地球での強襲
「ちぃっ!」
「空間操作」
振り向きざまに肘打ちを入れるが空振った。
「あっはぁ!!反応はやーい!」
今度は少し離れた距離、正面10m先にいた。
「お前は…!」
怪しい紫の髪色に冗談じみた仮装のような格好、そして何より人を見下しているかのように心底腹が立つ表情。
「廃工場のゾンビの時にいたアヴェダレオのやつ!」
直接対峙するのはあの廃工場以来の約2ヶ月ぶりだろうか。
「ちゃぁんと覚えてくれてたんだー」
「忘れるわけねえだろがボケ。俺に顔面ぶん殴られてお仲間もじいちゃんにフルボッコだったもんなぁ!!」
「まあまあ落ち着きなよ。ちょっとお話したかったんだよキミと」
「話しだぁ?誰がお前らと話すかよ!」
「んー…拒否るのはいいんだけど…後ろのカノジョ。殺せはしなくてもお顔グズグズには出来るよ?」
「…っ!」
「いやーラッキーラッキー。元々あのハゲジジイとババアから離れる頃合い見計らってたんだよ。人質取れそうなか弱い女の子もいてほんとにラッキー。これでキミと正面から話ができそうだよ」
機嫌良く、不気味に笑みを浮かばせながら一歩ずつこちらに近づく。
「何のつもりだよ」
「だーかーらー言ってんじゃん。キミと話がしたいって。簡単に言うとね、キミさ。ワタシと一緒にアヴェダレオに来てくんない?」
「交渉決裂だ」
「だと思った」
1秒後、奈央の目では捉えられない速さで相手の女が仕掛けた。
瞬きの後に凜斗の正面に立ったかと思えば右手で殴りかかる。
それはブラフで本命は手首のあたりから発射された針。
顔をそらし簡単に避けた凜斗はその右手首を左手で掴んで力を入れる。
「っづぁぁあ!?」
掴まれた女が苦痛の声を出すと同時に凜斗が空いている右手で容赦なく顔面をぶん殴って飛ばす。
「ちょっとぉ…強くなりすぎじゃないぃ?」
「ったりめえだろ。あれから修羅場は二回くぐってる。お前みたいに余裕ぶっこいてる暇なんてなかったんだよこっちは」
「言うねぇ…でも忘れてな__」
「忘れてねえよ」
背後から凄まじい速度で接近してきた槍を持った逆立った青髪の男に振り返りざまに上段回し蹴り。
「ぐふぁっ!?」
だが浅かったのか空中で態勢を建て直されて女との合流を許してしまった。
「日向くん!」
「大丈夫だ。絶対俺から離れるな」
「ちっ。なんで一発で仕留めてくんないんですかセンパイ!」
「簡単に言うな!ゾンビの時より格段に強くなってる!」
状況は敵2人に対して凜斗は人質にも利用されそうな奈央というこの場では枷として見られるような一般人を抱えている。
状況、人数を見たら圧倒的に不利だ。
「どうしますセンパイ?ここまで来たら意地でも捕まえるしかないでしょ」
「そうだな。気は進まないが…全力を出すとしよう」
男が槍を構え、女の方が凜斗をしっかりと視界に捉えるとこう呟いた。
「我が名はリィゼ・クランネル。新たな神に祈る願いは絶対の安らぎ」
「我が名はヘルル・バトーレ。新たな神に祈る願いは新たな未知の探求」
女の名前がリィゼ、男の名前がヘルルと名前が分かったのも束の間。
願いという言葉が聞こえると一瞬だけ魔力の強い圧を全身に浴びせられる。
「着火」
同時に着火を発動し拳に炎を纏わせ凜斗も完全に戦闘状態へ移行。
(今、俺がやるべきことは奥田の絶対死守。今のあいつらは何か強くなったけど…捌き切るしかない。つーかじいちゃん達何やってんだよ早く気付けよ!)
「奥田ごめん。状況が変わった」
「え…?」
「俺があの2人抑えてる間に逃げろ。そして俺の家に行ってじいちゃんとばあちゃん呼んできてくれ」
「う、うん!」
背後は振り向かず奈央が走り去る足音だけ耳に入れつつ今の状況に思考を割く。
人の気配もなく、それでいて祖父母もこの状況に駆けつけてこないということはアヴェダレオ側が何かの細工をしていることは間違いない。
問題はその細工がどういうものなのかだ。
この世界から俺達以外の人間を消した?
無理だ。そんな事ができるのはそれこそアヴェダレオの魔王くらい
祖母の結界みたいに人払いでもされている方が近いはず。
でも田舎とはいえ競艇場やショッピングモールも近く利用者が多いこの駅周辺で結界を使用するにはそれなりに魔力を求められる。
見た所あの2人には膨大な魔力を感じない。
「考えても無駄だな」
こんな時、スノウがいてくれたらなぁ
「リィゼ、あの逃げた女捕まえろ。人質にするぞ」
「いーやーでーすー。だってワタシ、前も含めて2回顔殴られてんですよ。やりかえさないとぉ…気が済まないっての」
仲間割れではないだろうが少しいがみ合っていると思いきやリィゼが目付きを変えた。
「それにセンパイだけであの子の相手出来るんですか?無理ですよね」
「ちっ。可愛くない後輩だよおま___」
言葉が出切る前に凜斗が飛び膝蹴りをヘルルに見舞った。
「ちょ!人が話してるんですけど!」
「いつまでギャーギャー喋ってんだよ。結界か何か知らないけど、とっとと元に戻せよ」
「あっはっはぁ…殺す!」
衣服の裾から針を取り出して指の間に挟み鋭い爪の様に扱う下から掻き上げる。
「ひひっ」
先と同じ様に手首を掴み止めようとするが触れかけた瞬間にリィゼが姿を消したが背中の痛みをもって背後に現れたことを知り、即座にリィゼの正面を向く。
「ってぇな…」
「あはっ!もう分かったよねワタシの得意な魔法!空間操作って言って空間を縮めたり伸ばしたりするんだ!」
「なるほど…どうりでノーモーションで動けるわけだ」
「すごいでしょ!降参してもいーよ?」
「たったこれっぽちのダメージで降参する弱虫なら最初から逃げてるよ」
「じゃあ声が出ないまで痛めつけてあげる♡」
空間操作を再度使用して凜斗の前から姿をくらます。
背後、左右、上空、に現れては消えて稀に針を投げ飛ばしては凜斗がそれを躱す。
(背後、左、正面、右、正面、上空、背後、左、背後、上空。法則があるわけじゃないのか…目だけで追っても捉えきれないな)
「直閃」
思考を巡らせる刹那、青い閃光が凜斗の脇腹を過ぎ去る。
その正体は先程飛び膝蹴りでぶっ飛ばしたヘルル。
「薄皮一枚かよっ。どんな反応速度だよ」
へルルの目論見では間違いなく心臓を貫通するコースと速度。
しかしそれを凜斗は間一髪で躱した。
(こっちの槍も追いきれなかった!初撃より明らかに速い上に女の方も空間操作を連発してきやがる!どっちか片方だけなら何とかなる…けど!)
空間操作に気を取られ過ぎれば槍野郎に、槍野郎を警戒すれば空間操作が確実に凜斗を仕留めに来る。
(耐えろ…今の塩梅を保て…こいつらは多分…)
時を同じくして奈央は日向家に向かって走っていた。
「はっ…はっ…」
駅からかなり離れてようやく人を見かけることができた。
駅周辺に何かしらに仕掛けがあるのは発覚したが今は凜斗に伝えることができない。
「日向くんの家…遠すぎ!」
止まること無く走り続けていたため疲労が表情に出るがそれでも止まること無く進み続けなければならない。
「あっれー。奥田さんじゃん!」
そんな中、知り合いから声をかけられた。
今の状況では無視してでも進まなければならないが声をかけてくれた相手が最もこの状況で嬉しい相手だった。
「中切さん!」
中切綾音、凜斗の仲間で共に異世界で旅をしている転校生だ。
「どうしたの?そんなに急いで」
「お願い駅に行って!」
「駅?なんか今は駅の方面あんま行きたくないんだよねー」
この反応を見るに人の感性に何かしら影響を与える仕掛けらしいがそんな事は今どうでもいい。
「日向くんが!」
今はただただ、私の大切な人を助けてほしいだけなのだから




