守ってね
昼食を取るためにファミレスに入る。
ドリンクバーで飲み物を取って席に戻るとそこにはスノウの姿
ではなく奥田奈央。
その後、少し歩いて栄の方へ移動し洋服等を見て試着した姿もスノウ
ではなく奥田奈央。
ちょっと視線が離すと再び奥田を見れば何故かスノウの姿と重なってしまう。
こうなってくると重なるというよりは自分の頭に異常があるように思えてきた。
最後に行きたかった所と言われて入ったカフェ。
一応地元にもちょっと自転車走らせれば行けるチェーン店なのだが都会だと雰囲気があるらしい。
(やばい…俺スノウの事が好きすぎだろ…まあしょうがないか)
とはいえこれ以上勘違いするのは奥田にも失礼だし…早い所切り上げるように話を…
「スノウちゃんと綾音ちゃんとどういう関係?」
「……話さないとダメ?」
核心に切り込んだ奈央に対しできれば話したくない凜斗の差。
「もし話してくれないなら…花本くん達にあることないこと話すかも?」
「スノウと綾音はワタシのナカマです素直に話しますやめてください話します」
じいちゃんに殺されるより友達にあることないこと(主に女子関連)を話されたら確実に人間関係が爆発するので祖父殿には悪いがゲロっちまいます
「まず何から話すか…とりあえずハーモラルの事からか」
ハーモラルという約500年前に地球から分離したもう一つの世界があってそこは科学ではなく魔法で発展していること、スノウはハーモラル出身で10年くらい前にハーモラルで両親と旅をしていた頃に出会ったこと、地球にハーモラルの魔獣が現れる頻度が上がっているからそれを調べるために土日や長期休みを利用してハーモラルを旅していること…あと今までの道中。
「色々省いたけど…大体こんな感じ」
「…………」
絶句していた。
それはそうだろう。
語ったのは夢幻物語ではなく実際のこの心身で経験して乗り越えてきた紛れもないノン・フィクション。
「じゃ、じゃあ最近よく日向くんが妙に傷だらけなのも…」
「強いやつと戦ったんだ。今思えば無事に勝ててよかったぁ」
「…怖くないの?」
奈央のその目は心配の目。
それもかなり慈しむような。
「あんまり」
「だって痛いよね。死んじゃうかもしれないんだよね?」
「痛みには慣れてるし…死ぬときなんてあっさりと来るもんだぞ?」
「おかしいよ…だって日向くんは普通の高校生の男子なんだよ?なんでそんな大掛かりなことしないといけないの?」
「んんー…そう言われるとそうかも。でもさ、正直言うとそんな大それた事考えてないんだ」
「…え?」
「俺はただ、父ちゃん達みたいに自分の力と仲間たちで広い世界を旅したいだけだ」
それを語る凜斗はまるで広い海を見るような澄んだ目と穏やかな口調。
「ハーモラルじゃ人間だけじゃなくて大工が得意なドワーフや不思議な人魚みたいな種族もいる。俺と歳が変わらないのにすげえ魔獣に詳しくて強いやつ、頼れる医者、そして俺の生きる理由になった大事な人も全員向こうの世界にいるんだ。海沿いの船造りが得意な国や学校がたくさんあってお祭り騒ぎになる国、寒すぎるけど雪がきれいで変な金持ちのおっさんがいる国、火山の麓で武器とか鍛冶が有名な国もある。昔行った国も含めりゃこんなんじゃないぜ。もっと見てみたいんだ、俺のこの目で知らないことがないくらい足を運んで、肌で感じて俺という人間が生まれてよかったって思えるような、人に笑って話せるような人生を送りたいんだ」
「それは…楽しそうだね」
「あ、でもちゃんと魔獣が出る原因はちゃんと調べるからな!今んとこ向こうの鎖国してるヤバイ国が黒幕ってのは分かってるしこっちに出ても俺やじいちゃん達がささっと倒すから安心してくれ!」
「2年前みたいに?」
「そうそう!あん時はまだ中二だったっけ。魔獣出たと思って急いだらまさか奥田がいるなんて思って………え?」
覚えてる?
何で?
日向と東雲の家系以外の人間がハーモラル関連に巻き込まれたらどういう理屈か知らないけどじいちゃんの知り合いが記憶を消してるハズだ。
「何で…覚えてる…?」
「んーとね。次の日に学校に変な女の人が来ておまじないされてから忘れてたんだけど、スノウちゃんが転校してきた日かな。急に思い出したんだ」
まさか異世界人のスノウと出会ったからか?
いや奥田以外にも何人か学校にいる人間も襲われてる
学年やクラスは違うけど狭い学校だから何度かすれ違ってるのに他に人はそんな素振りは見てない
奈央は冷や汗だらだら、顔真っ青、おめめグルグルでパニックになりそうな凜斗は初めて見たので一応安心させる。
「大丈夫。今から私が言う2つの事叶えてくれたら内緒にしてあげるから」
へにゃへにゃぁと液状化しそうな凜斗だったが今一度背筋を正した。
「よかったぁ…でも俺は何を…」
「まずは一つ。次からハーモラルに行く時と帰ってきた時は私に連絡すること」
「え、そんなんでいいの?じゃあもう一つは__」
やや前のめりに奈央に近づいた凜斗に人差し指を優しく凜斗の唇に当ててこう言った
「「もし、私が危ない時は君が助けに来る事」」
少しだけ夕暮れの後光が眩しく、また奈央とスノウの姿、そして今度は声が重なりスノウからも言われた気持ちにもなる
だけど今のこの瞬間がとても心地よく、暖かい
「あの時みたいにね」
ほんの少しだけ、10年ぶりに異性に心を動かされた瞬間でもあった
帰りの電車は朝以上に眠気を誘発させる。
特に一日楽しく過ごせたであろう奈央は凜斗の肩に持たれて目を瞑っていた。
それを起こさないように態勢を変えることもなく窓から見える景色を眺めては物思いにふける。
なんで奥田とスノウが重なるのか
なんで奥田は魔獣に襲われたことを思い出したのか
なんで俺は一瞬だけ奥田に魅入られたのか
電車が停止する。
周りの風景も見慣れた建物になりドアが開く。
「…ついたぞ奥田」
何度か声を掛けるが起きる気配がなかったのでしょうがなく肩を動かして無理やり起こす。
「んゃ…?」
一瞬だけ固まっていたがすぐに自分がどんな状態だったか把握。
「ご、ごごめ_」
即座に謝罪の言葉が出かけるが凜斗がそれを制止。
「俺から離れるな」
「え?」
アニメやマンガを嗜んだことがある女子なら一度は言われたいセリフを急に言う。
「ど、どうしたの。日向くん?」
「人の気配がない。電車の中も俺達しかいなくなってる」
奈央は周りを見渡す。
凜斗の言葉通り、電車内はおろか上り下り含めた駅構内にも駅員どころか人がいないのだ。
「何かおかしい。絶対俺の側にいろ」
「…うん」
電車から降車する。
階段に歩き下る。
改札から出る。
一応ICカードをかざすが無反応。
「外にも誰もいない…」
「車通りもない。これじゃまるでばあちゃんの人払いの結界だ」
だけどあれとは全く違う。
ばあちゃんの結界は人が範囲内に入りたがらないような感覚なのだが今感じているこの感覚は違う。
まるで存在自体を消している様。
「そ、今ここにはあたしとキミ達しか入れないよ」
声、背面から聞こえた。
少なくとも味方ではない声だった。




