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その勇者はバス停から異世界に旅立つ 〜休日から始まった異世界冒険譚〜  作者: たや
第四章 世界の狭間のオルトノ ミガレユノ編
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雪の陽射し


目覚めた


…目覚めた?


こんな真っ暗な空間で?


思い出せる限りだと記憶にあるのはありったけの力を込めて()()に殴りかかった記憶。

だけど一撃キメる途端に急に力が抜けて瞼が閉じていったはず。


あれ?そもそもなんで力を込めたんだっけ…


というかここ…どこ?


目は見えてるのかわからない、体の感覚は冷たくて宙ぶらりん、意識もいまいちふんわり


てか、俺って誰だっけ?

なんで生きてるんだっけ?

どうして戦ってるんだっけ?

何のために旅をしてるんだっけ?

俺の欲しいものって何だっけ?


「なんか、もう寝たいや」


考えるのもめんどくさい


一旦、目を閉じよう…


『…私の魔力をリントに直接渡すわ』


聞き覚えのある少女の声。

それはとても愛おしく、心…というより()が暖かくなる。


『ちょっと10秒くらいこっちを見ないでくれると助かるわ』


予感…いや確信がある。

この少女がきっと自分に()()()()()()()()はずだ。


「ス…ノウ…」


自分の意識外から勝手に口が動いて人の名前を呟く。


なぜだろう、この名前を意識すると自分という存在の意義を確かに再確認できる。


俺って誰だっけ?

誰だっていいだろ


なんで生きてるんだっけ?

そりゃやりたいことあるからだろ


どうして戦ってるんだっけ?

必要だから


何のために旅をしてるんだっけ?

それが俺のやるべきことだから


俺の欲しいものって何だっけ?

それは…


「起きなさいリント…起きなかったら許さないから!!!!」


こいつ(スノウ)に決まってんだろ!!!!


すぐさま自分の意識が失わないように()()をしっかりと保ち自由の効かなかった身体に喝を入れて再始動のエンジンをかけた。


「しゃあああ!!!」




「いっだぁぁい!」


復活の叫びと同時に意気揚揚と身体を起こすと()()()リントに顔を近づけていたスノウと額がかち合ってしまいスノウは両手で自分の額を抑えていた。


「スノウ…何やってんの?」


「あんたっ…殺すわよ…!!」


「ってか!!スノウ怪我は!?おもっくそ腹貫通してたけど!?」


「あー…説明しても多分理解できないから省くわ」


リントの記憶では蒸気が晴れると同時にオルトノの刃がスノウの腹部を貫通していた。

だから感情的になり無鉄砲に突っ走っていったわけなのだが、致命傷を避けた理屈については話すのも時間が惜しいしそもそもリントが到底理解できるとは思わなかったので説明はやめる。


「リントくん!?大丈夫かい!」


勢いよく起き上がって急に身体を動かしたからかアレタがやや困惑した顔で心配の言葉をかける。


「おう!なんか一瞬変な気分になったけど!全然戦えるぜ!」


体の熱が治まっているのはいつものようにアレタが薬を飲ませてくれたからだろう。

そして軽く身体を慣らして戦況の確認を行う。


バルが上手くオルトノの正面に立ちながら攻防を繰り広げつつ、生まれてしまった隙をアヤネが割って入りカバー。

シフラは水魔法、アテラも大槌で岩を打ち飛ばし、マリーナも自分の魔法でオルトノの行動を阻害しているがそれすらも適応を始めており、突破されるのも時間の問題だろう。


「リント」


急いで仲間のもとに戻ろうと足を動かすとスノウが声を掛ける。


()()()はしてあるわ。私を信じて、ぶっ飛ばしてきなさい」


「ずっと信じてるって。任せろ」


不安げな顔のスノウだったが自信を感じるリントの笑顔で少しだけ気が安らぐ。


「しゃあぁっ!」


着火(イグナイテッド)を発動させてすぐさまバルとオルトノの間に入りオルトノを蹴り上げて宙に浮かす。


「わりぃ!待たせた!」


「遅えよ寝坊助!」


さらにバルが大剣を振り、浮かせたオルトノに一撃入れると距離が空く。


「わかったことは2つ。まず魔法に対する適応力が半端じゃねえ。あいつに使った魔法大体学習されてると思ったほうがいい。対策どころかばっちりそのまま使ってくる」


「もひとつは?」


「あいつの倒し方だ」


「マジで!?」


「マジだ」


「どうやって倒すの!?」


「単純…というかこれしかない。あいつが学習適応できないくらいのデカいの食らわせる。最初にやったスノウとシフラの合わせ技くらいのやつをもう一回くらいな」


「もうそんな力みんなは残ってないだろ?」


「そうだな。俺だってじきに限界来るが俺達以外の他の奴らがそんな事できるとは思わねえ。だから…」


バルの目線がオルトノに一瞬向くとリントもその視線を追うと伝えたいことがわかる。

おそらくスノウの仕込だろう()()()()が肉眼で確認できた。


「…そういうことね。スノウもよくやってくれたよ」


2人の連携で距離を空けたオルトノが気がつけば頭部を怪しく緑色に点滅させながらこちらを凝視しているように見える。


「今頭光ってんだろ?多分あれが魔法の分析中のサインじゃねえかと思ってる。直近で魔法で攻撃したのはシフラの水魔法、マリーナの…まあなんかの魔法だ。アヤネの影溶(ようよう)もパクって使ってきたからどんな魔法でも見ただけで再現できるかもしれねえ。仕留めるなら一撃だ」


「失敗しても成功してもこの一撃が最後だろうな。またぶっ倒れたら今度こそ終いだ」


「…しくじんなよ」


「ぜってー勝つ」


まず、バルが駆け出す。

魔力は纏わずあくまで陽動として本命の攻撃を通すために大剣を地面に擦らせることであえて音を発生させてオルトノの注意を引き付ける。


「スノウの仕込なんて知ったこっちゃねえ…その前に」


力強い踏み込みで力を貯めると大剣に雷が迸り空気が強炭酸水の様に弾ける。


「俺が終わらせてやらぁ」


迅雷断裂(ボルトディヴァイド)瞬雷(シュンライ)


大ぶりで高い攻撃力を持つバルの攻撃の中でも数少ない速度に特化した技。

その速さはオルトノの反応を待つまでもなくかすり傷を与えるほど。


しかし即座にオルトノは攻撃の姿勢に移るが自身の動きに()()()を覚えた様子。


「私一人の力ではせいぜい腕の一本を1秒縛るのが限界でしょう」


それもそのはず、今のオルトノには()()()()()()()()()によって一時的だが身体の自由を奪われているのだ。


「本来であれば指の半数はちぎれ落ちるかもしれません」


その証拠にマリーナの両手には血が滴り地面には数滴ずつ落ちていく。


「ですが今日は強力で頼れる方をお雇いしてますので…!」


マリーナの後ろには同じ様に両手に魔力の糸を巻き付けたアヤネとシフラとアテラの3人がいる。


「負担の分散があるのなら数秒だけでも完全に固定できます。後は頼みます!」


オルトノが一瞬捉えた視界の隅で飛び跳ねたナニカ。


知ってから対応では遅かったことを32秒後に知ることになるが、オルトノには物事を判断し学習する()()はあってもそれに込められた気持ちや思いを理解する()()はそなわっていないのだ。


「【魔拳 内裂波(まけん ないれつは)】」


リントのこの技は打ち込んだ相手の体内に魔力を直接流すことのできる()()な技。

ハーモラルに来てから火吹きの偽竜(ファイア・レプタイル)に使った初めての技だ。


なぜこの技を選択したのか


理由はスノウの仕込みに合わせた事他ならない。


「今のアイツには私の氷の魔力が流れてる」


あの腕で腹を貫かれた際に咄嗟に閃いた一か八かの()()


「本来、魔力の注入とか受け渡しって簡単にできることじゃない。でもアイツに刺された時に感じたの。()()()()()()()()()なのよ」


そしてリントの拳がオルトノの顔面へとめり込む。


「魔力は自分の体にだけ循環する不可視のエネルギー。それと同時に血みたいに()()()()()()()()()()()()物。普段は外からの干渉を受け入れないために自動的に()がされているけど魔法という形でだけ体外へと具現化する。でもアイツは違う」


拳を受けて2秒後、オルトノの身体が発火を始める。

初めは新品のオイルライターの様な弱い発火だっだが繰り返すうちにほんの一瞬だけ身体を覆う炎も見せた。


「魔法を自分のものにするためなのか…蓋がない。蓋がないのならどんなものでも()()()()。もちろん、()()だって」


何度目かの炎に覆われた後、それに適応するためにオルトノが頭部を光らせるが異変が起こり、今度は氷に覆われるようになっていく。


「そこでアレタに質問。事前の情報無しで他人同士で血の交換は行えるかしら?」


「行為自体は出来るよ。でもそんな事、医学を少しでもかじった人間がやるわけがない。血っていうのは…!そういうことか!」


「そういうこと。アイツは今、魔法に苦しんでいるんじゃなくて私とリントの異なる身体情報が入ったことに苦しんでいる。炎と氷はおまけみたいなものだけど…今の状態で同時に異なる属性の対応は手間取るみたいね」


明確に挙動が故障寸前の機械の様な動きを始めると前線にいるリントとバルが確信する。


「そうね…私とリントの合せ技だから…雪の陽射し(サン・ザ・スノウ)とでも名付けようかしら」


ここで()()()


「【魔拳衝炎一撃(しょうえんいちげき)】」

「【迅雷断裂(ボルトディヴァイド)万雷(バンライ)】」


リントは懐へ、バルは背面に回り2人が各々、現状の残っている力で放つことが出来る高火力技を最大限の振り絞ってオルトノへとしっかりと的中させる。


前の力と後ろからの力でぶっ飛ばされるようなことにはならず、行き場のない力がオルトノの全身を駆け巡ると許容以上のダメージを受けたのか倒れることもなくその場で固まると怪しく光っていた頭部が何も発しなくなった。


「私たちの勝ちね」


静まり返った空間の中でスノウは自分たちの勝利を確信した。



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