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第17話 災厄の予感

 休みが明けるといざ文化祭シーズン──とはいかず、まずは夏休み明けのテストが生徒たちを待っている。


 その後は生徒会選挙が行われ、引き継ぎ会がある。

 今年の生徒会選挙は例年と違い、既定路線の選挙だ。榊原家が通っている以上、生徒会長は決まりきっている。その点で言えば、昨年と一昨年も同じく生徒会長以外を選ぶ選挙だった。

 生徒会長以下の、書紀や会計などが選挙によって決められるが、そんな面倒なことをしたがる人はそう多くなく、大抵の場合は信任投票で、落とされることは殆ど無い。

 現在二年生で生徒会役員を務めている人はそのまま続けるだろうし、現在三年生の生徒会役員は鈴音を除けば二人。どちらも書紀を務めていた。

 今回の選挙は別段面白くもなさそうだな、なんて小鐘は思った。


 夏休みの弛緩した空気のまま、休み明け初日は課題の提出を主にして進んでいく。

「忘れた〜」と言い訳する声の主が忘れたのは、宿題を持ってくることか、はたまた宿題をやることだったのかは本人のみぞ知る。


 休み明け早々に始まる部活もいくつかあるようだが、鈴音と小鐘が所属する部活はどちらも休みだった。どうも顧問が課題のチェックで手を取られるため、一週間は休みになるらしい。

 鈴音の所属する書道部の顧問と、小鐘の所属する弓道部の顧問は、学生時代からの友人らしく、二人で合わせているようだった。


「お姉様っ、帰りましょ」


 放課後、上級生の集まる校舎であろうと気にすることもなく、機嫌良く小鐘が現れた。

 普段であればそれを断る理由などなく、二つ返事で了承するところだが、今日の鈴音には用事があった。

 少し考えたが、いま小鐘を一人で帰らせるのも不安だ。それに何か、言い知れぬ違和感のようなものがあった。いま小鐘を一人にしたら、何か取り返しのつかないことになるのではないかという、予感。

 学校では不特定多数に囲まれているから、あの深い海の底に沈む悪神も手出しはできないだろう。しかし、通学路で一人にすれば──


 鈴音は頭を振って、恐ろしい想像をかき消した。家へ帰れば侍女がいて、通学路では自分が守ってあげればそれでいい。いいはずだ。

「ええ、帰りましょうか」

 小鐘に微笑みを返すと、その予感は一瞬で消え去った。


 家の中ならば、使用人もいるし、きっと問題ないだろう。

 鈴音は一度帰宅してから大潮神社を訪ねることにした。



**


 帰宅後、鈴音はすぐに大潮神社へと出かけた。小鐘は一緒に行きたそうにしていたが、鈴音でさえ扱いに窮する問題だ。あまり心配はかけたくない。

「すぐ帰ってくるから、お留守番よろしくね」と声をかけると、しぶしぶといった様子で、小鐘は部屋に戻っていった。


 榊原の屋敷を出ると、鈴音は真っ直ぐに大潮神社へと向かった。いつものように笑顔で出迎えた汐だったが、鈴音の鬼気迫る表情に、すぐに状況を察して鈴音を中に通した。

 さすがに神社の神主となれば話が早く、鈴音の焦りからくるたどたどしい説明にも、問題なく付いてきた。


「大渦様、ですか……」


 小鐘が海に誘われていること、それが大渦様の力なのではないかという鈴音の予想を告白すると、汐は眉をひそめた。

 今のところ、肯定できる材料もないが、否定できる材料もない。だが、普段から最も神子の近くにいる鈴音が違和感を覚えたと言うなら、それは大きな材料になり得る。


 大潮命様がかけた大渦様への封印は堅牢で、ここ数百年は何も起きていない。だが、ここ数百年の内に、神子が生まれたこともなかった。

 神子が生まれたことによって、大渦様に何らかの影響が及んでいる可能性は十二分にあった。


「わかりました。私の方でも調査してみましょう。大潮命様にも伝えておきます」

「は、はい。よろしくお願いします!」


 鈴音は大きく頭を下げる。

 どうか妹に災厄が降りかからないことを祈りながら。


「不安定な心は厄を呼びます。あなたは自信を持って、神子を支えてあげてください。そして、神子の心が不安定にならないよう、見守ってあげてください」

 大渦様は古来より、人の心の闇を好む。悪意や憎悪、そして失意や絶望。

 故に、不安なときこそ強く心を保つ必要があった。

「それがあなたの、いま最もするべきことです」

 汐の言葉に、鈴音はしっかりと頷いた。


 汐から神に言葉を伝える術は確か、文を書き、それを納めるという形式だったはずだ。

 神との対話は、神子でなければ出来ない。それほど特別なことなのだ。

 大潮様がその文をいつ確認してくれるかはわからないが、それが早くあることを願う。


 いま自分にできることは全てやったはずだ。小鐘に災厄が降りかかるなら、それを振り払い、守るのが姉としての務め。

 神子として、そして妹として、鈴音は今まで以上に彼女を気にかけることを決意して、榊原の屋敷へと足早に帰宅した。


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