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掴み取った勝利


レカルネラが倒れると同時に砕け散ったライアー。

それは、リントの勝利を意味していた。


「強かった…とても…正直、今の俺が戦っていい相手じゃなかったよ」


安堵の気持ちから気を緩めると身体が勝手に前にのめり込んだ。

だけど、すぐに優しく柔らかい何かに受け止められた。


「おっと…お疲れ様」


魔王が地球に襲来した時振りにスノウがかなり優しく労いの言葉をかけてくれた。


「アー。耳ガ聞コエマセーン」


「あんた読唇術あるって言ってたでしょうが!」


「ちぇ、バレたか」


受け止めてくれたスノウから離れる。


「アレタさ、なんか耳に聞く薬とか持ってないの?」


「流石に今は持ってないなぁ。宿に戻れば作れるけど…それより体は大丈夫?」


()はね。多分あと5分くらいで色んな反動来るからちょっとマジで休ませてほしいかも」


「だったらその辺の部屋を使ったらいいわ。大体の部屋にベッドはあったから少し横になってなさい」


「ありがと。ちょっと寝るわ」


「僕も一緒にいるよ。一応色んな薬は持ってきたから」


「私もいてあげる。少しはご褒美あげようか?」


「いや…スノウは洞窟を見てきてほしい」


調子に乗って変な要求でもされないかと考えたが意外にもリントはスノウに洞窟の調査を依頼した。

思ったよりまともなお願いをしてきたので返答に困るが、実行する。


「じゃあレカルネラを拘束したら洞窟を少し見てくるわ。あのライアーが壊れたからもしかしたらみんな正気に戻ってるかも。リント、タイムリミットは?」


「ジャスト1時間と30分」


「わかったわ。1時間後に戻ってくるから」


「ああ…よろしく」


アレタとともに空き室に入りドアを閉めた。

スノウが小走りで通路を行ったのか足音が遠くなったのを確認。


「がふっ!」

「リントくん!?」


口からおびただしい量の吐血をし、倒れかけるが寸前にアレタが支えた。


「横になろう、体を見せて」


なんとかリントをベッドに乗せて仰向けに寝かせる。

衣服をめくると腹部には鋭利な刃物が腹を貫いた痕跡が残っており、そこからも血は流れている。


「深い傷だ…レカルネラが?」


「違う…これは自分で…気付けとしてね」


炎刃烈脚を叩き込んだ際に持てる限りの魔力と体力を使い果たし、倒れた。

その時は意識が遠のきかけていてレカルネラもトドメを刺そうとしていたが運良くスノウ達を追う事を優先し見逃された。


そんなリントが遠のく意識の中で咄嗟に考えついた気付けが、腰に持っている剣を腹に刺すことで意識も保つ方法。

そうしないとアレタからもらったポーションや薬など飲む気力が出てこなかったのだ。


「…普通だったら戦いが終わって落ち着いた瞬間に一気に全部の痛みが襲ってくるよ」


アレタは鞄から数本の瓶を取り出し、リントに飲ませたり身体に塗ったりと応急処置を始めた。


惚れた女(スノウ)の前で…情けねえ姿見せられないから…」


「真っ直ぐだね、君は」


この言葉はリントの視界から外れたタイミングで呟いたので唇は読ませていない。

続いて薬草の類やすり鉢や水などの調合道具を取り出して痛みを抑えるための薬を作り始めた。


「アレタがいてくれて助かった…この3人じゃないと勝てなかったよ」


「役に立てたようで嬉しいよ。これを飲んだらしばらく目を閉じてて、体を休ませるんだ」


「…ありがとう」


餡の様な食感の苦いペーストを口に入れられ、それを追うように水が口に入り飲み込む。

言われたように目を閉じると考える間もなく意識は落ちた。




視点は洞窟の調査を行うスノウへと変わる。

甲板に出て船から下を見ると相当な数の大人が困惑しているのかざわついていた。


「やっぱり…あのライアーが…」


レカルネラの持っていたライアーが破壊されてから赤子の泣き声も聞こえなくなっており、困惑はあるものの正気を取り戻した目で話している大人を見るとあのライアーが()()()の原因だと考えて間違いないだろう。


船からハシゴを使ってある程度地面に近づいたところで飛び降りて着地すると周りの目が集まる。


「皆さん落ち着いてください!私はスノウ・メロウル、冒険者です!今は訳あってシンヘルキに滞在していますが親攫いはたった今解決されました!」


だがその視線の殆どは疑惑の目であった。

まだ若い娘が事態の解決を宣言しても信憑性に欠けるだろう。


「本当です!首謀者の名はレカルネラ・コオト!アヴェダレオ魔王軍の一員です!」


アヴェダレオの名を出すと困惑の声が多くなる。

しかしあまりにも突拍子がなさすぎたのか嘘だという声も聞こえた。

そしてその声に便乗する声も増えてきた。


どうすれば納得してもらえるの…?


民衆を納得させるために悩んでいるとある男が前に割り込んできた。


「そのお嬢ちゃんが言ってることは本当だぜ」


とても鍛えられた体に焼けた色の肌を持つ年上の男性。

その人の顔は記憶にある。


「ロックさん!こんな子どもの言う事信じるってのかい?」


「そうだぜ、フバさん。なんせこの子はあのライメルとメティの一人娘だからな!」


パパとママを知っている…?

この人、確か夜明けの太陽にいた鍛冶のおじさまだ…!


「だろ?大きく育って…確か名前は…スノウ。だったか?」


「は、はい!ライメルとメティは私の両親です!」


雰囲気が一変。

このシンヘルキにも両親の名は響いているのかと我が両親の偉大さを身を以て感じた。


「俺の名はロック・ドード。元夜明けの太陽の一員だ。リントと別れた後抵抗したんだがすぐに気を失っちまってな。あれから何日経ったんだ?」


「…大体5時間くらい?」


「ほお…5時間か…じゃあセンタレアからの助けが__って5時間!?」


あまりにも大きな声だったので身体がびくっと動いてしまった。


「じゃ、じゃあ誰がレカルネラを倒したんだ!」


「リントが一対一で…結構ギリギリでしたけど」


「………信じれん。いや、信じよう。リントとレカルネラは今どこに?」


「あの船の中にいます。リントは体を休ませてて、レカルネラは()()部屋に拘束しています」


「そうか、スノウとリントはこのまま休んでてくれ。後は、()()に任せてくれないか」


「でも…!」


「子どもに迷惑かけっぱじゃ大人が廃る。俺や力に自身がある奴はレカルネラを囲みながら街に運ぶぞ。それ以外のやつは帰り道の捜索と他に攫われたのがいないかの確認だ」


そこからは早かった。

ロックの指示の元、大人たちがテキパキ動く。

レカルネラを軽々と担ぎ、洞窟の抜け道を探し出した。

ルミナも忘れずに




そうして一時間が経つとスノウはリントが休んでいる部屋を尋ねる。


「リントー。一時間経ったわ…って!」


ドアを開けて目にしたのは上半身裸で床で逆立ちをして動き回るリントの姿だった。


「おースノウ。もう一時間か」


「休みなさいよ!」


「いやー、じっとしてるのも性に合わなくて…」


「まったくあんたは…治るものも治らないわよ。それになによこの傷は」

「いたたたたた!そこだめぇ!!」


二人の仲睦ましい様子を見たアレタは楽しそうにクスりと笑った。


「スノウちゃん、リントくんこう見えても今全然平気で死にかけだからそっとしてあげてね」


「なおさら休め!」




バスが迎えに来るタイムリミットは残り30分もない。

ロック達の手助けを借りてなんとか洞窟の外にまでたどり着くと、さざ波の音と夜が明け朝を告げる太陽が昇っていた。


「あと数分でお迎えがくるわ。アレタ、本当にありがとう」


「こちらこそ、いい経験になったよ」


「アレタはこの後どうする?」


「特に決まってないけど…あと一週間だけシンヘルキに滞在してから別の場所に行くよ。他にやりたいこともあるしね」


スノウに支えられているリントは一つの提案をアレタにする。


「なあアレタ、よかったら俺達と一緒に旅をしてくれないか?」


それは今の旅の仲間にアレタを加えたいというリントの提案、というより要望だった。


「いいわね、それ。あんたと二人きりだったらいつ何されるか分かったもんじゃないわ」

「おい」


「嬉しい提案だけど…今は誰とも組むつもりはなくてね。また縁があれば僕達は出会えるさ。それに5日後はまだいるから会いに行くよ」


「そっか…ならしょうがないな。でもやっぱ仲間はほしいよなぁ」


「でもリントくんのそういう話は興味あるな。どんな仲間がほしいんだい?」


スノウから少し離れ、リントはその場に座り込み自身の小さな野望を語りだした。


「んーっと。まずは治療できる人だろ?後は物作れる鍛冶とか大工、地形や魔獣に詳しかったり…料理できる人とかもいいな!後は俺みたいな戦闘員も欲しいし…ま、大体どんな人でも欲しい!」


半ば投げやりな言い方のリントの話を聞いていたロックが近くに後ろに立つ。


「鍛冶はまだだが…大工だったら腕の良い奴がいるぜ。紹介しようか?」


「ほんと!また今度会わせて!」


早速仲間が一人増えそうな予感がしたが、さらに後ろからエンジン音と車輪が地面を駆ける音が聞こえてくると真横に急停車する。

それを見たロックは興味深そうにバスを見た。


「時間か…」


「アレタ、前に渡した変な模型。街の外れに刺しといてね」


「うん。じゃあまた今度」


「詳しいことはまた今度聞かせてくれよな、リント」


「もちろん、じゃあ行くね。ありがとうアレタ、ロックさん」


今回は強引に掴まれず、自分たちでバスの中に入り席に座る。

相変わらず乗り心地がすごく悪いがそれでも落ち着けるほど身体は疲れている。


そしてそのバスはハーモラルの美しい空へと昇って行った。



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