくり回転しながらその形を変えていく。


「わあ、すごい! 万華鏡みたい」

「あ……」


 それはアーノルドが入所したばかりの時に考えた魔道具だった。もっと小さな物だったが、うまくいかずに嫌になって捨てようとしたところをコーディにもらわれていった。


『これは面白いアイデアだな、アーノルド・ラスカ。どうして作ろうと思ったんだ?』

『ほう。なるほどいとこのためか。いや、感心しているのさ。そうやって誰かのために作ろうと思えば、誰もが見たこともない面白い物が生まれる。私が預かって作ってもいいか? 完成したらおまえとそのいとこ殿に一番に見せるよ、約束だ』


 コーディは約束を守った。そして、自分が諦めた夢を代わりに叶えてくれた。

 幼い頃のように翠色の瞳をキラキラ輝かせて手を叩いて喜ぶシェリルに心が熱くなる。

 ――ああ、シェリが喜んでいる。

 愛する恋人と一緒に思い描いた夢を見られたこの時間を、自分は一生覚えている。

 アーノルドは優しく偉大な王太子妃に心から感謝した。

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