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冒険者になろう(2回目)


さーてと、こっからどうすっかなぁ

夜明けの太陽が壊滅してるのは流石に想定外だったぞ

頼れる人間ははっきり言っていないしヒナタの名前使えばある程度の融通効くかな

こんなんだったらアッス達についてってギルド紹介して貰えばよかったわあ

思い出せ…親父はこういう時なんて言ってた


『んなもん歩いてりゃなんとかならぁ』


ダメだ当てにならん


「せめて少しでも親父達のこと知ってる人が近くにいてくれたらなぁ」


なんてぼやいていたら横を通りすがったおばちゃんが持っていた荷物を落とした音がした。


「あんた…キョーヘイくん…?」

「んん?」


振り向くとおばちゃんは死人を見たかのような表情でこちらを見ていた。


「あの時の赤ん坊かい!?」

「そーだよ。多分」


場所を変えてすぐ近くのおばちゃんの家に案内されたので椅子に腰掛けながら出された茶をいただきながら今までの経緯を話していた。


「いやでも助かったよおばちゃん。こっち来たのはいいんだけど知ってる人全然いなくてさ。夜明けの太陽の元総受付嬢に出会えたのは本当に奇跡だよ」

「こっちこそ驚いたわさ。雷獄の雨と同時にこっちとあっちを繋ぐゲートが誰かに壊されたんだからね。まさかあの時逃がされたちっちゃかった坊やが戻ってきただなんて」

「なあおばちゃん。あの慰霊碑には親父と母さんの名前がなかったと思うんだけどさ、もしかしてまだ」

「それがね、あたしらにも分かんないのよ」

「ええ!?」

「あの日はすぐにギルドマスターの判断で受付嬢を始めとした戦えない人たちは地下に避難してたからねぇ。戦いが鎮まって上に出たら外は阿鼻叫喚の図。うちの冒険者の半分はもう冷たくなってたし残った人も後遺症やトラウマになっちまってね。まだ冒険者を続けているのはほんの一握りなんだけど…どういうわけかキョーヘイくんとミホちゃん、ライメルさんとメティさん、そしてギルドマスター達は一瞬の光のうちに消えてしまったらしいの」

「…行方不明って訳か」


死んでないならまだ希望はある。

それに鬼神の如き強さを持つあの親父が雷なんかでそう簡単に死ぬわけがない。


「ちょっと色々調べたいことあってハーモラルに来たんだけど異界管理局って今の俺でも入れるかな?」


異界管理局とは地球とハーモラルの直接のやり取りを仲介する国営組織の事だ。

過去にお互いの技術などを不要に、過剰に持ち込まれた結果独自発展した世界の技術バランスが崩れてしまい最悪の場合である文明崩壊に繋がりかけた事件が何度かあった。

そういったことを未然に防ぐための組織でもある。


「キョーヘイくんの息子さんなら話は聞いてくれると思うわ。ただゲートが破壊されて以降は組織自体もだいぶ小さくなっちゃって今じゃ名前だけの組織になってるからねぇ」

「話を聞けるだけでも十分だよ」

「分かったわ。せっかくキョーヘイくんの息子さんが遠路はるばる訪ねてくれたんだからね、あたしの方で便宜を図ってみるさ」

「助かるよおばちゃん」

「ところで今日は寝る場所はあるのかい?」

「あー…なんも考えてなかった」


寝袋あるし最悪の場合野宿想定してたからな。

こっちのお金なんて持ってるわけないし宿だって借りれねえじゃん…!


「だったらうちの客室使いな。行く当てが無いんだったらしばらくここに住んだって構いやしないよ」

「いいの!?」

「歳を取ると孤独が怖くなるもんさ。それにうちは孫も遠い場所にいるからね」

「本当に助かるよ!あ、でも俺、どうやら48時間で強制的に向こうの世界に連れ戻されるらしいから…もしかしたら途中で消えるかも」

「いいよいいよ。ふらっと顔を見せてくれるだけで嬉しいもんさ。しばらく帰ってこなかったら向こうに行ったと思うよ」

「ありがとうおばちゃん!」


当面の宿はとりあえずクリア。

あとやることと言えば…



ハーモラルで何かをするなら基本的に冒険者の肩書を手に入れたほうがいい。

そうすれば他国の行き来もスムーズだし冒険者というだけで優遇される施設だってある。

基本は一人で活動するつもりだけど情報交換できる仲間だって欲しいからな。

それに仲間は多いに越したことはない。


「ここがギルド紹介場かぁ、随分でかいな。下手したら小学校くらいあるんじゃねえの」


ギルド紹介場はその名の通り様々なギルドを紹介してくれるギルド界のハローワークだ。

常に様々なギルドの人間が駐在しており進路説明会の様に募集要項や求める人材などを説明してもらい自分にぴったりのギルドを探すことができる。

他にも新規の冒険者登録や世界各地に集められた冒険者や傭兵に解決してもらいたいお願いが集まる冒険者の為の施設だ。

場所によるが鍛冶屋や商店などを併設している所も多い。


「失礼しやーす」


木製のドアを開けると甲冑を纏う者、見るからに放浪の旅人など幾多の修羅場を潜り抜けた猛者達もいればまだ若い顔をした新人冒険者も楽しそうに談笑している。

その人々を通り抜けて中央のカウンターに佇む上品な青年のお兄さん前に立つ。


「ようこそ。本日はどの様なご用件でしょうか?」

「えーと、無くした冒険者証明の再発行をお願いしたいんだけど」

「承知しました。ではこちらの識別水晶にお手をかざして多少の魔力を流し込んでください」


お兄さんの足元から出てきたのはサッカーボールほどの大きさの丸い水晶玉だ。

さらに右手を当てて少しだけ力を込めると透明な玉に色が着く。

魔力とは皮膚や毛髪、血液と同等の生体情報の集合体であり偽ることができない為このように個人識別で使われることがかなり多い。


「リント・ヒナタ様でございますね。初回発行が13年前となっており最終更新が11年前となっておりますが…」


水晶玉とリントの顔を何度か見比べる。


無理もないか、クソガキから普通のガキに進化している上に3歳に冒険者登録をさせる狂った人間(家族)なんてそういないからな。


「かなりご立派に成長された様ですね」

「へへ、あざす」

「5年前から冒険者証明は書面からこの様な物に変わったことはご存知ですか?」


そう言って渡されたのはビー玉サイズのガラス玉。

受け取ると地球の技術でいうホログラムに類似された触れられない画像が浮き出た。


「うぁっ!な、なんだぁっ!」

「書面だと紛失される方も多くて今はこの小さな識別水晶に変更されたんですよ。金属と加工してアクセサリーの様に身に纏う方がほとんどです」

「へぇー…すっげぇ…」

「今のお客様の冒険者ランクはCランクですがここ最近の活動は何かありましたか?」

「それがちょっとできてなくて…10年くらい」

「なるほど。であればブランクを加味して現在のランクはDに下方させて頂くかもしれませんが…」

「まー、しゃあないっすよね。俺もちょっと怖いとこあるし」

「ご理解感謝致します」


名前の横の英語がDになった!?

リアルタイムで更新できるなんてすげえ技術だな

端末とサーバーみたいなことできてんじゃん


「今日はとりあえずこれだけ欲しかったから来たんだけど他に何かあるかな?」

「いえ、特にはございませんが…」

「が?」

「所属していたギルドの夜明けの太陽が今はもう無いんです。なので代わりのギルドを紹介しようかなと思っていたのですが」

「それはいいや。また来るよ」


軽く手を振って丁寧な対応をしていただいたお兄さんに別れを告げる。


おばちゃん家に帰る前に周辺に何があるかだけは把握しておきたいので歩き回りながらこれからのことを考える。


Dランクスタートかぁ

最低のEランクだとコスパ悪い依頼しか受けられないからなそこは不幸中の幸いだ

それに親父達を追うなら必然的に雷獄の雨に立ち向かうことになる

最高位のSランクまでいかなくても一個下のAランクにはなっておきたいな

でも週末の48時間で上に駆け上がるんだったら受ける依頼は見極めないといけない


「夕暮れ…?」


気が付かなかったが日が落ちかけている。


そういえば俺が出発したのは夜の7時のはずだ

でもアッス達に会った時はお天道様は昇ってただろ

つまり時差があるってことか

そもそも48時間という縛りもどこでスタートしてるか分かってない

出発から48時間か到着から48時間かそれもまだ分からないし向こうとこっちに掛かる時間も測ろうと思ったら急に眠くなってきたし


「しばらく本格的には動けなさそうだなこりゃ。お、酒場」


寄っていきたいところだがおばちゃんはご飯も作ってくれているので今日はスルー。

楽しそうな雰囲気だしいつか行きたいけどまた今度、別の機会にしよう。




「んでさ!鉄の箱から出てきた人がトロルを燃やし尽くしたんだよ!拳で!」


その酒場の中にはアッス、イッス、ウッスの3人がその場にいた者ものに今日あった出来事を武勇伝の様に熱心に聞かせていた。


「だって。アッス達の話ってあんま信憑性ないんだよねぇ」


友人の女冒険者が私に話しかける。

かなりの与太話だが大人にとっては酒の肴になるのだろう。


「興味ないわ。そんな話に付き合ってるほど暇じゃないもの」

「相変わらず冷たいこと。流石は【ドロップ】様ね」

「その呼び方やめて」


酒はまだ飲めないからジュースを飲む。

そもそもこんな場所自体があまり好きじゃないのに奢りだからと連れてこられて少し後悔した。


「おいアッスよ!そんなすげえ奴はなんつー名前なんだよ!」

「名前?確か…」


帰ろ。

申し訳ないけど男女比が絶望的に違いすぎるしむさ苦しくて息が詰まりそう。

深々と帽子を被り小さい頃から使い続けているお気に入りの杖を決して離さぬように大事に握って席を立つ。


「リント・ヒナタ…だったよなぁイッス!」


かこん、と杖が床に落ちる音が響くとその酒場にいた全員が私を見た。


「リント…ヒナタ…?」

「なに、知ってんの()()()?」


何かを思い出したかの様に沸々と怒りが湧いてきた。

部屋全体の温度が上昇して汗をかく者まで現れる。


「ええ。とぉーーーってもよぉーーーく知ってるわ…


この私に…唯一屈辱を与えたクソ男だもの…!」


歯を食いしばりかなり怒りを堪えた口がそう話した。

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