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命導の鴉  作者: isaka+
第一章 輝葬師
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第一章 輝葬師 / 序幕 「輝葬」 三

***

「信じられない、オリジナルのアーティファクトだ」

 興奮した男の声が聞こえた。


 目の前を見ると自身の手の平に小さな時計が乗っている。


 自身の手といっても、アスの手とは全く違うゴツゴツとした大人の手だった。


 自分の意思とは関係なく体が動き、そうかとアスは気づく。


 今自分は骸となった男、つまりリーベルマンの生前の記憶を見ているのだと。


 光の糸が切断を拒む際に発光する光には、その骸の記憶が込められており、輝葬という特殊な能力を有する証である『青の瞳』を持つ者はその記憶を垣間見ることができた。


 ただ、急に光景が変わるこの瞬間は自分が自分でなくなったみたいな感じがして、アスはあまり好きではなかった。


 状況を理解し、平静を取り戻すとリーベルマンの視界を通して記憶を辿り始めた。


 リーベルマンはアーティファクトと呼んだ小さな時計のシリアルナンバーを何度も確認していた。


 そこには(No.721)と刻印されている。


「これで、これでなんとかなるっ!神よ感謝いたします!!」




 *

 ふっと光景が変わる。光球から得る記憶は断片的で、更に時系列を無視して流れてくることもあって、場面がコロコロと変わるのが特徴だった。


 今度は年季の入ったレンガ造りの家の前にいた。


 目の前には子供を抱えて心配そうな顔をした女性が立っている。


「あなた、無理だけはしないでね。私もこの子もあなただけが頼りなんだから」


「ああ、ギイでの遺跡調査の仕事が上手くいけば、それなりにお金が入るだろうから、テリカの治療費にも少し足しになるだろう。一ヶ月の辛抱だ。しばらく頼む」


「本当に無理だけはしないでね」


「わかってるよ」


 リーベルマンは女性の胸元で寝息を立てる子供の頬を優しく撫でてから、二人との別れを惜しむかのようにゆっくりとその場を後にした。




 *

 視界が暗転し、また場面が変わった。


「持ってるものを全て置いていきな。全て差し出せば命までは取らないよ。フヘヘ」


 薄汚れた格好をした筋骨隆々な髭面の男が目の前で下品に笑う。


 周りには3人同じような男がいて、リーベルマンを逃さないように取り囲んでいる。


 リーベルマンは見逃してほしいと懇願するが取り囲んでいた男たちはお構いなしに、獲物であるリーベルマンの荷物を剥ぎ取り、物色した。


 それを横目に髭面の男が近くの手頃な石に腰掛け、タバコに火をつけると得意気に喋りはじめた。


「たまにいるんだよ、ギイの遺跡調査で少し高級な品がでるとそれを持って逃げようとする輩が。そいつらは街道を使わず山を抜けて逃げることが多くてね。ここでそういうやつらを狙って網を張ってると意外とかかるんよ。」


 そこまで言うと、髭面の男は煙を肺の隅々まで行き渡らせるかのようにタバコを大きく吸って、そして大量の煙を吐いた。


「どうせお前もその口なんだろ?」


 髭面の男はそう問いかけ、更にタバコを大きく吸った。


「んっ?なんだその顔は?もしかして図星だったか?」


 ニヤニヤと笑う男の口からタバコの煙が漏れる。


「ア、アニキィ!」


 荷物を漁っていた男が奇声に近いような声で髭面の男を呼んだ。


「なんだ変な声をあげて。ゴキブリでもいたか?」


「違うよ、オ、オリだ!オリファクトがある!」


 髭面の男は真剣な表情に変わり、石から立ち上がった。


「オリだと!?そりゃあすげぇ!お宝じゃねぇか!」


 髭面の男が興奮気味に荷物に近寄ろうとすると、リーベルマンは髭面の男の足にしがみつき、再度懇願する。


「お願いします!見逃してください!子供が病気なんです!それがあれば娘を、テリカを救うだけのお金が手に入るかもしれないんです。娘の病気が治ったらそれは差し上げますので、今は見逃してください!」


 髭面の男は鬱陶しそうな顔をして、足にしがみ付くリーベルマンを振り払い、その顔面を蹴り上げた。


 顔を押さえ唸り声を上げるリーベルマンの腹を更に複数回蹴ると、リーベルマンは血反吐を吐きながらその場にうずくまった。


 髭面の男は、うずくまったリーベルマンの前にしゃがみ込み、乱暴に髪を引っ張り上げて、黙ってろと体の芯に響くような重く低い声で脅した。


 リーベルマンはもはや自分で体を起こすこともできない状態だったが、それでも手を合わせ、かすれた小さな声で見逃してくださいと懇願し続けた。


 その姿をみた髭面の男のこめかみに青筋が浮かび上がる。


「おいっ!」


 髭面の男が仲間に呼びかけ、黙らせろと顎でしゃくるようにリーベルマンを指した。


 仲間達は指示に従い、面倒臭そうにリーベルマンに近づく。


「お頭を怒らせるお前が悪いんだぞ」


 そう言いながら、拳を振り下ろした。

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