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第三話

アイドルを辞めてから1ヶ月が経過した2024年12月18日。クビになった翌日には、渋谷の巨大ビジョンに何度も、僕の契約解除のニュースをやっていた。1ヶ月も経てばそれももう過去の話となった。

そして同時に、ニートになってからも1ヶ月が経過した。

平日の、しかも昼過ぎの渋谷駅前は人でごった返していた。外に出ないと人として何か欠落してしまいそうなので目的もないのに外出していた。その行動力で、アルバイトでも探せという人もいるかもしれないが、まあそれはそれとして。

特にやることもないので、渋谷駅周辺を適当に散策していた。渋谷マークシティの下の井の頭線西口の前に来た時、きれいな歌声が聞こえてきたので僕は足を止めた。僕とそこまで年の変わらない女の子が弾き語り路上ライブをしていた。かぶっていたニット帽から覗かせるその日本人離れしたきれいな栗色の髪、ぱっと見160㎝以上ある抜群のスタイル、そして、すらっとしたその手指で優しく、時に激しく弦を弾いていた。

だが、人を引き付けそうな歌声とは真逆に、彼女の周りには3,4人程度しかいなかった。3人は彼女のガチ恋勢といえるほどの熱狂ファンたち、もう1人は普段こういう路上ライブに参加しなそうな推定70代後半のおばあさんだった。

おばあさんは2曲聞いたところで曲の感想をろくに言わず、

「かわいらしい子だねぇ~」

と言ってギターケースに1000円を入れて去って行ってしまった。

(もったいないな…こんなに歌が上手いのに…」

30分ほどしてライブが終了した。最終的に聞いていたのは、ファン3人と僕だけ。

その後、ファンたちとちょこちょこ会話をしてギターケースをしょって去って行ってしまった。僕は本能のまま彼女を追いかけていた。追いかけた先、マークシティイーストの近くで明らかにファンたちと住む世界が違う、ギラギラDQN2人組に通せんぼされる形でナンパされていた。

「お姉さん、インスタかTikTokやってないの~?アカウント教えてよ~」

DQNの発する言葉に対して明らかに嫌がっている。困った表情で首を振っているが、二人はまったく引き下がらない。

僕は迷わず声を掛けた。

「こっち来て。」

と言いその場を離れ、渋谷駅方面に走り出した。ハチ公口の人混みに乗じて逃げるためだ。案の定、DQN2人は人混みで僕たちを見失ったようだ。

「あの、助けてくれてありがとうございます。」

「いえいえ、お気になさらず。」

「お礼をしたいのでお名前教えてくれませんか?」

まずい。いくら事務所を懲戒解雇されたといえ、腐っても元国民的アイドル。こんなところで正体を明かしてしまってはただでさえ人でごった返している渋谷駅がもっと大変なことになる。

「ちょっと来てもらえませんか?」

そう言って彼女を人気のないところへ連れ出す。

彼女は少し怯えているように見えた。それも無理はない。出会った男にいきなりこんなところに連れてこられたら怖くなるのも無理はない。

「あの、僕、こういう者なんですが。」

そう言って僕は今までつけていたマスクと眼鏡を外す。

「え!?Emmaの乃木くんですか?!」

彼女は興奮したように聞いてきた。」

「まあ、元ですが…」

「え!?あのニュースって本当なんですか!?」

「まあ、そうですね。でも、逆にニュース番組が嘘ついたら大問題になりませんか?」

「あ、確かに。」

彼女は残念そうにした。

「もしかして、アイドルに興味あるんですか?」

「まあ、そうですね。」

(これは好都合かもしれない。)

1か月前から僕の頭の中で、漠然と考えていたことが具体的な形を取り始めていた。

提案しようとしたとき、後ろから声を掛けられた。

「健人く~ん!」

と声をかけられた。振り向くと見覚えのある金メッシュ、スタイル抜群の女性。

「千佳さん!?あ、そうだ!タクシー代か!」

そう、1か月前に大月駅で一緒にタクシーに乗りあった人、山王千佳さんだ。

「そうだよ~、全然お店来てくれないじゃん!探し回ったよ~」

「あれ?2回くらい行ったんですけど…?その時どっちともいなかったような…」

「あれ、嘘?まあ、探し回ってはないけどね。超偶然。それより、その子は~?」

千佳さんは女の子のほうを見る。女の子は首を振って困った表情でこっちを見てくる。

「まあまあ、それは一回置いといて…」

僕は誤魔化すように言った。そして喋り方がおかしくなりながらも、2人に向かって口を開く。

「2人とも、アイドルとかってさ、興味ないですか?」

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