ラーメン革命
魚介豚骨味噌チャーシューワンタン麺から、石油に匹敵するエネルギー資源になることが明らかになったのは、ほんの20年前だった。
あれよあれよという間に、世界の構造はつくり変わった。今では、石油王ならぬ豚骨王が生まれたのはそういう次第だった。
「魚介は余計なものなんだから、豚骨王というのは過分な呼び方じゃない?」
九州出身の親友は、ずるずると細麺をすすりながらぼやく。九州──さらには博多は、いまや日本の首都になっていた。ついでに、札幌も、首都だった。首都が乱立していた。なんかノリで大阪も首都になって、京都は変わらず後方都面を保っている。
香川は断固独立を保ち、さぬきうどん帝国として独立を果たした。
「そもそも、オレは認めてないんだよね。スープが白くない豚骨ラーメンを」
味変でごまを擦りいれる親友。紅ショウガの乗せ過ぎで、もはやスープはピンク色の様相を呈している。
「だいたいさあ。豚骨、なんだろ?なら、無駄じゃん。味噌も、ワンタンも。チャーシューと、細い麺と、かろうじてネギ。許されるのはそれだけじゃん」
「めったなこと、口に出したらだめだよ。来るよ、こわい人たちが──サンフェーデッド部隊が」
いまや日本は、国際的にも太陽が昇りすぎて地球から離れてしまい、冷えこんできたから第二の太陽を開発するレベルの地位を確立していた。魚介豚骨味噌チャーシューワンタン麺の製造国になったからだ。近所のラーメン屋の兄ちゃんは、豚骨王になりあがった。世はまさに、豚骨王乱立自体なのだ。
「あー、あの太陽の陰(笑)を名乗る厨二病部署」
「いい大人が真面目に会議して、そんな名前通したっていう事実だけで、未来に希望めっちゃいだけるよね」
「そうでもないだろ」
「え?」
なにやら見解の相違があるらしい。私は、替え玉と別皿チャーシューを注文した。粉落としこそ正義。
「陰を名乗るくせに、ぜんぜん忍ばねえよな」
「そりゃ、公的な治安維持機関なんだから、忍んでたら抑止力にならないじゃん」
麺が硬いので、ズルズルすするというよりも、気合いで吸い込んで麺を味わう。小麦の匂いが口に広がる気がした。
「実際のところ、今の世の中の流れをどう思う」
「どうって」
「オレは、貴重なオポチュニティが失われてしまうんじゃないかと思うんだよね」
「…………」
なぜ、機会と普通に口にしないのか、とは問わない。機会は、機械に通ずるということで、言葉狩りの対象なのだ。機械は環境破壊の主犯であって、魚介豚骨味噌チャーシューワンタン麺によって保護された自然の敵だから、らしい。
「例えば?」
「世の中が、魚介豚骨味噌チャーシューワンタン麺中心に回りすぎている。すでに、近所のラーメン屋さんは、魚介豚骨味噌チャーシューワンタン麺専門店に宗派替えをしやがった。多様性が失われている──これは、自然なことか?」
友人はスープを完飲して、勢いよく丼を置いた。
「革命を、オレは起こす」
鶏塩白湯麺が、魚介豚骨味噌チャーシューワンタン麺との抗争を開始する一年前のことだった。




