圧倒的な達成感
止めの一撃を放ち終わりほんの数秒の静寂な空間。
状況から察するに勝利は確信している。
なぜなら今の今まで相対していた敵の金色の体が埃のような薄暗い灰色へと変色しているからだ。
あとは達成感が遅れてくるだけ。
その空間を破ったのは当然と言うか、最も愚直で直線的な騒がしい男だった。
「よっしゃぁぁぁぁぁ……おぁ?」
体から力が抜けると視界が天井へと移り変わる。
背中にはごつごつと硬い地面が当たっているようで寝心地は最悪。
けれど心身にあふれる圧倒的な達成感。
それが満ちて自然と笑顔がこぼれてしまう。
「なんか…すっげぇ疲れたぁ…」
勝手に口から出た言葉は本音。
「なあマリーナ。レクゥーリアってのはどうやって取るんだ?こいつ倒したらどこかに現れるのか?」
構えていた大剣を背中の鞘へと収めたバルが事情を詳しく知っているマリーナへと視線を向けた。
ここに突入する前にマリーナはこの空間に巣食う魔獣の生命活動を止めることでレクゥーリアという物に姿を変えるとのことだったがそのオルトノは変色して動かなくなっている。
「従来であればオルトノの体が割れてレクゥーリアが出現するのですが…」
途端にここにいる全員が身に降りかかった強い殺気を身に受ける。
「ッ!?」
「うっ!」
ただの殺気というにはあまりにも重い。
そして憎しみという強い感情が籠もっているように感じた。
ありえない、あってほしくない、もしあってしまったならもうどうしようもない。
寝ていた体をすぐに起こして跳び上がり自分の直感で咄嗟に体を反らした。
あと0.3秒遅かったら右腕が飛んでいただろう。
空中に跳んだリントの視界に映ってしまったのは金色の輝きを取り戻すだけでなく、鉄くずの両翼は神々しい白金の両翼へと進化している。
『異…合……第…を確認。第…の優先対処を最…限に。排除プロ…コ…62を実行します。リミットレベルを無視』
明確に人の言葉を話した。
それもハーモラルに似つかわしくない現代的な堅苦しく格式張った言語を。
「着火…!?」
対処が遅かったのではなく、オルトノがあまりにも早すぎた。
目と鼻の先まで音もなく距離が縮まっておりオルトノは寸分の狂いもなく心臓を狙っている。
ここからの対処は99.9%不可能。
仲間たちも反応できていない。
命の終わりとは存外あっけなく迎えるものなのかと悟りすら開くことが出来るほど意識外の死を受け止めるには時間が足りなかった。
「おい、どうなってんこれは」
だがこの少年の命はここで果てる運命ではない
オルトノに何か黒くて人並みの大きさがある塊がぶつかるとそのまま跳ね飛ばされ、リントは寸前の所で命を拾う。
見間違いでなければ大型バイクのように見えたが…
なんとか着地をしたリントが視界に収めたのは黒いライダースーツを来たサングラスをかけたオールバッグの若い男。
あと見間違いではなかった黒い大型バイクが独りでに男の下へと動く。
「こいつをここまで追い込んだんは評価したる。普通やったら御の字や」
ハーモラルで聞けるとは思わなかった関西弁。
違和感がとてつもないが今はそんな事を気にする状況ではない。
関西弁の男がポケットに片手を入れながらオルトノに向かい歩くと再びオルトノが頭部を光らせる。
『状況更新、目標変更無し。続行し』
「まあ待てや」
移動を試みたオルトノの頭部を右手で掴む。
そして離さず地面へと叩き伏せると自身の魔法を使用するための詠唱を挟んだ後その場から爆発が起こる。
「うわ!」
「きゃあ!?」
「くっ!」
関西弁の男以外の人間が爆風に巻き込まれ各々目などを覆う。
恐る恐る目を開くとオルトノが最後にいたであろう場所に一際強く美しい緑の光を放つバスケットボールほどの大きさがある玉が浮かんでいた。
おそらくこれがレクゥーリアだろう。
「ったく、あいかわらず人使いが荒いやっちゃ」
まずはっきりさせなければならない事がある。
この男は敵なのか、協力者なのかだ。
しかしこれはマリーナが反応しなかった時点で後者である可能性はかなり少ない。
「…助けてくれてありがとう。あんたが来なかったら俺は多分その辺血塗れにして死んでたと思う」
とはいえこの男に命を救われたのも事実。
感謝の意を示すため、人の道として頭を下げて礼をする。
一見、気の良さそうな男ではあるが断言できるのは
(こいつには俺達が万全の状態でも絶対勝てねえ…下手すりゃレカルネラよりもずっと強い…!)
圧倒的な強者であるということ。
立ち振舞や戦闘時の様相、小さな行動までもが男の戦闘力の高さを示している。
「あー…気にせんでええよ。仕事やし」
協力者の可能性が高くなり気さくな返事がかえてくると一度安堵したリントが頭を上げる。
が
雫のような煌めきがリントの頬を掠り後方で爆発音が発生した。
「ところで誰なん?おまえら?」
前言撤回
少なくともマズイ状況になった。
「ユーゲイさん待ってください!彼らは私の仲間です!」
声を張り上げたのはスノウ。
口ぶりからして既知の関係であると予想できるが関西弁の男は首を傾げている。
「…嬢ちゃん誰や?」
「ス、スノウです!ナフィコのユーレア学院を卒業して3ヶ月前にセンタレア直属魔法士団に入団したスノウ・メロウルです!」
「ほー?そう言われりゃ何ヶ月か前に似とる顔を見たことある気がするわ。てことはここにおる皆んなはスノウちゃんの部下ってわけかいな」
「スノウ、知り合いか?」
仲間たちが緊張を張り詰める中、リントがスノウに尋ねる。
「ええ…この人は…」
「ま、お前みたいなもんや。スノウちゃんがおるんやったら悪い事はしてへんやろ」
「俺みたいな?じゃあ冒険者!?」
「おー。そうやそうや俺冒険者やねん。ほな俺帰りますわ」
「違う!この人はセンタレア直属魔法士団の第四席のユーゲイ・スグキさんよ!つまり、私の上司って事!!」
スノウが男の素性を明かすとユーゲイは手で目を覆う。
まるで『言わんでほしかったわ…』と言っているかのように。
「センタレア直属…フィナンシェさんの同僚って事!?」
思い出すのは小柄すぎる空色の髪を持つフィナンシェ・モンブランという名のセンタレア最強の魔法士。
顔を合わせたのは一回だけで勝負等はしたことはないが、それでもなおセンタレア最強という肩書に間違いはないと確信させられた。
「そんな人がなんでわざわざこんな所にいんの?ここミガレユノだけど」
「休暇中やったんや。けど緊急招集来たらセンタレア戻らなあかんやん」
「緊急招集…?そんな事私知らないですよ」
「あれま。これ言ったらあかんかったやつ?ほな忘れてや」
バイクの収納スペースからヘルメットを取り出してそれを被り、跨るとエンジンの音が轟くとこの形に馴染みのないバルやアテラが更に警戒を強める。
「ちょ…!」
「ほな、またもう二度と会わんことを期待してるわ」
更に大きい音を轟かせると出口に向かってハンドルを曲げて動き出す。
あとに残ったのは多くの疑問とレクゥーリアのみだった。




