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その勇者はバス停から異世界に旅立つ 〜休日から始まった異世界冒険譚〜  作者: たや
第四章 世界の狭間のオルトノ ミガレユノ編
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銀の糸


簡潔に言うと、リントが放った止めの一撃は失敗に終わった。


オルトノの頭部にすら掠らず背後の壁に拳がめり込むとリントは崩れるように倒れかける。


「っ!」

「リントくんッ!」


異常に感づいたバルとアヤネが思考より先に足を動かしリントの元へと駆け寄るが事がそう上手く運ぶわけもない。


もはやリントを敵として見なすことをやめたオルトノは次なる標的を定める。


「うぇ!?」


すぐ近くまで迫っていたバルに目もくれず追い抜きスムーズにアヤネに接近。

そしてスノウを貫いた時と同じ様に自らの右腕を鋭い刃に変身させるとアヤネの首を分かつべく真横に振るう。


数分ぶりに訪れた2度目の死の予兆。


「…………なんてね」


咄嗟に腰を少し下ろして攻撃を回避する。

それだけで終わらず袖に隠していたクナイを手に持ちオルトノの腹部に突き刺す。


「かったぁっ!?」


例えるならえんぴつを握りしめて机に勢いよく叩き刺したような硬さ。

それが3倍ほど強くなって返ってきた感覚。


自分の攻撃ではオルトノにダメージを負わせることができないと判断したアヤネは後方へ下がるため跳躍をする。


「跳ぶんじゃねえ!!」


アテラの叫びで視線をオルトノに戻すと周りには()()()が浮いていた。


間違いなくこれはスノウの【踊るつらら(アイスクロウ)】。


「まずいかも…」


今はまだ宙に浮いている。

そのため発射されるであろうつららを回避するなど今のアヤネには至難の業。

影溶(ようよう)も地面に足がついているときにしか使用できない。


オルトノの頭部が怪しく光るとアヤネの想像したようにつららが自分目掛けて発射された。


回避は絶望的、仲間からのサポートもおそらく期待できない。


数秒ぶりの死の予兆、本日3度目。


悟り、目を瞑る。




だが耳に入った音はつららが硬い何かとぶつかり砕け散る音だった。


恐る恐る目を開くと大剣がつららを受け止めていた。


「俺を無視するたぁその頭は飾りみてえだな」


その大剣はオルトノを追い抜き主の元へと戻っていき、主も大剣をしっかりと握りしめる。


「【迅雷断裂(ヴォルトディバイド)】」


オルトノからみて背後からの強烈な一撃。

流石にダメージがあったのか前に数歩、動くような動作を見せた。


「俺がこいつぶっ倒す!その隙にリントどうにかしろ!」


「わ、わかった!ありがとうバルくん!」


なおもアヤネを執拗に狙う素振りを見せるオルトノにバルは更に追撃を仕掛け、大剣と腕の刃の攻防に持ち込みこの場所で留めさせる。


「アヤネだけじゃリントを運べねえ!オレも運ぶの手伝うからシフラはサポート頼む!」


「わかった。邪魔はさせない」


アテラがバル達から遠ざかりながらリントを担ぐアヤネの元へ走り2人でリントの肩を持ちアレタとマリーナの近くまで運ぶ。


「身体の異様な発熱…魔力の急激な消耗…いつものだ」


アレタの想像通り、大着火(イグナイトロアー)の反動でリントは倒れた。

森崩しの猪(フォレスタッド)とレカルネラ戦で見た大着火(イグナイトロアー)の反動は重すぎるとわかっている。


「アレタさん!リントくんは大丈じょ__」

「大丈夫。僕がいるよ」


鞄から鎮熱剤の入った瓶を取り出しリントの口に流し込んだ。


森崩しの猪(フォレスタッド)の時は気を失ってから飲ませたから復活までに時間がかかってしまった。

レカルネラ戦ではピンチの時は倒れた()()をするようにお願いしたから気を失う前に鎮熱剤を摂取したからすぐに戦線復帰ができた。


意識の有無で回復時間が大きく変わることが判明したからアレタはそれを改善点と判断し調合を続けた。


(今までリントくんに使っていた鎮熱剤に多少改良を加えたこの薬…まさか実戦で使う事になるなんて…)


「アレタさん、スノウさんの応急処置が終了しました」


「助かりますマリーナさん。スノウちゃん、気分はどうだい?」


リントの戦闘不能を察するとマリーナに薬と小道具を貸して指示をすることによってスノウの傷を少しでも癒せることができたはず。


「痛みが少しずつ引いてきたわ…ありがとうアレタ」


「良かった…あとはリントくんが…?」


体の熱は以前より驚くほど早く引いた。

それでもリントの顔は活力を感じられず苦しんでいるようにも見える。


「ダメだ…熱は引いたけど…目覚めさせるには改良が足りなかった!」


実戦で薬を使用する際に一番起きて欲しくないこと。

それは必要なタイミングで必要な効果が得られないことだ。


必死に思考を巡らせ、次の手段を模索する。


「クソっ!」


一方でオルトノを足止めしているバルからは疲弊の表情と攻防が防に寄ってしまっている劣勢に追い込ま

れてしまっていた。


「汐の導き、満る月に祈る。我が道を阻む愚者に荒れ狂う海の力を示せ。【人魚の遊泳(マーメイドシーフロウ)】」


詠唱と特定挙動を終えたシフラが右腕を突き動かすと水の鞭が出現する。

右腕を右から左に振るうとそれに連動して水の鞭がしなりバルを避けてオルトノの右頭部に命中した。


「嘘…?」


水の鞭は確かに命中していた。

しかしそれは()()()()だけである。


なぜなら水の鞭が()()()()()()()()()のだから。


「いや!これでい…!?」


シフラの焦りと裏腹にバルは足止めが出来たと踏み攻撃姿勢に移るが、途端に身体の自由が効かずにその場で固まってしまった。


足元を見ると氷が膝の高さまで迫っている。


「っ…ざけんなぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「【人魚の遊泳(マーメイドシーフロウ)】!!」


今度は左腕で水の鞭を出現させて同じ様にオルトノに向けるが頭部が怪しく光るとそれすらも凍りついてしまう。


「なんでっ!」


オルトノはバルを見下す。

感情の有無は不明だが間違いなくバルを排除すると伝わる。


右腕の刃を振り上げてバルの首に向けて振り下ろす。


「バルくん!」

「バル!」


たまらず駆け出したアヤネがクナイを投げるが案の定弾かれる。

あくまでそれは気をこちらに引くため。

本命はアテラが振るう金槌。


「ぶっとべやぁぁぁぁ!!!」


最初にオルトノをぶっ飛ばしたようにはいかなかったがそれでも十分距離は離すことが出来た。


「助かった!」


「どういたしまして!」


バルの足元の氷をアヤネがクナイで突き刺して砕く。


「私も加勢いたします」


マリーナもバル達に混ざり残存勢力での総力戦を始める。


まだリントは目を覚まさない。


そんな時、スノウが呟く。


「…多分、リントに今足りないのは魔力だと思う」


「スノウちゃん…?」


「魔力は身体の生命力でもあるから。魔力が回復したらきっと起きるはず」


「だったら僕の魔力回復薬(ポーション)を…!」


「いいえ。薬だと魔力の回復が始まるまで遅いと思う」


「じゃあどうすれば!」


「…私の魔力をリントに直接渡すわ」


「そんなことができるのかい!?」


「えぇ、方法はあるわ」


「じゃあ早くしよう!バルくん達もいつまで持つか…スノウちゃん?」


こんな状況だというのにスノウはなぜか恥ずかしそうに顔を赤らめてリントから視線を逸らしていた。


「よし。心の準備おっけー…アレタごめん。ちょっと10秒くらいこっちを見ないでくれると助かるわ」


「え、あぁ…わかったよ」


アレタは言われた通り視線をバルたちに向けた。


それを確認したスノウは意を決して気を失っているリントに顔を近づける。

スノウの目はリントの顔を見つめており、ほぼゼロ距離まで縮まる。


そして自分とリントの唇を触れさせた。


これだけでも効果はあるが今はさらなる効果が必要。

なので舌をリントの口内にある舌に触れさせ、絡めるように動かす。


身体の内側になればなるほど、生命力が濃くなるため効率よくを残存魔力を受け渡すことができるのだ。




ほんとは推奨されてないやり方だけど




数時間にも感じるほどの数秒。

唇を離して顔を上げると二人の間には一本の銀色の糸が結ばれていた。


「起きなさいリント…起きなかったら許さないから!!!!」



どっくん


気を失ったリントに再始動のエンジンがかかる



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