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地球組の不在


「お、お、おおお、おおい!なんだよ今の!?」


まるでありえない物を見たアテラがおぼつかない話し方をしている。


「薬師。なんでリントとスノウとアヤネが車輪の付いてる箱に攫われたの?」


シフラも表情や話し方は崩れていないものの困惑が見て取れる。


「リントくんとアヤネちゃんはチキューの人だからね。48時間しかハーモラルにいられないんだ。スノウちゃんは…なんでだろう」


アテラとシラフはリント達がチキューに戻る光景を始めてみる。

そもそも異常なことだがアレタがすっかり慣れてしまってようだ。


「5日後くらいに帰って来るからそれまでナフィコに向かって動こう」


「そうだな。オレもアヅラタンに行きてえし…ダリオルの手綱はオレがやる。シフラとアレタは周辺の敬語頼む」


「分かった。任せて」


「僕は戦えないから…出たら任せるよ」




そこからの道中は3度ほど魔獣との遭遇があったが、アテラとシフラが苦戦する様子無く戦闘を終えた。

どれもEランクの魔獣だったのでCランクのアテラにとっては造作もない。

アテラはハンマーと言っても過言ではない大きな鎚で魔獣を叩き、シフラも水属性魔法を巧みに操り息を乱さない美しい戦闘を繰り広げていた。


日も沈みかけてきたのでダリオルの足を止めて野宿の準備を始める。


旅をする上で決めたことがある。

季節に寄るが日が暮れたら歩みを止めてその場で夜を越す準備、出発は朝の9時からという生活ルールだ。


魔獣の性質上、低ランクの魔獣は火を苦手としているので夜に不自然に明るい場所には近づかない。


そして魔獣よけに最も効果的なのは強大な魔獣が落としたマナストーンや素材などを目に付く場所においておけば、()()()()()()()という事を視覚や直感から得ることが出来る。


最低限の戦闘で済ませたい冒険者は体に強力な魔獣の一部を纏ったり、商隊(キャラバン)は荷車の上部に魔獣の角などを括りつけている。


という訳で以前、リントが退治した森崩しの猪(フォレスタッド)の角を焚き火と荷車の近くに置く。

それにダリオルも野生の個体であればDランクに位置する魔獣なので夜中に襲われることはほとんどないだろう。


「じゃあ予定通り前半は僕が見張り、後半はアテラちゃんお願いできる?」


「異論ねえ。じゃあオレは寝るぜ」


不足の事態に備えて見張りも交代制で回している。

昨日はスノウが前半、リントが後半で眠らずに起きていた。


「明日の後半はあたしが引き受ける。アレタは明日休みね」


「そうだね。じゃあそれぞれ体を休めてね」


ちなみに女子達はドア付きの部屋タイプの荷車、男子達は普通の荷車で寝ている。

アテラとシフラが体を休ませると荷車から道具と材料を取り出し、薬の調合に入った。


「リントくんの沈熱剤のストックを作って…アヤネちゃんはまだ戦いの経験が少ないから怪我を負っても良いように傷薬も多めに作っておこう」


魔氷草(まひょうそう)の花を取り出して握り蜜をすり鉢に抽出、次に瓶に入れている花蜂(はなばち)の蜜を入れ込んで棒でかき混ぜる。

混ざりきった所で北国のミガレユノに降った雪解け水を同じ割合で入れながらまた混ぜる。


「3本か…ナフィコで別れる前にレシピだけ渡しておこうかな」


完成した薬を瓶詰めして次に傷薬の制作に取り掛かるとアテラと交代の時間になったようで、荷車から眠そうな顔をして降りてきた。


「交代だ。休んどけよ」


「ちょっと待って。この薬の瓶詰めだけやってから」


「別に急かしてねえよ。1人でこの夜中にぼけーってしてんのも退屈だしな」


「だったらこの作業が終わるまで話し相手になるよ」


「そうかい。だったら世間話でもすっか」


焚き火の前に座り込んでいたアレタの向かいに座り炎を眺めながら会話する。



「オマエはなんでリント達に着いてきたんだ」


紹介場にいた時、リントがしつこく誘ってしばらくは同行してくれると言った。


「なんでだろうね、僕にも分かんないや。アテラちゃんは?」


「ちゃん付けはやめろ。呼び捨てでいい」


不機嫌な顔になったが怒ってはいない。


「ごめん。アテラは?」


「オレは親方がアヅラタンで鍛冶を学べと言ったから。他には工房じゃ育たない技術っていうのもあるらしい。それ取得したらすぐにシンヘルキに帰ってやる」


「へえ。鍛冶や大工なんて僕には出来ないなぁ。すごいよアテラは」


「オレだって薬師なんざやっていける自信ねえよ」


「かといってリントくんやスノウちゃん、アテラやシフラさんみたいに戦えるわけでもないよ。僕に出来るのは傷ついた人を少しだけ楽にすることだけさ」


「それが出来るんならそれでいいだろ。うちのバカギルドマスターはアレタにそれを求めてるんだからよ」


「でもね、強い人に囲まれてるとそう考えちゃうんだよ。僕も戦えたらなって、自分の身くらい自分で守れるようになりたいんだ。実際、レカルネラとの戦いで僕は時間稼ぎと薬を渡しただけ。年下の子達が命を削って戦ったのにね」


半ば自暴自棄になって過去の自分を見た。


「それなら力があったほうがいいな。だけど今のオレ達は個人の集団じゃなくて…認めたくねえけど仲間同士なわけだ。出来ないことは仲間が助けて、仲間ができないことは自分が助ける。そういうもんだろ」


「でも…」


「1人ですべてを回せるわけじゃねえ。オレだって大工として色んなもん作れる。だけどそれには木を切る人がいて、木材に加工する人がいて、それを卸す人がいて、オレの所に来る。今オレ達が使ってるこの荷車だって手掛けたのはオレと親方の2人。でも材料に木、鉄、縄とかすげー量の材料があってそれを工房で使えるように加工した人がいてオレ達は働けるんだぜ」


説得や同情とかそういった感じはしない。

この子は常日頃からそういう考え方をしているんだ。

偉ぶるわけでも、下に見るわけでもない。


「オマエは薬師っていう今の誰にも変えれないすげえ事やってんだ。それ以外の仕事を押し付けられたら教えてくれ。オレがそいつぶん殴ってやるから」


「参ったなぁ…年下のアテラの方が大人の考え方だよ」


「とにかく寝ろ、寝不足は心がすり減る要因だぞ。薬師が倒れちゃ元も子もねえだろ」


「そうだったね。休んでくるよ」


道具を荷車に仕舞い薬の入った瓶を割らないように保管する。

そしてそのすぐ横で寝転がり目を閉ざすとすんなりと眠りについた。


「ったく、バカなギルドマスターに弱気な薬師…このギルドにまともな男はいねえのか」


そう呟くも聞いている人間は誰もいない。


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