表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アイドル育成計画  作者: 夜明天
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/37

第30話

一次審査当日の午前7時、僕は結局あのまま寝れなかった。

ベッドから降り、カーテンを開ける。窓の向こうにはもう朝日が差し込んでいた。

スマホのバイブが長く鳴った。通知が7件来ていた。

『おはよう、健人くん。頑張ってくるよ』

『アタシら、負けねえから』

『準備万端です』

『楽しみ〜!』

『今日という日を、みんなで』

『ありがとね、健人』

『行ってきます』

と、『METROPOLARiS』のグループチャットに返信があった。

僕は画面を見つめながら、少し息を吐いた。

胸の重石が軽くなったような気がした。

『その意気だ。じゃあ、会場で』

短い返信を書いてスマホを閉じ、僕はシャワーを浴びることにした。

***

午後1時、サンケーテレビに到着し、7人と合流してから控え室へ向かった。

控え室には他のグループも次々到着し始めた。みんな、神妙な面持ちをしている。

「健人くん」

千佳が僕の袖を引いてきた。

「ねぇ、大丈夫?」

「大丈夫だよ」

僕は答えた。

嘘はついていない。かと言って、本当の事でもない。

「なんか、見られてるね〜」

初歌ちゃんがそんな事を小声で言う。

「当然だろ。アタシらが今回どんだけやるのか、みんな気になってんだろ」

ルナが不敵な笑みを浮かべる。

「確かに、そうかもね」

僕が言うと、7人がスタイリストとメイクスタッフに呼ばれた。

「じゃあ、準備するよ」

千佳が7人の事をまとめる。

それを確認して、僕は窓の外を眺める。

「乃木さん」

振り返ると、菖蒲さんが近づいてきていた。

「少し外の空気を吸ってきたらどうですか?」

「どうして?」

僕はそう言って笑みを作った。

「今の乃木さんは、いつもより無理をしているように見えます。」

菖蒲さんは静かに続ける。

「私達なら大丈夫です。だから、乃木さんは少し休んでてください」

「……わかった。少し廊下に出てくる」

「はい、ここで待っています」

僕は控え室を出た。廊下は人の行き交う音が混ざり、賑やかだった。

僕は自販機で缶コーヒーを買って、一口飲んだ。そして、一息つく。

「健人くん」

僕は缶コーヒーを持ちながら、その場に固まる。

振り返れない。振り返りたくもない。

あの声。13年前の、あの練習室の声。

「こっち、向いてくれないの?」

足が、動かなかった。逃げろ、と頭が叫ぶ。でも体は、13歳のあの日に戻っていた。

僕は恐る恐る振り返る。江ノ島裕美だった。

「電話、出てくれてありがとう。嬉しかったわ」

心臓が脈打つのが速くなっていく。

足が…動かない。

「……江ノ島さん。」

やはり対面すると恐怖心が出てくる。でも、言葉が出せた。

「ずいぶん緊張してるのね。大丈夫?顔真っ青になってるわ」

江ノ島が一歩、僕に近づく。僕は反射的に一歩後ずさる。

「あら、怖がらせちゃった?ごめんなさいね」

彼女は楽しそうに、笑っている。

「きょ、今日は…僕達の、パフォーマンスを…」

喉が締め付けられて、声が上手く出せない。言葉が途切れてしまう。

「見てください」

ようやく、そこまで言えた。同時に、彼女の目が細まる。

「あら、随分偉くなったみたいね」

「偉そう…なんかじゃ、ないです」

僕はもう一歩後ずさる。壁の冷たさを背中が感じ取った。

「……負けるつもりはない。ただ、それだけです」

「健人くん、あの時から変わったのね」

彼女が僕の頬に手を伸ばしてくる。

「健人くん!」

千佳だった。息を切らせて、でも迷いなくまっすぐこちらへ駆けてくる。

その瞬間、江ノ島の手が止まった。

「あら、あなたこの前の…」

そんな声を無視して千佳が駆け寄ってくる。

「健人くん、探したよ。もうすぐで本番始まるから、早く」

千佳は江ノ島の方を向かず、まっすぐ僕の方を見て言う。

「……わかった」

僕は、千佳の後ろに隠れるように立った。

「では、そう言う事ですので。失礼します」

千佳は江ノ島に一礼し、僕の手を引いてその場を立ち去った。

「じゃあね、健人くん。本番、楽しみにしているわ」

そんな江ノ島の声が僕の背中に矢のように突き刺さった。

***

控え室に戻ると、7人が心配そうに僕と千佳の方を見つめていた。

「健人、大丈夫?」

玲奈ちゃんが肩に手を置いて心配してきた。

「……なんとか、大丈夫だと…思う」

「でも、心配だよ」

志歩が目を少し潤ませて言ってくる。他のみんなもやはり心配そうにしてくれている。

「大丈夫だってば」

僕はそう答えてしまった。まだ膝も震えているし、息も浅くなっている。

だが——

「あの人から逃げなかった」

僕は小さく呟く。

「どうしたの?」

千佳が聞き返してくる。

「ただの独り言」

僕はそう言って笑って見せた。

「みんな、もう準備はできた?」

7人が頷く。

僕は深く息を吸った。

「Okay! Let's go!」

ルーティンを済ませ、僕は7人を送り出し、後からモニタールームのモニターの前に立った。

「それでは、最後の出場者です。『METROPOLARiS』!」

司会者の声が響く。

7人が、ステージに姿を現した。客席から、歓声が上がる。

スポットライトが7人を照らす。

「さあ、『Heaven or Hell project』一次審査、いよいよ開始です!」

ここまでお読みいただきありがとうございます。

よければ、評価とブックマークよろしくお願いします。感想も書いてくれると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ