第一章 輝葬師 / 序幕 「輝葬」 二
「依頼者からもらった情報と特徴が合致している。指輪の件もあるし、リーベルマン本人で間違いないだろう」
先ほどの合図で集まった二名の内の一人、三十代くらいの長身の男が骸を一通り検分してからそう言った。
男もまた、少年と同じく澄んだ青色の瞳をしていた。
「お疲れさん」
男は少年に向かってニッコリと微笑み、少年の頭をポンポンと優しく叩く。
そんな二人の背後から先ほどの合図で集まった内のもう一人が、ガサガサと生い茂った草を踏み分けながら近づいてきた。
男はその近づいてくる人物に視線を向けると、優しい口調で声をかけた。
「ジゼル、辺りはどうだった?」
「大丈夫かな。周囲を見て回ったけど、特に危険はないと思う。一応備えるけど、輝葬に集中しても大丈夫だよ、お父さん」
歩きながら応える人物の顔が、発光機器の放つ光によって次第に鮮明になる。
綺麗な顔立ちをした少女で、腰にはグラディウスと呼ばれる若干短めの剣を帯びていた。
「そうか、万が一ということもあるから警戒は怠らずにな」
「りょーかい」
ジゼルと呼ばれた少女はいつでも抜刀できるように、腰のグラディウスの留め具を外すと、一帯を見渡せるように男から少し離れた位置で警戒体制に入った。
その姿を確認すると、男は少年に先ほどつけた明かりを消してこの場から少し離れるように指示する。
骸から少し離れてから少年が機器のスイッチを切ると、あたりは闇夜に戻った。
明かりが突然失われたために目が慣れず、先ほどよりも強く闇を感じる。
逆に、淡く光る骸の光球は、先ほどよりもその存在感を増したかのように思えた。
「アス」
暗闇の中、男が少年の名を呼んだ。
「今回もしっかりと輝核の流れを意識して見ているように」
「はい!」
アスは返事をすると、男に言われた通り真剣な表情で輝核と呼ばれた光球を真っ直ぐに見つめる。
光球の淡い光は男の姿を朧に照らしていた。
男は背筋を伸ばし、輝核を真っ直ぐに見据え、両手を胸元の前に出した。
そして、目を閉じ、ゆっくりと深呼吸する。
男の集中が増していくのとあわせて、静かだったこの山の奥地が緊張感に包まれ、やがて辺りの空気がひりつき始める。
その光景を見つめるアスの顔はピリピリと大気の振動を感じていた。
にわかに輝核が強く輝き始め、ゆっくりと上昇を始める。
輝核は男の胸元の位置まで上昇すると、骸と繋がる光の糸に引っ張られるように停止した。
ゆらゆらと揺れる輝核はさながら地面にロープで繋ぎ止められて浮かぶバルーンのような状態となった。
男は目を見開くと、輝核の下に両手を滑り込ませ、輝核をさらに上へゆっくりと持ち上げる。
ピンと張った光の糸は、今にも引きちぎれそうだ。
男がまだ上へと力をこめると、輝核は光の糸がちぎれないように抵抗するかの如く、一段と強く、激しく発光した。
輝核の発光を青い瞳で捉えていたアスの脳裏には、少しずつ別人の記憶が映像として浮かび上がってきた。
やがて自分の意識がその記憶に支配されていくような感覚に陥り、まもなくして視界が暗転した。