浮気デート
7/25 夜
アレタが白光の狼を手懐けてから3日ほど経っている。
アヅラタンへと向かう昇る太陽一行は何故か全員がひどく疲れた顔をしながら道中の村に滞在し牧場にて今後の進路について離していた。
「まさかあんなことになるなんてな…」
リーダーのリントが思わず呟く。
「俺もあんな風になるとは思ってもなかったぜ」
「大変だったよー」
「もう勘弁ね…あんなことは」
バル、アヤネ、スノウが同調。
アヅラタンへの道中にある村で厄介な事件に巻き込まれた結果かなり足止めを食らってしまった上にかなり疲労が重なっている。
「お陰で寝れてない。ダリオルくんもかなり頑張ってもらっちゃったし…大丈夫?」
シフラは普段、荷車2台と自分たちを引いている荷引きの魔獣ダリオルの心配をしている。
「ごめんなダリオル。大変だったろ?」
牧場の柵越しに頭部を撫でると見た目に似つかわしくない可愛い声が返ってきた。
「アレタぁ。アヅラタンまであとどれくらいー?」
「今出発すれば明日の朝くらいかな」
「流石にみんな疲れてるよな…俺もそろそろ迎えのバス来るだろうし。お、来た」
空を見上げるとちょうど古臭くてオンボロのバスがリントの前へ落下に近い形でやってきた。
「あ、私今回地球行かないわ」
「えぇ!?なんで!?」
「だってあっちマナ薄いから傷の治り遅いもの。それにあれに乗ったら傷開くわ」
「寝れば治るよ」
通常ならリント、スノウ、アヤネの3人で地球とハーモラルを往復するのだがオルトノ戦後と昨日の一件での体の状態を鑑みてスノウは今回ハーモラルでの待機を選択。
「あんたみたいに寝れば傷が治る変な体質じゃないのよこっちは!」
「そっか…ならしょうがないか。アヤネ、行くぞ」
「はいはーい」
リントとアヤネがバスに乗り込む。
「じゃ、また2日後くらい!いつも通り何かあったら赤い石に話しかけて!」
車内から窓を開けたリントが手を振りながら叫ぶと二人を連れたバスが動き出して空へと飛び立ちあっという間にその姿を消した。
正直な所、スノウがハーモラルに残ってくれて助かったと思うところがある。
何故なら俺は今日、浮気と捉えられても仕方がない事をするからだ。
「ごめんー日向くん。おまたせ」
「オハヨウゴザイマス。オクダサン」
地元の最寄り駅にてある人物と待ち合わせをしていた。
奥田奈央
小中高と同じ学校を過ごした付き合い自体は長い女子だ。
まあ田舎すぎてだいたい奥田以外のやつも付き合いは長いんだけどそこは置いておこう。
学校のイベントや修学旅行で同じ班だったことはあれど積極的に2人で遊ぶことなど今までは無く、あくまで友達の友達や同級生という印象。
「なんか硬くない?」
俺は今、この奥田に弱みを握られている。
夏休みに入る前、ミガレユノに入領する前のクラス回でカラオケに行った時に奥田は俺達がハーモラルに向かうためのバスを見ていたらしい。
その時は上手く躱せたと思っていたけど解散の時に
『もし誰かに喋られたらまずいなら…ちょっと付き合ってよ』
と、にっこりスマイルで脅迫されたので今に至る。
じいちゃん達曰く、ハーモラルに関することはうちの家系と綾音の家系以外にバレたらまずいらしいと何週間か前に聞いた。
つまり奥田が俺達のことを知ったことがバレたらじいちゃんに殺されるので独断で対処せねばならない。
「ボクハキョウナニスレバイイデショウカ?」
「そんなに怯えなくてもいいよー。プランは前に送ったとおりだからまずは名古屋の方行こ?」
北の方へ電車で揺られること約1時間弱。
流石にこの夏休みシーズンだと同じように夏休みの学生らしき若者が都会の方へと出向いており座るのも一苦労だった。
まずは名古屋駅に到着すると駅近くの家電量販店へ。
予想しているより人が多く行き交っているのでそれだけで参ってしまいそうだが奈央は人混みを上手に避けて店まで動く。
「こんな人混み…ナフィコより多くねえか…って奥田どこ行った?」
視界に入れ続けているつもりだったがこの人混みの中で見失ってしまった。
「こっちだよー」
少し先を見ると人混みに埋もれた手を振っている様子がかろうじて見えたのでそれを頼りに人混みを縫って動くとたどり着く。
「いやーすまんすまん。見失っ……スノウ?」
そこにいたのは奥田奈央ではなく、最愛の妻(にする予定)のスノウ・メロウル。
服装だけついさっきまで見ていた奥田奈央の服装だ。
いやそんなわけがない
あいつは今ハーモラルで休暇中のハズ
強く頬をつねり何度も瞬きしてようやくスノウでは無く奥田の姿を見れた。
「スノウちゃんがどうしたの?」
「……いやなんでもない」
咄嗟に奥田から目を逸らしてしまった。
その様子を不思議に思われながらも家電量販店へと入っていく。
「あ、これこれー!」
目を輝かせて目当ての品物に近づく奈央とそれを一歩引いた所で凜斗は見ていた。
「なにこれ。タブレット?」
「そうだよ。でもこれは液タブって言って絵を書くのに最適なんだ」
「あー。そういえば修学旅行のしおりとか運動会のプログラムとか描いてたっけな」
「覚えててくれたんだ。今でもアナログとかスマホで描いてるんだけど…うっ、安くても3万円…」
アルバイトでもしない限り高校生にはやや厳しい値段だ。
「やーっぱバイトしないとダメかなぁ。パパにおねだりしてもこの金額じゃ無理だもんね」
「ふーん…あ」
ダディオの依頼で破格の金額を得てしまったので金銭感覚が少々狂いつつある凜斗だがあのお金はあくまでハーモラルの通貨であるため地球でお金持ちになったワケじゃない事を思い出してちょっと鬱。
「よし!ここで悩んでてもしょうがない!次行こ!」
「おー。次どこ行くんだ」
「大須!色々と欲しいグッズとかあるもん!」
凄まじい行動力で名古屋駅から大須商店街まで歩く。
途中で臭い川を渡ったり高速道路の高架下に沿って歩くと見えてくる。
商店街の中に入ればゲームセンターやパソコンショップ、カードショップ、アニメのグッズ等々を販売している店に多数の飲食店が並ぶ愛知を代表するサブカルチャーの地だ。
そして今回、奈央が入店したのはアニメショップ。
様々なグッズに目を輝かせながら手に取っている。
「ね。日向くんはアニメとか見る?」
「結構見るよ。好きな漫画とかゲームがアニメになったりしたら見るし。てかばあちゃんが色んなサブスク契約してアニメ見てるからたまに一緒に見てる」
「お、おばあちゃんが…?」
「うん。うちのばあちゃんめっちゃサブカル詳しいよ。たまにパソコンでゲームやってるし」
「…ハイテクおばあちゃんだねぇ」
「お、最新刊出てんじゃん買ってこ。奥田は何か買……」
個人的に気に入っているマンガの最新刊が並んでいたので手に取って奈央の方を見る。
するとまたもやそこにはスノウの姿。
「ふんっ!」
「日向くん!?」
咄嗟に柱に頭を打ち付けて正気になるときちんとスノウではなく奥田奈央がそこにいた。
「いやなんでもない大丈夫大丈夫大丈夫だだ大丈夫」
(一体どうしちまったんだよ俺の目は…まだ疲れてるのか?)
波乱万丈で弱みを握られているデートはまだ続く……




