第13-2話
今回は番外編です。
翌日の夜、僕達は練習スタジオから程近い、昭和通り沿いにあるファミレスに来ていた。
「かんぱーい!」
全員の声が揃う。
僕達は8人で夕飯がてら、遅めの新年会をやっていた。
「そういえばさ、ホームページの反応はどう?」
千佳がドリンクバーのオレンジジュースを飲みながら聞いてくる。
「まだ、アクセス数は少ないけど…」
僕はダージリンティーを置いて、スマホを取り出した。
「でも、Xのフォロワーは40人になった。」
「おお、意外と早いな!」
ルナが身を乗り出す。
「初ライブっていつ頃にやる予定なの…?」
志歩が不安そうに聞いてくる。
僕は少し考えてから答えた。
「来月の中旬あたりを目標にしたいんだけど…会場の予約とか、まだ全然決まってないんだよね」
「やっぱり最初は、いろんな人に見てもらうために、路上ライブからでいいんじゃない?」
玲奈ちゃんが提案する。
「確かに、最初から大きな会場だと、お客さんが少なく見えちゃうし」
「確かにそうですね。」
菖蒲さんが頷く。
「まずは10人でも20人でも、確実に来てくださる方々の前で歌えれば」
千佳がテーブルを軽く叩いた。
「そうだ!みんなで友達とか家族とか、知り合い総動員で呼ぼうよ!」
「え、家族?」
綾乃さんが顔を赤らめる。
「お父さんとお母さんに見られるの、めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど…」
「でも、一番の親衛隊でしょ?」
志歩が笑う。
初歌ちゃんがストローでアイスカフェラテをかき混ぜながら呟いた。
「私、本当にちゃんと歌えるかな…」
一瞬、テーブルが静かになった。
「大丈夫だよ」
僕は玲奈ちゃんの方を見る。
「この3週間ですごく玲奈ちゃんも、初歌ちゃんも、みんな前より上達してる。それに、完璧じゃなくても、気持ちが伝わればいいんじゃないかな」
「そうそう!」
千佳が明るく言う。
「『METROPOLARiS』の魅力は、みんなで頑張ってる姿そのものなんだから」
ルナが拳を握る。
「よし、じゃあ決めようぜ。初ライブの日程と会場」
「その前に、」
菖蒲さんが手を上げた。
「セットリストも考えないといけませんね。何曲歌うか、どんな順番で…」
僕は手帳を取り出しながら言った。
「じゃあ、今日はちゃんと計画を立てよう。ここからが本当のスタートだ。」
「お待たせしましたー!パンケーキになりまーす!」
そう言って店員さんがパンケーキを置いて行った。
「あれ?これ誰の?」
僕がそう聞くと、菖蒲さんが恥ずかしそうに顔を赤に染めながら手を上げながら言った。
「それ…私のです。」
僕は菖蒲さんにパンケーキを手渡す。菖蒲さんは和菓子派だと思っていたのに、意外だった。
そして、菖蒲さんとの様子を羨ましそうに千佳が見ている。
「ちょっと、オタク出てる。」
僕が言うと千佳は、
「ずるい、菖蒲ちゃんだけ特別扱い」
千佳が頬を膨らませる。
「健人くんだって、昔は私のこと可愛がってくれたのに」
「今でも可愛がってるよ」
「健人くんにおんなじ事やって欲しいなぁ〜」
と最早やらないといけないような感じを出しながら言ってくる。
「分かったよ…」
結局、千佳にも同じようにしてあげることになった。
「えへへ〜」
千佳が満足そうに笑う。
茶番も挟みながら、僕達は真剣に話し合った。会場は何カ所か候補が挙がったが、アクセスの良さと許可の取りやすさで渋谷ストリームの稲荷橋広場に決定。日程は人出の多い祝日、2月11日の建国記念の日に決まった。
「いよいよ本格的に始まるんだね…。」
志歩がしみじみと言った。
初ライブまで、残り約3週間。僕たちの本当の挑戦が始まろうとしていた。




